聞きたいことは色々70(終)

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 昨夜はかなりあっさり解放されたからか、隣の彼が起き出す気配とともに目が覚める。
「も、朝ですか」
「珍しいな」
「疲れ切る前に寝たからっすよ」
「ああ、なるほど」
 このまま起きるのかと聞かれて、起きますと返して身を起こす。
「お兄さんからメセ返ってます?」
「ああ」
 手元のスマホを弄っている彼に問えば短な肯定が返る。どうやらお兄さん宛にメッセージを書いている途中らしい。
「起きたって送ったから、1時間もしない内に来ると思う」
 既読もついたと言われて、もしかして早起きして待っててくれたのかなと思う。
 元々お兄さんとは今日会う約束をしてたけど、当然それは彼とどうなったかの報告用だし、泣かされてヨシヨシされる可能性もあったから、帰りがけにお兄さん宅へ向かう予定になっていた。
 それをこっちに来てって方向に変更したのは、当然彼の自覚と昨夜のセックスが関係している。
 気持ちよくなる重視じゃなく、彼からの好きを堪能するようなセックスは、お互いに一度ずつイッて一旦終わりになったんだけど、普段はそんな簡単に終わらないから体力的にも精力的にも余力があった。
 もちろんそのまま2回目に入っても良かったし、2回目がキモチイイ重視でも良かったんだけど。翌日お兄さんと会う予定になっているからって、疲れ果てるようなセックスされた後でしかもちゃんと好きを貰えて満足してるなら、セックスする流れにはならない気がするし。
 というか彼が好きを自覚しようがしまいが、気持ちよくイカされまくって疲れ果てる前提だったから、気持ちをやり取りする穏やかなセックスでなんか色々満たされちゃう、なんてのを想定していなかった。
 そう。体力的にも精力的にも余力があるのに精神的に満たされてて、2回目したいって欲求があまりなかったし、それは多分彼もだったんだろう。
 でもこんなに余力を残して終わりにしたら、逆に翌日お兄さん相手にしっかりセックスする流れになるはずで、じゃあもういっそお兄さんを今から呼び出すか、なんて話もなくはなかった。まぁその案は、嫌だって言って蹴ったんだけど。
 もちろんお兄さんとだけしたいわけでも、3人でするのが嫌なわけでもなくて、彼と初めて気持ちをやり取りできたこの夜を、もう少し二人きりで過ごしたかっただけだ。
 たっぷり果てて気絶するみたいに寝落ちるのでもなく、じゃあ寝るかって背中を向けられるのでもなく、擦り寄って甘えて抱きしめてって言っても許されそうな気配があったから。というかそういうのを期待してるって正直に言ったせいで、お兄さんを今から呼び出す案はあっさり立ち消えた。
 その代わりで、朝から来てもらう案になって、朝ごはんを一緒に食べましょうという誘いの文句は、その後3人でセックスしましょうという意味が含まれている。
 それがわからない相手じゃないし、彼が好きを自覚できたってことも伝わっていると思う。
 きっと今、にこにこ顔でこっちに向かっている。
「せっかく目が覚めたから、朝飯作るの手伝いますよ」
「手伝うだけ?」
「どういう意味です?」
「俺はお前の手料理食べたことないんだが」
「手料理ってほどのもの作ったことないですけど」
 お兄さんは先に起き出して朝ごはんを作って待っててくれる人じゃないから、お兄さんに朝食を振る舞った経験は確かにある。ただ、食材好きに使っていいよって言われても、ほんと卵を焼くとかパンを焼くとか野菜ちぎって盛るとか、そういうレベル。
「てか俺としてはあなたが作ってくれる朝ごはんが食べたいですけど」
 お泊りした翌朝のご飯はちょっとした楽しみの一つなのに。って言ったら初耳だって言われて、そういや言ったことなかったかも知れない。
 想いがなくても好きって言ってもらえなくても、恋人としての特別扱いは色々あって、これもその一つだった。
 それを、嬉しいとか楽しみにしてるとか伝えなかったのは、伝えた後の反応が怖かったせいだ。喜んでくれるとか張り切ってくれるとかが全くイメージ出来なかったし、こちらを喜ばせたくてやってるようにも感じなかったというのも大きい。
「言ってなかったけどそうだったんです。てわけで俺はお手伝いで」
 朝ご飯楽しみだなぁお腹減ったなぁって催促すれば、諦めたみたいな溜息が聞こえてきた。
 やっと好きを自覚してもらった後でさえこの反応なんだから、ずっと言わなくて正解だった。と思ったところで、卵料理は何がいいかと聞かれて驚く。
「目玉焼き卵焼きオムレツスクランブルエッグ」
「って俺が選んでいいんすか?」
「文句もなく何でも美味そうに食うな、とは思ってたが、そういやお前の好みを聞いたことはなかったなと思って」
「甘い卵焼きが食べてみたいって言ったら作ってくれます?」
 甘い卵焼きが出てきたことはなくて、完全にしょっぱい派なのはわかっているから、言ったら試してんのかって少し嫌な顔をされてしまったけど。
「じゃなくて、卵焼き甘い派なんすよ。だからあなたが作る甘い卵焼きも食べれるなら食べてみたいなぁって」
 ダメですかって聞いたら再度溜息を吐かれてしまったけれど、その口からは「わかった」という了承が返った。
「やった!」
 多分お兄さんも彼が作る甘い卵焼きは食べたことないはず。少なくとも、卵焼きが出たらしょっぱい味付けだと思いながら口にするだろう。
「きっとお兄さんもびっくりっすね」
「そうか?」
「多分喜んでくれると思います」
「あいつ、甘い卵焼き別に好きじゃないだろ?」
「俺が甘いの好きなのは知ってますよ」
 しょっぱい派の彼が今日という日の朝に甘い卵焼きを作ることの意味を、自分以上に喜んでくれそうな気がする。
「ほんと、楽しみだなぁ」
 くふふと笑えば、すっと彼の顔が近づいてチュッと唇を吸っていく。
「ふぇえっ!?」
 こんなタイミングでキスをされるのはもちろん初めてで、焦って変な声を上げてしまった。
 というかなんで今? という気持ち満々で見つめてしまう先では、昨夜何度も見たあの目が愛し気に自分を見つめていて、ドキドキが加速していく。
「楽しみなのはわかったからもう行くぞ」
 本気で手伝う気ならお前も早く来いよと言い置いて出ていく彼を追いかけるには、少しだけ時間が必要だった。

<終>

やっとエンドつけることが出来ました。今回、内容的にも更新時間的にもかなりグダグダしてしまいましたが、最後までお付き合い本当にどうもありがとうございました。

 
 
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