聞きたいことは色々42

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 一度ギュッと抱きしめられた後はすぐに腕の力が緩んで、宥めるみたいに背中をさすりだす。
 性の匂いがない他者との触れ合いは、想像以上にホッとしたし嬉しくもあった。自身の性指向を自覚してからは友人らとの他愛ない接触にも怯えて避け気味だったけれど、もしかしたらその反動とかもあるのかもしれない。
 でも同時に、この腕が恋人のものではないことが苦しくもあった。恋人が出来たら、こういう触れ合いも普通にできるんだと思っていたせいだ。
 恋人相手なら抱っこであやされるのもきっと嬉しい。そう考えた事で思い出してしまった。
 ファーストキスから何もかも、思い描いていた恋人らしいことが出来ていないことを、またしても突きつけられるような思いだった。
 なのに恋情だけはしっかり育って、想いが返らないのがわかっているのに、自分から相手を振って離れることも出来ない。
 お兄さんの協力を得れば、次の恋人は探せるかもしれない。引きずる失恋も了承済みの恋人候補を探し出してくれるかもしれない。とは思うんだけど。
 でもこの好きを抱えて次の恋人を探すのにはやはり抵抗があるし、自分から振ったら相当な未練を残す自信しかない。
 振られたらさすがに諦めるしかないんだけど。さすがにそうなったら縋ったりせず引くつもりだけど。
 現状相手にその気がなさそうなのも、それどころかこの関係の維持を望んでくれているのも明白だから。それを振り切って好きな相手を自ら振るのなんて、無理だとしか思えない。
 色々詰んでるのでは、みたいな気持ちもあって、そんな中であれこれと気を遣ってくれる人が居るのは本当に有り難かった。たとえそれが、愛した男の甥っ子で戸籍上でも弟である彼の、恋人をフォローしなければという気持ちからくるものであっても。
 過去には彼やその恋人たちを交えたセックスを受け入れていたような人だし、価値観は明らかに違うっぽいのに。でもスルッと寄り添ってくれるから。彼よりもよっぽど自分を理解してくれていると感じてしまうし、彼の言葉よりもこの人の言葉のほうがスルリと飲み込めてしまう。さらに言えば、こちらを案じてくれる気持ちもそれを表す言葉や態度も、真っすぐで凄くわかりやすかった。
 今現在この身を優しく包む腕の中は、思いやりと優しさでいっぱいだ。想いがない恋人との触れ合いばかりを重ねてきた身には色々と沁みるものがある。
 もし最初からこの人が恋人だったら……
 なんて、そもそも彼と恋人関係にならなかったら出会うことすらなかった人なのに。案じてくれる気持ちは恋情とは別物で、この人には忘れられない特別な人が居て、それがわかっているから身をあずけることが出来ているのに。
 ついそんなことを考えてしまったのもなんだか苦しくて、そっと相手から身を離す。たいして力のこもっていなかった腕の中から抜け出るのは簡単だった。
「やっぱり嫌だった?」
「いえ。ただその、やっぱりこれも浮気かも、みたいな気持ちになっちゃって」
「んん〜浮気判定厳しぃ〜」
 じゃあ仕方ないねと軽く肩を竦めるだけで済ませてくれるから、素直に好意だけを受け取れない自分が悪いのにと、ますます申し訳なくなってくる。
「すみません」
「や、別にいいと思うよ。そもそも俺は君をセックスに誘った実績持ちだし、君だって恋人が居なかったら応じてくれる気があるわけだし」
 そんな二人がベッドの上で抱き合うことに警戒心が湧くのもわかるよと納得されてしまったが、そんなことは全く考えていなかったし、相手に対する警戒心で身を離したわけでもないので少しばかり焦ってしまう。
「や、そんなんじゃなくて。ただ、こういうの恋人とするの憧れてたなぁみたいなのを思い出しちゃって、なんかその、これ以上はダメだ、みたいな」
「ん? それはもしかして、俺を意識しちゃったっていう報告?」
「や、違っ……」
 違わないかもしれないけど、それは認めちゃダメだろう。そう、思ったのに。
「本当に? 恋人とこういうことしたかったなら、いっそ俺とも恋人にならない?」
 あいつとも恋人続けたままで構わないし浮気って言われないようにするから、と続いた言葉に思いっきり混乱した。

続きました→

 
 
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