社内にも彼が把握しているゲイやバイの社員がいる、という話は初期に一度聞いていたけれど、どうやら近辺でゲイが集まれる場所なんか限られてるって話らしい。そういうお店やらが知り合いの性指向を知るきっかけ、ということもそこそこあるようだ。
デート先にもかなり気を使ってるとは言われたけれど、そういや知り合いに見つかる可能性なんか考えたこともなかった。正直にそう言えば、相手はあっさり知ってると返してくる。
「そこ気づいてたら外でキスさせないだろ」
最初から気づいてたらそうだったかもしれないけど、デート中に掠め取られるキスにドキドキすることをしっかり自覚済みの今はどうだろう。じゃあもう外でのキスも無しで、とは言えそうになかった。
「なるほどね。デートどうするかも擦り合わせが必要そうだ、というのはわかった」
というかそもそも、別れ話が成立してしまったら彼とはデートをすることがなくなるのか。
「まぁ初っ端から俺の趣味で振り回す気なんかサラサラないし、さっきも言ったけど、あげたいものがいっぱいあるの。まずはそっち優先したいから、デート先とかデートの内容とかもこの子の要望優先するよ。お前のお陰でこの子が満たされてない部分はっきりしてるし、お前よりはマシな恋人やれる自信しかないから」
だからこの子は俺が貰うねと言い切られた彼は、酷く嫌そうに顔をしかめている。
「というわけで、お前も了承ってことでいいよね?」
肯定も否定もないまま黙ってお兄さんを睨む彼は、何を思っているんだろう。
あんなに自信満々に自分のほうがマシな恋人になれると言い切られたら、そう簡単に否定なんて出来ないだろうとは思う。
つまり沈黙は肯定。彼との恋人関係はこれで終わってしまった。
そう思ったのはもちろん自分だけじゃない。行こうと肩を抱かれて、お兄さんと一緒に彼に背を向けた。
「待て」
「まだなにかある?」
隣のお兄さんが顔だけ振り向くのを、自分は追わずに前だけを見続ける。振り向いて彼の顔を見たくなかった。
「了承できない」
「なんで?」
「なんで、って」
「お前が執着したくなるほどいい子なのはわかってるけど、お前この子泣かすじゃん。もう手ぇ放しなよ」
「嫌だ。だってまだ俺を好きだろう?」
「そうだよ。だからこれは、お前より俺を好きになって貰おう計画なんだよ」
ちょっとでもこの子を想う気持ちがあるなら邪魔しないでの言葉にも、やっぱり彼の「嫌だ」が返っているから、またしても欠片も想われてない事実を突きつけられてるみたいで苦しくなる。同時に、お兄さんを説得できるような言葉を何も持たないまま、ただただ嫌だと抵抗する彼の執着を、嬉しくも思っているらしい。嬉しいことが、どうしようもなく、悲しい。
だぱっと涙が溢れてきて、どうやら涙腺は昨夜ぶっ壊れてそのままらしい。
慌てて涙を拭えば、すぐに隣のお兄さんにも気づかれて、やっぱり慌てた様子でギュッと抱きしめられてしまう。
「ゴメン。連れてこなければよかったね」
二人だけで決着つけるべきだったと謝られて、ゆるく首を横に振って、いいえと返した。
「ここまで嫌がられると思ってなかったから、それを見れただけでも良かった、です」
「俺は流石に、こんな駄々っ子じみた抵抗されるとは思ってなかったんだけど」
好きを知らないポンコツな弟でゴメンと謝られて、泣いているのにちょっとだけ笑ってしまった。
こんなに執着してくれてるのに、それを好きだからだとは言ってくれない。という虚しさに気づかれている。
「腹立たしいな」
不意に聞こえた彼の声はとても近くて、ビクリと体が跳ねた。だけでなく、背中を覆う熱を感じてそのまま体が硬直する。
どうやら背後から彼に抱きしめられた、らしい。お兄さんの腕が背に回ったままだから、つまりはお兄さんごと抱きしめられてるのかもしれない。
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