「煩っっ。つかんなデカい声で叫ばなくたっていいだろ」
嫌そうに眉を寄せられたが、大げさなのはこちらの反応ではなく、わざわざ耳をふさぐ仕草までしている弟の方だと思う。
「いや叫ぶだろ。何言い出してんだお前」
「何って、兄貴が男に抱かれたいなら俺が抱いてやるから俺でいいだろって」
「いやいやいや。お前が言ってること、1ミリもわかんねぇから」
「あーもー面倒くせぇな。いいから俺のものになっとけよ」
なるわけないと口を開くが、それより先に、あんなオモチャより良い思いさせてやるから、と続いた言葉に、出かけていた言葉が喉に詰まった。
「なっ、わっ、お、おまっ、えっ、おもっ??」
混乱も相まって、何を言えば良いのかもわからない。
「何そんな驚いてんの。彼女居るとも思えないし、あれってやっぱ兄貴が自分に使う用、だろ?」
語尾に疑問符は付いているようだが、言い方が紛れもなく断定だった。弟はもう、そう確信している。
あれ、と言いながら弟の視線が向いた先は押し入れで、そこにはアナニーに使うアレコレが仕舞ってあった。中には、無駄遣いと思いながらも、誘惑に抗えず買ってしまったディルドもある。
だから弟の言うところの「あれ」が何を指すかはわかったが、わかったところで混乱と動揺が治まるはずもない。というか知られたという事実に動揺は間違いなく増した。
「おま、おまっ、なんでっ」
「マジで布団これっきゃないのか確かめた」
「う、うそつけっ」
無造作に剥き出しで置いていたとかならまだしも、ちゃんとモロモロ一式箱に入れてあるのに。わざわざそれを開けて中身を確かめなければ、あの発言は出てこない。
「なに? 知られたくなかった?」
「当たり前、だっ」
「顔真っ赤なの、恥ずかしいから? それとも惨めなの?」
泣きそうという指摘と、弟のからかうみたいなニヤけた顔に、鼻の奥がツンと痛んだ。じわっと視界が滲んでいく。
「抱いて貰えなくて一人寂しくオモチャ嵌めてたんだもんなぁ」
恥ずかしいし惨めだよなぁとしみじみ言われて、胸が苦しい。
一時的にスッキリはするけど、抱いて貰えないからこんな真似をしているという事実は惨めで、オナニーにアナルを使うのが普通じゃないこともわかっている。だからそんなこと、しみじみと指摘しないで欲しかった。
「いう、なっ」
「だから俺にしなって。ちゃんと優しくしてやるし、気持ちよくもしてやるから」
そっと目元を拭っていく指先は確かに優しかったけど。
「ぜってぇ無理。ヤダ。お断り、だっ」
その手を振り払って身を捩る。どうにか弟の下から抜け出せないかと藻掻く。しかしあっさり両手首を掴まれて、仰向けに押さえつけられてしまった。
覆いかぶさるように見下ろしてくる弟は、呆れと苛立ちを混ぜたような顔をしている。
「はぁ、もう、ホント面倒くせぇな」
優しくしてやるっつったのに断ったの兄貴だからな、なんて宣言と共に、ガブリと口に噛みつかれた。勢いほど衝撃も痛みもなかったけれど、少なくとも心情的には、紛れもなく噛みつかれている。
「んーっ、んんっ、んうっ」
唇をしっかり引き結んで弟の舌の侵入を拒みながら、押さえられた腕ごと身をゆすり、バタバタと足を動かし抗う。
「ちっ、もったいぶってないで口開けろって」
小さな舌打ちと共に促されても従うはずがない。しかし、更にしっかり口を閉じて強気で睨み返すくらいしか出来なかった。
「ちっ」
弟は再度舌打ちしたあと、掴んでいた両手首を頭の上で一纏めにし、空いた片手で顎を掴んでくる。
強引に口を開けさせる気だとわかって、必死に首を捩って逃れようとしたその時。
ドンドンドンと激しく玄関ドアを叩かれて、弟の手から力が緩んだ。
「おいっ、開けろっ! 開けないと警察呼ぶことになるぞ」
外から聞こえてくるのは間違いなくお隣さんの声で、でもいつになく口調が厳しいと言うか、こんなに声を荒げているのは初めてかも知れない。
思わず二人して玄関を見つめてしまったが、激しくドアを叩き続ける合間に、開けろ開けろとお隣さんが訴え続けている。
「おい、退け。このままだとマジに警察来るぞ。つか早く止めないとご近所さんが集まってくるぞ」
まぁ本当にここまで来るのは階下の老人くらいだろうけれど、お隣さんが呼ぶ前に、ご近所経由で警察が呼ばれてしまう可能性だってある。
弟もさすがに諦めたらしい。溜め息一つ落としたあと、やっと腰の上から退いてくれたので、急いで玄関に駆けつけて鍵を開けた。
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