煮えきらない大人3(終)

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 通学定期を手に入れた後は、可能な限りカフェに通う生活になった。とは言っても、当然、連日入り浸りというわけには行かない。
 小遣いは限られているのでバイトはしなきゃ資金が足りないし、でも、ここでバイトしたいという提案は、人手は足りてるとあっさりお断りされている。
 なので曜日や時間帯をあれこれ変えながら、なるべく週に1回は訪れるようにしていた。そしてタイミング良く店長不在かつ自分以外の客が居ないとき、つまりは店内に二人きりのときだけ、隙を見て「好きです付き合ってください」という告白を繰り返してもいた。まぁ、返事は変わらず「もうちょっと考えさせて」で逃げられているんだけど。
 ただ、いつまで待つのが妥当なのかの判断が難しい。
 今までまともに意思表示もしないまま、いつか大人になったら付き合えるという未来を勝手に思い描いていたのは事実なので、とりあえずはっきりと意思表示を続けよう、くらいのつもりで繰り返す告白を、多分、相手は楽しんでいる。だって考えさせてってお断りしてくるくせに、困るとか迷惑とかって素振りはなくて、どこか嬉しそうな気配まで滲んでいる。
 まぁ相手が楽しいならいいか、なんて思える余裕はさすがにない。むしろ、嬉しいならさっさとOKしてくれって気持ちが膨らむのは当然だと思う。
 脈はありまくりなのに、進展する気配がない。という事実には間違いなく焦らされていた。
「あれから半年ほど経ちますけど、まだ、考え中ですか?」
「え?」
 驚いたような声を出されたのは、告白タイムは帰る間際のことが多いせいだろう。今日は、ドリンクを運んできたその場で、立ち去る前の彼を引き止めるように声をかけている。
「好きです、付き合ってください。でも今日もまた、考えさせてって逃げるつもりですよね?」
「あー……怒って、る?」
「怒ってはないですけど焦らされてキツくなってるとこはあります。だからせめて、あとどれくらい考えれば答えが出そうか、教えてほしいです。というか二十歳になったらと思ってるなら、あと1年待ってって、言って欲しいです」
 正直に言えば、この前誕生日を伝えたときに、そう言ってもらえるかなと期待していた。普通に、じゃあお祝いねと言われて、カットケーキがサービスされて終わりだった。
「あー……」
 この話題を持ち出すのは店内に二人きりのときだけ、と相手もわかっているだろうに、困ったように店内を一度ぐるっと見回したあと、相手は観念した様子で対面の席に腰を下ろす。しかしその様子から、とうとうOKが貰える、という期待はまったく湧き上がってこなかった。それどころか、困った顔を崩さない彼を正面にして、不安が膨らんでいく。
「やっぱ、今の状態を続ける気はもうない感じ?」
「ええ、まぁ。でも期限切ってくれるなら、待てます。その日が来るまで、今まで通り告白続けてって言われるのは構わないです」
 返答がずっと「考えさせて」から変わらないのが、とにかくキツい。
「そっか。じゃあ正直に話すけど、答えはもう出てる。お付き合いは出来ないよ」
「はぁ!? ちょっ、えっ、なんで!?」
 意味がわからないと言えば、ごめんねと謝られてしまった。謝られたいわけじゃないのに。
「理由は? てか告白するたびあんな嬉しそうにされたら、絶対脈アリって思いますよね?」
「理由は前に言ったのと一緒だよ。歳が離れすぎてて、お付き合いが上手くいくイメージが全然持てないっていうのと、一回りも年下の真っ更な子に手ぇ出せる気がしないから。で、脈アリって思わせたのは申し訳ないけど、実際嬉しかったし、この状態でいいって言ってくれるなら、可能な限り引き伸ばしてたかったんだよね」
 いつ追求されるかなと思ってたけどここまでかぁと、相手は残念そうに苦笑している。
「期待持たせて焦らして引き伸ばしてたの事実だし、嫌われる覚悟は、できてる」
「いや、嫌いになったりしませんけど。あと諦める気もないですけど」
 とっさに口に出せば、相手は呆気にとられた顔になる。
「えっ……」
「だって俺と付き合いたいって、本音のとこでは思ってますよね? だから嬉しそうな顔するんですよね? 本当に嫌われる覚悟ができてる、って言うなら、付き合いましょうよ。とりあえず付き合って、うまく行かなくて、喧嘩とかするのもいいんじゃないですか。嫌われてもいいって思ってるなら、怖くないでしょ? もう無理って、俺に思わせたらいいじゃないですか。もちろん俺は、そうならないように頑張りますけど」
 呆気にとられた顔が、嫌そうに歪む。喧嘩してもう無理って言われる想像でもしたんだろうか。
「ちなみに、お付き合いしてみた結果、情けないとことかダサいとことか見せられても、一回りも年上なのに気持ぃセックスして貰えなくても、それで幻滅する予定もないです」
「ちょ、待って待って待って。なにそれ?」
「いやなんか、もしかしてうまく伝わってないのかな、みたいな気がして」
 嫌われる覚悟があるなら付き合えばいいと説きながら、嫌われて離れていくのは許容できても、幻滅されたりを恐れてる可能性があることに気づいてしまった。年の差をかなり気にしているから、付き合ってボロを出したくないのかも知れない。
「うまく伝わってないって、なにが?」
「ほとんど一目惚れだったの事実だし、カッコイイって思ってるのも事実だけど、別に、カッコイイ年上彼氏が欲しいなんて理由で、付き合ってって言ってるわけじゃないんですよ。ってのが」
 え、違うの。という声は聞こえてこなかったけれど、間違いなく、そう思っている。
「だって、カッコイイ年上彼氏が欲しいなら、その条件に合う別の誰かでもいいって話になるじゃないですか。しかも元々は7か8くらいの差だと思ってたわけだし、条件で選ぶなら一回りも年上の相手、わざわざ選びませんって」
「そ、っか……」
「で、ちょっとは前向きに考えてくれる気になりました?」
「う、あ、でも……」
 まぁここであっさり頷いてくれるような人なら、ここまで焦らされることなくとっくにOKされてるんだろうけど。でもちょっとは進展した気がするので、今日のところは良しとする。
 返す言葉を探して口ごもる相手を見ながら、運ばれてきたドリンクにようやく手を伸ばした。

