聞きたいことは色々41

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 夕飯を食べそこねたことは知っていたし、お家デートで映画をレンタルした流れでそのまま寝室で致したことも知っていたのか、乱れたベッドに対するコメントはなかった。それどころか全く気にならないらしく、前回と同じようにベッド端に腰掛けると、おいでと言わんばかりに両腕を広げて見せる。
 ただ、さすがにその腕の中に自ら収まりには行けなかった。
 いやだって、このベッドでアレコレしたという記憶はまだ生々しいし、恋人である彼にだって正面から抱っこされてヨシヨシなんてされた経験はないし、そもそも抱っこされてヨシヨシなんて行為は親相手ですら遠い記憶の中にしか存在しない。
 いやまぁ昨日、おいでと広げられた腕の中に自ら収まりに行ったのも覚えてはいるんだけど。でもあれはセックスのお誘いという認識だったし、今目の前に広げられている腕とは全く別のものだと思う。
「もしかして抱っこも浮気の範疇だった?」
 広げられた腕を避けるようにして隣に座れば、腕を下ろしながら困ったように笑う。
「いや、浮気以前に成人男性が抱っこされてヨシヨシって、って思っちゃって」
「あー、そこに抵抗あるかぁ」
 最近知り合ったばかりの、恋人のお兄さんってだけの男だもんなぁ。という自己分析に、そうですねとは返さなかった。だって抱っこされてヨシヨシが平気と思える相手なんか一人も居ない。
「誰が相手とか関係ないです。誰かに抱っこされてあやされる自分、ってのが受け入れがたいと言うかまず想像が出来ないと言うか」
「たとえば相手が恋人だとしても?」
「しないですよね?」
 なんせ昨日、映画を見ながらですらあんなに器用にこちらの性感を煽ってきたような相手だ。ただ抱きしめてヨシヨシあやしたり宥めたり出来るイメージが欠片もない。
「いやあいつの話じゃなくて」
 今後甘やかしたがりの恋人が出来たと仮定して、それでも成人男性が抱っこでヨシヨシされるのなんて変だって言って拒むのかと聞かれて、それに肯定は返せなかった。
「それは、嬉しい、かもしれません」
「うん。じゃあやっぱ、俺との関係がまだ、抱っこしてヨシヨシに抵抗ある段階ってだけだよね?」
「そ、ですか、ね?」
「うん。だってね、大人になっても、男でも。誰かに甘えたい時はあるし、甘やかされて癒やされるのは普通だと思うし、ハグは優秀」
「ハグは優秀」
「そうそう」
 思わず繰り返してしまえば、相手が可笑しそう頷きながら笑う。
「御飯食べる前に一回ハグしたでしょ。あの時、ちょっとだけだけど笑ったの覚えてる?」
「覚えてます」
 つい先程の話だし、笑えてるなら大丈夫、みたいなことを言われてその腕から開放されたのも印象的だった。というかもしかして、あれも抱っこされてヨシヨシの部類に入るんだろうか。だとしたらそこまで身構えたり抵抗感を覚える必要はないのかもしれない。
 いやでも流れで抱きしめられてしまうのと、広げられた腕に抱っこされに行くのではやはりかなり違うような気もする。
「じゃあその時以外、一切笑ってなかったのは? 覚えてる? というか自覚ある?」
「覚えて、ない、です」
 言われてみればそうだったかも、くらいの自覚ならあります。と続ければ、そうだったんだよと、少し強い口調で断定されてしまった。どこか憤りややるせなさを感じるような、苦しげな声だったようにも思う。
「ご飯は食べれてたからとりあえずそっち優先したけど、ほんと、見てられなくて」
 一転して弱々しい声になってしまって、思わずすみませんと謝ってしまえば、悪いのはどう考えても君じゃなくてアイツだから謝罪なんか要らないんだけど、と言いながらもじっとこちらを見つめてくる。
「えと……」
「つまり、謝罪は要らないけど、どうしてもハグはさせて欲しい。さっき抵抗されなかったから、多分、そこまで心情的に俺に拒否感抱いてるわけじゃないと思うんだよね。今も、手ぇ伸ばして抱きしめちゃえば諦めて抱っこされてくれそう、みたいに見えてはいるんだけど、でもちゃんと君の口から許可が欲しい。もしくは、君から抱っこされに来て欲しい」
 こちらに体を向けた状態で再度腕を広げられて、やはり躊躇う気持ちはあるのだけれど。
「ハグは優秀?」
「そう。ハグは優秀だから」
 お願い抱きしめさせて、という柔らかに響いた声に抗いきれず、広げられた腕の中に身を倒した。

続きました→

 
 
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