だって亡くなった旦那さんのことを今も想っていて、だから恋人を作る気はないって話だったはずだ。
それに、恋人として幸せにできる自信があったらとっくに彼から奪ってる、みたなことも言ってたような気がする。いやまぁ、幸せには出来ないから、彼との恋人関係はそのままでとか言ってる可能性もあるのか?
だとしたって。
「いやいやいやいや」
とりあえずで否定だけ多量に重ねてしまえば、やっぱダメかぁと可笑しそうに笑っている。
「もしかしてからかってます?」
「いやかなり本気の提案」
「恋人は作る気ないんじゃ?」
「それはそう。だからアイツから奪って君を俺だけの恋人にする気はやっぱりないんだけど、二番目として受け入れて貰えたら、間違いなくしてあげられることが増えるよね。というか、しんどいなぁって時に、浮気がどうとか考えずに甘やかされて欲しいって心底思ってるし、恋人としたかった色々で諦めちゃってるようなこととかを、俺が代わりに提供できたらいいなとも思ってる」
他愛ないイチャイチャとか、想いが返るセックスとか、と続いた言葉に、間違いなく気持ちは揺れてしまったけれど。
「そんなのされたら本当に好きになっちゃうから」
なんせ惚れっぽい自覚はある。友人を好きになったら困るからと、男友達とはなるべく二人きりで会うのを避けてきたくらいだし、相手に想いがないのを感じながらも、恋人って関係でデートとセックスを繰り返しただけで結局本気で惚れてしまったのが現状だ。
「俺のことも好きになってって話なんだけど」
「だからそれがダメっていうか」
そういや彼からも最初の夜に「好きになっていい」という言葉を貰ったんだよな、というのを思い出していた。
「もし好きになりすぎたら、今度こそ救いがないじゃないすか」
「んん? どういうこと?」
「俺が本気で好きになってあなたの一番になりたくなっても、俺だけを特別な恋人にしてくれるわけじゃないんですよね。そんなの結局、しんどい片想いが増えるだけです」
「なるほど。俺が二番目の恋人の座を得ちゃうと、君は俺の一番が欲しくなっちゃうと」
「好きになっていいよって言われたら、バカな俺は素直にどこまでも好きになっちゃうんすよ。好きになるのセーブできてたら、今こんな事になってないんですって」
好きになるのがセーブできるなら、友人に惚れてしまって気まずくなったり疎遠になったりせずに済んでた。好きなるのがセーブできてたなら、彼のことをあっさり振ることが出来てたかもしれないし、恋人を続けるにしてもきっとこんなに泣かずに済んでた。
今、多少なりとも救いになってくれている相手まで、そんな対象にしたくなかった。好きになってなんて言われたくなかった。
そんな遣る瀬無い気持ちを吐露してしまえば、そっか、という言葉とともに伸びてきた手が宥めるみたいに数度頭を撫でていく。
「じゃあ、大事にしてあげるからアイツ振って俺のものになる?」
「は?」
「俺が、俺のことも好きになってって言ったら、俺のこと好きになってくれるんでしょ。それが辛い片想いになるってわかってても、止められないんでしょ。だったらいっそ、奪っちゃうのもありかなって。それに、」
一度言葉を切ってじっと見つめてくる目がなんだか怖い。
「本気で俺の特別になりたいって思えたなら、その覚悟ができるなら、俺の特別をあげることも出来なくないよ」
「覚悟、って……」
「旦那に無理やりつきあわされて、とんでもセックスしてたわけじゃないのは知ってるよね?」
「はい」
「君の今の価値観だと俺の特別になるのは無理そうなんだけど、大事に大事に俺への好きを育てまくったら、そこ乗り越えてくる可能性あったりする?」
あるともないとも答えられなかったけど、無理ですと即答しなかっただけで、どうやら可能性アリと判断されたらしい。
「あと旦那は俺に抱かれたがらなかったけど、俺は俺の特別にはきっと抱かれたいって思うはずだから、俺に童貞食われる覚悟も必要かも」
どう? と聞かれてもやっぱり何も返せなかった。この人を抱く自分を想像することは出来ないけど、絶対無理だ嫌だという拒否感情は湧いてない。少なくとも、今はまだ。
「ムリムリムリ、とは言わないんだ?」
ガチネコちゃんなのにと言われてしまったし、それは確かにそうなんだけど。
「だ、って」
んふふと満足気に笑ったあと、スッと立ち上がってこちらに手を差し出してくる。よろしくって意味かなと思いつつその手を握り返せば、立ち上がるよう促すように手を引かれた。
「あの……?」
素直に立ち上がりはしたが、意図がよくわからない。と思ったのもつかの間。
「じゃあ取り敢えず宣戦布告しに行こうか」
随分と楽しそうに声を跳ねさせているから驚く。
「えっ!?」
「俺のほうが君の恋人にふさわしい、っていう主張をしに行くんだから、ぜひ君にも見てて欲しい」
「ほ、本気で?」
もちろん本気と返す声もやっぱり楽しそうで、どう考えても、彼がどう返答するかに興味津々って感じだった。
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