家族の話や生い立ちなどの、踏み込まれたくない時に見せるのと同じ顔をしてると指摘されて、そんなにわかりやすく顔に出ているなんて知らなかったなと思う。だからいつも、さっと察して話題を変えてくれるのか。
あれこれ顔に出る相手を素直な人だと思っていたけど、あまり人のことは言えないのかも知れない。でもこんな指摘、人からされるの初めてなんだけど……
と思ったところで、そんな指摘を受けるほど他者と長く時間を共有したことがないせいか、と気づく。2年間、ほぼ毎日顔を合わせて一緒に食事をしてきたのだ。家族とだって、こんな生活はしたことがない。
「もしご家族の許可が得られたら、おれとの結婚を考えてくれたりする?」
「は?」
「だっておれ自身に何かがあってお断りされてるわけじゃないなら、周りの障害を取り除いていったら、いつかはOKして貰えそうじゃない?」
うーん、前向き。と思わず呆れてしまって、泣きそう、なんて思ってた気持ちが霧散する。
いやまぁ、この人のこういうとこに多分かなり救われているし、だからこそ惹かれてもいるんだろうけれど。一緒にいると、嫌な気持ちを引きずることが少ない。
「家族の許可が欲しいなんて思ってないす。ただ、祖父さん死んで俺が家戻るって思ってるっていうか、俺の大学生活にちょっかい出さないようにしてくれてたのも、多分祖父さんなんすよ」
自分の学費と同じかそれ以上、弟に援助してる可能性が高いはずだ。だから渋々ながらも口出しせずに放置しててくれるのだと思っていた。
遺産がどれくらいあったのかは知らないが、それで賄いきれる問題かはわからない。
「うちのゴタゴタに、アンタを巻き込みたくない、す。金持ってる男を恋人だの伴侶だのにしたなんて知られたら、アンタにたかりに来るかもだし、弟がアンタに何するかちょっと想像つかないっていうか……」
「ああ、そういう感じか。というか弟さんが危害加えに来そうな感じ?」
お兄ちゃん子なの? と聞かれて、全然と首を横に振ったものの、どう説明したらいいのかわからない。うちの王様なんですよ、なんて言って通じるとはとても思えなかった。
「あー……弟にアンタ取られたら、さすがに俺も立ち直りにどれくらいかかるかわからないな、みたいな?」
そんなことするとは思えない。と言い切れないのが弟の怖いところだ。自分の利がデカいと判断すれば、兄の恋人を奪うことに躊躇なんてしないと思う。
でもって、それが可能なくらいに、弟は多くの他人にとって魅力的な人物だ。ということを、自分は知ってしまっている。
「え、さすがにそれは……」
「ないって言い切れないくらいには、凄い弟なんですって」
「実際に会ったことがない以上、絶対にないから信じて、は信じてくれそうにないよね」
「まぁ、そっすね」
うーん、と腕を組んで悩み始めてしまった相手に、夕飯冷めますよと声を掛けた。今更という気もするくらい、とっくに冷めきってるけど。
「あ、ああ、ごめん。お腹減ってるよね」
食べようと言って箸を持った相手が、いただきますを告げるのに合わせて、自分も再度いただきますと唱えて箸を取る。
その後はいつも通りというか、さっきまでの結婚云々とは全く関係がない雑談ばかりで過ごした。
いつも通り、後片付けを済ませ明日の朝用の米を炊飯器にセットして、じゃあまた明日と玄関に向かえば、いつも通り後を追ってきた相手が、いつもならまた明日と応じるところを、何か言いたげに見つめてくる。
「なんすか?」
「あのさ、さっき肝心なとこ聞きそこねたんだけど」
「はぁ、なんすか」
「その、君もおれのことが好き。……って、思ってても、いい?」
「あー……」
「今はまだ、おれとの結婚を検討出来ない、ってのはわかったけど。でも俺を想う気持ちが全くなかったら、ああいう断り方は、君ならしない。……よね?」
「そ、っすね」
「じゃあ、君もおれを好きってことで」
一応、いいよね? と疑問符付きで問われる形ではあったけれど、眼の前にあるのは、ダメと言われることを想定している顔じゃない。期待に満ちた顔は、いいですよという肯定待ちというよりは、こちらからの「好き」を待っているように見えて仕方がない。
「あー……好き、です。俺も、アンタが」
観念してそう告げれば、相手は、嬉しそうに笑って良かったと言った。その笑顔が近づいて、慌てて目を閉じたけれど、チュッと小さな音を立ててその唇が触れたのは額だった。
玄関の段差はあるが数センチだし、喪服が借りれるくらい身長にそう大きな差なんてないのに。つまり、わざわざ伸び上がって額を狙ったってことだ。
「え、なんで口じゃないんすか? プロポーズまでしといて、まさか未だにガキ扱いすか?」
「え、いや、そんなつもりは……」
いいの? と聞かれて、何をいまさらと返せば、今度こそその唇が自身の唇に落とされた。
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