相手が不機嫌だって、車が動き出して早々に深いキスを仕掛けられたら、慣れた体はやっぱりあっさり反応してしまう。不機嫌でも手つきはそれなりに優しかった、というのもある。
体の力を抜いて甘えるように身を預ければ、さらに手つきが優しくなるから、多少は機嫌が上向いたのかも知れない。なんて、内心ちょっと安堵したんだけど。
「あの、」
「腰上げて」
「なんで?」
脱がすから、と続いた言葉に被せるように疑問が口からこぼれ落ちる。
「邪魔だから」
「なんで?」
そんな答えじゃ当然納得できるわけがなく、結局同じ言葉を繰り返す。
というか何をする気だ。という疑問は、返る答えを聞きたくなくて口にできなかった。
「気になるなら腰にバスタオル広げるくらいはしてもいい」
「嘘でしょ?」
「するな、とは言われてない」
「嘘でしょ!?」
思わず声を張り上げてしまったのは、運転席に座る男へ向かっての言葉だからだ。
「まぁダメではないけど。でも突っ込んでいいのは指だけね」
顔は前を向いたままだけど、あっさりそんな答えが返って血の気が引いていく。
「ほらな」
「む、ムリムリムリムリ」
「本当に?」
「当たり前」
「でも相手が俺じゃなくてあいつなら、本当に無理か試させるくらいはするんだよな?」
「それは」
「本当に無理そうだったらちゃんと止める」
いい子だから腰上げてと促されて、抗いきれないと諦めに似た気持ちになりながら、先にバスタオルが欲しいと要求した。
わかったと頷いて助手席に置かれていたカバンに腕を伸ばして手を突っ込んだ彼が、そこから2枚のバスタオルを引っ張り出してくる。だけじゃなく、ローションボトルまで握られてるのが見えてしまった。
前回どころか初回から助手席に置かれていたカバンには、エッチなことをするのに必要なアレコレが入っている。まだラブホを利用してた頃にもそのカバンは使われていたから、お兄さんの許可が出ればそのままラブホへ行けるようにって考えで持ち込んでるのかと思ってたんだけど。
前回、車の中でイカされるのに抵抗して、車の中を汚すかもという不安を口走ったら、そこからコンドームの箱が出てきて付けられてしまった。当然、今日のデートの前半でも、そこから出したコンドームが使われた。
だからローションが入ってるのはそこまで不思議ではないんだけど。でもまさか、バスタオルまで出てくるとは思わなかった。
バスタオルの片方を手渡されながら、再度の「腰あげて」って言葉に従えば、ササッとお尻の下にバスタオルが敷かれてしまう。手際が良い。
「ううっ、用意周到すぎ」
「狙ってたからな」
「そんなの狙ってないで、早く3人でちゃんとしよって方、頑張って下さいよ」
したいの? と聞かれる意味がわからない。早くしたいに決まってるでしょと返せば、最近は玩具でしかお尻イカせてもらってないらしいもんな、と冷えた声が降ってきて心臓がキュッと縮む気がした。
「なん、で」
また不機嫌スイッチが入ってしまったらしい。車の中で下半身を晒して、お尻をイジられる覚悟を決めたばかりだっていうのに。いい子だからって言ったときの声は多少なりとも甘さを含んでいたのに。だから、受け入れたのに。
「お前らが俺抜きでどんなセックスしてるかは全部聞いてる」
なんで知ってるの、なんて聞いてない。というか全部筒抜けなのは自分だって知ってる。
「じゃあわかってますよね」
「何を?」
「俺が玩具を受け入れてる意味、すよ」
3人でする時はちゃんと俺を抱いて下さいよと、「俺を」の部分を強調して告げた。
「あなたの恋人は俺なんですから」
こんな時だけ都合がいいことを言っている自覚はある。今の自分の恋人は目の前に居るこの人じゃなくて運転席の男なのに。
でも3人でする時にこの人に抱いて貰うための準備を頑張ってるのは本当だからいいよね、とも思う。ちゃんと抱いてもらえなくて焦らされてるのは事実で、だから早く3人でしたいって気持ちにさせられてるんだろう自覚もなくはないけど。
不機嫌な彼がどんな言葉を浴びせてきても泣かないぞって思いながら睨んでしまったけれど、少し驚いた顔を見せた後で笑い出すからこっちこそ驚いてしまう。
「何笑ってんすか」
「いや。お前に俺の恋人だって意識がまだあって良かった、と思った自分に驚いた」
なるほどね、と何かを納得した様子だったけれど、何を納得したのかは教えて貰えないまま、不機嫌を振り払って楽しげな彼にお尻を弄られまくってしまった。
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