高校時代の一人訪問話を書いてみたらやっぱりイマイチで、まるっと書き直して結局大学入学後の話になりました。多少リクエストに寄れた気がするので、このお話はここまでにしたいと思います。
リクエストどうもありがとうございました〜

 
 
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「煮えきらない大人3(終)」への4件のフィードバック

  1. お題って言われてもなあ。
    いっつもすっごく面白く読ませて頂いているばっかしで。
    よくこんなの考えられるなあ、と思うばっかしで。
    これからもレイさまの御心のままに。

  2. リクエストくださった方でしょうか。
    今回、再三に渡るチャレンジ&難しい〜とかも言ってしまったので、気にされていたら申し訳ないです。
    普段思ってたのと違うものを書いてしまっても、まぁいいかでとりあえず出して終わりにしちゃうのですが、今回は絶対もっとリクエストに寄せれるものが書けるはずなのになぁ〜という気持ちが大きくて(今もまだちょっと思ってます)試行錯誤しまくってしまいました。でも試行錯誤するの、めちゃくちゃ楽しかったので!
    実は、あれこれ試行錯誤しまくったおかげで色々な気づきも有りましたし、年の差カップルについてもかなり模索したので、それらは今後の創作に活かせるなぁと内心ホクホクしてたりです。
    なのでリクエストいただけて本当にありがたく思っていますし、もしまたリクエストを募集することがありましたら、懲りずにこんなのどうよと言ってもらえたら嬉しいなと思います。

  3. なんか申し訳ありません。お気をつかわせてしまったようで。
    そんな、リクエストができる能力など持ち合わせておらず、です。
    只々楽しく読ませて頂いているばっかしです。
    レイさまの才能にひれ伏すばかりです。
    これからも思うままに書いていってくださることを願っております。
    ひとつ感想言っていいですか?
    主人公達が自分の気持ちがはっきりわからず、あるいはわかっていても敢えてはっきりさせるのが怖いのか、ウロウロ、グダグダ
    悩むというか、うろうろ、ぐだぐだするところが大好きです。
    そんな人間の弱い所、ずるい所をこんなに上手く表現できるなんて。そこに人間愛も感じさせられて。
    きっと、レイさまがきれいな心をお持ちなのでしょう。読後に嫌な気持ちになったことがありません。どんなシチュエーションにおいてでも、です。
    これからも御心のままに。

  4. 悩ませるようなリクエストしなきゃよかった〜的なコメントかと早とちりしたようですみません。
    リクエストはホント気軽に参加くださって構わないので、気が向きましたらぜひ!

    感想もありがとうございます。
    視点の主がウロウログダグダすると文字数かさみまくるので、もっと短くまとめる力が欲しいな、みたいに思うこともあるんですけど、結局そうやってウロウログダグダする子たちが好きなのと、長くなっても読んでくださる方が居るのを知っちゃってるせいで、書くのやめられないんですよね。
    なので、そういうところが好き、と言ってもらえるととても嬉しいです。
    読後に嫌な気持ちにならないって言ってもらえたのも、ホッとします。ありがとうございます。
    ただ、きれいな心というよりは、どっちかっていったら性癖に近いものじゃないですかね?
    ハピエン厨とか光の腐女子とか、そういうタイプに属しているんだろうなって思ってます。

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