煮えきらない大人2

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「昔、まずは大人になってから、って言いましたよね?」
「え、えっ、ちょっ……ええ〜」
 店長の息子だという彼が店に立つようになったのは中学に上がった頃で、一目惚れに近かった。ジロジロと眺めた挙げ句、その視線に気づいた彼に向かって、どうすればあなたの恋人になれますかとド直球に聞いたのだ。怖いもの知らずのマセガキだった自覚はある。
 クラスの女子なんかより初対面の男にトキメイている事実には自分自身かなり驚いたけど、でもなぜか、今すぐ意思表示しておかないと他の誰かに取られちゃう、って思ってしまった。
 その時に、子供と恋人になるのは無理だなぁと笑われて、まずは大人になるところから頑張ってと言われたのを、こちらは片時だって忘れてないのに。
「まさか忘れて、ってことはないですよね? だって俺のこと、ちゃんと意識してくれてるし」
「いや、いやいやいや」
「どういう反応なんですか、それ」
「もしかして本気、だった?」
「本気でしたけど。ていうか本気じゃないのに男相手に告白すると思ってんですか?」
「だって君がそれ言ったの、初回だけだよ? 初対面でそんなの言われて、本気にすると思うのってのもあるし、次会ったときは好きとか付き合いたいとか恋人とか一言もなかったから、若気の至り的な何かで衝動的に言っちゃった系って思ってた」
「それは恋人の条件がまず大人になれだったからでしょ」
 だって、しつこく告って困らせるのも、それで嫌われるのも避けたかった。初回の告白だけでも自分のことを覚えてくれたし、小さなデザートがオマケされたりのちょっとだけ特別な扱いをしてくれてたから、今はそれでいいって思ってた。
 大人が子供に手を出したら犯罪ってのを知ってからは、だから大人になれって言われたんだと思ったし、大人になるのを待っててくれてるんだって信じてた。意識されてるのがバレバレの態度に待たせて悪いなって思ってたし、早く彼が安心して手を出せる年齢になりたいとも思ってたし、高校卒業したらOKにならないかなって期待もしてた。
 その前提が今、目の前で崩れかけている。
 大人の定義が高校卒業なのか、二十歳なのか、就職したらなのかは考えてたけど、告白本気だったの? なんて聞かれる想定は欠片もなかった。
「てか本気にしてなかったなら、なんで、俺のことそんな意識してるんです?」
「し、てない、よ」
 さすがにそれは無理がありすぎる。じゃあなんで、定休日の今日、二人きりで特別メニューを振る舞われてるんだって話になってしまう。
「嘘ばっかり。てかあなたがお店手伝うようになってから、あなた狙いの女性客めっちゃ増えたって聞いてますよ。でも恋人居ない歴着々と重ねてるの、俺が大人になるの待っててくれてるからじゃないんですか?」
「いやいやいやいや」
「なんでそこ否定なんですか」
「だって幾つ違うと思ってんの」
「え、……7か、8、くらい?」
 実際どれくらい年齢差があるかなんて考えたことがないけれど、初めて会った頃の彼は専門学校に通いながら店を手伝ってるとかなんとか言ってたような記憶があるから、多分、20歳前だった。
「そんな若く見えてた? まぁチャラかった自覚はあるんだけど」
 苦笑した相手は、初めて会ったときにはもう25だったと続ける。
「ええっ!?」
 さすがにそれは想定外過ぎた。てことは、12か13は上ってことか。
「俺、大学出てるし、飲食全く関係ない会社に一回就職もしてんだよ。でも色々あってあっさり退職しちゃってね」
 そしてその後も何やら色々あって、結局親の店を継ぐことにしたらしい。
「あー、まぁ、思ったより年食ってるのはわかりました。でもそれってそこまで問題ですか? 俺は別に、あなたが幾つでも、そこまで気にしないですけど」
 言っても相手はうーんと唸っている。
「てか問題って年齢差だけなんですか? 本気にしてなかったってなら、男はない、とか言われる可能性もあるのかなって、思ってるんですけど」
「あー……それは問題ないっていうか、さっき言った色々あったの中に、俺がゲイってのも含まれてるんだよね。女性客増えようが恋人居ない歴重ねてんのもそれのせいっていうか、君が大人になるの待ってたからってわけじゃないっていうか」
 なんとも煮えきらない態度で、いまいちはっきりしない。
「とりあえずはっきりさせたいんですけど、俺のこと、好きですか?」
「そりゃ、嫌ってたらこんなお祝いしないよね」
「そういう言い方ずるいですよ。じゃあ俺のこと、抱けそうですか? それとも元々ゲイなら抱かれたい側です?」
「うん、だから、そういうのはね。一回りも年下の子相手に、手なんか出しちゃダメでしょ、って」
「出来るのか出来ないのかを聞いてるんですけど。ちなみに俺は、ゲイだなんて知らなかったから自分が抱かれる側になればいいって思ってましたし、抱かれたいって言われる想定はなかったです。まぁ、抱かれたい側って言われても諦める気ないんで頑張りますが」
 諦める気がないと言い切ったからか、相手が酷く困った様子で、抱かれたい側じゃないから変なこと頑張らないでと言う。でも抱けるのかって部分は結局うやむやにするらしい。まぁうやむやにして無理ってはっきり言わないあたりが、抱けるって意味なんだろうけど。
「ていうか、本気って思ってなかったから、もうちょっと考えさせてほしいんだけど」
 せっかく作った料理が冷めちゃうからと言われたら、さすがに了承を返すしかない。それに想定外の話を色々と聞かされたこっちも、今後に向けて対策を練り直す必要がありそうだ。
「そうですね。じゃあ一旦この話は終わりにしますけど、成人年齢下がって成人済みだし、もう大人になったってことで、今後は俺ももっと本気で恋人狙っていきますから」
 それだけ宣言して、頂きますと手を合わせる。対面では、困っているような諦めているような、そのくせどこか嬉しそうでもある、なんとも言い難い顔をした相手が、成人は二十歳でいいのになぁとぼやいていた。

続きました→

「大学生くらいの受けと一回り以上年上の攻めで、いい歳してこんな年下の子に手を出すのは流石に…と葛藤している攻めと、大人って大変だな…とそんなモダモダしてる攻めを観察してる受け」の再チャレンジです。
年下すぎて手を出せない攻めは想像しやすかったんですが、惚れられてるのわかってて観察するだけで待ってられる大学生受けが想像できなくて、こんな形になりました。
これ、大学合格報告した日とか、もっと前の一人でこそっと訪問した日あたりを書いたら、もうちょっと攻めを観察してる話になりますかね?
そうすると今度は「大学生くらいの受け」から外れちゃうかな〜って気もして、ううーん難しい。
一応次回、ちょっとそっちもチャレンジしてみようかと思います。

 
 
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