親切なお隣さん23

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「う、わっ」
 鍵を開けた途端に外側からドアを引かれて、半ば引きずり出される形で廊下に出れば、お隣さんと目があった瞬間にぎゅっと抱きしめられてしまう。
 良かった、と呟くお隣さんの声は、先程までの厳しい口調とは打って変わって弱々しい。
 こちらからも一度ギュッと抱き返したけれど、でもそのまま抱きついてはいられない。だって階段を上がってくる足音が聞こえている。
「ダイジョブなんで放してください」
 トントンと背中を叩いて促せば渋々とだが開放されて、でも庇うみたいに背中側に追いやられてしまう。だけでなく、お隣さんがサッと階段へ向かっていく。
「お騒がせしてすみません。もう大丈夫なので」
 階段の下方へ向かって少し大きめの声でそう告げるのは、先程の騒ぎを聞いていたご近所さん向けでもあるんだろう。応じる声はやはり斜め下に住む老人の声だったが、弟の来訪を知らないからか、どうやら自分たちが喧嘩したと思われているらしい。
 お隣さんはそれを曖昧ながらも肯定してしまったので、珍しいなと驚かれたり、仲良くしろよと諭されたりしているのを苦笑しつつ聞いていたが、さすがにそろそろ寒さが辛い。なんせ風呂上がりで後はもう寝るだけって状態から部屋を飛び出ている。ついでに言えば、足元は裸足で靴すら履いていない。
「あの!」
 自身の身体を抱きしめるみたいにして腕を擦っていたので、振り向いたお隣さんはすぐに察してくれたようだ。
「ごめん。寒いね」
 すぐに会話を切り上げ戻ってくると、抱き寄せるように肩に腕を回し、部屋に戻ろうと促される。その先はもちろんお隣さん宅だ。
 弟とのアレコレで受けた衝撃とその後の寒さとで、やはり随分と緊張していたらしい。玄関に入ったところで、部屋の暖かさと安心感にへたり込みそうになった。
「おおっと」
 すんでのところでお隣さんに支えられてどうにか立っているけれど、でもこのままじゃ部屋には上がれない。
「ありがとうございます。もダイジョブなんで」
 お隣さんの腕から逃れて手近な壁に寄りかかりながら、それよりも足を拭くものが欲しいと訴える。早く部屋に上がりたいとも付け加えれば、わかったと急ぎ足で風呂場方向へ消えていく。
 暫くして戻ってきたときには、温かなタオルが握られていた。
「じゃあこれで足拭いて。服は? どっか汚してない?」
「服は平気、す」
「そっか。部屋、もうちょっと温めてこようか」
「いや良いっす。充分温かいんで。てか今日ってここ泊まっていいっすよね?」
「もちろん。というか何があったか聞いてもいい? それとも聞いて欲しくない感じ?」
 揉めてる気配ははっきり伝わってきたけど内容まではさすがにわからなかったから、知られたくないなら聞かなくてもいいよと、こんな時までちゃんと気を遣ってくれるから、逆に知って欲しくなる。というよりも、いい加減、自分自身も知りたいのだ。
 だってお隣さんと付き合ってるとか恋人だとか、はっきり言い切れる関係だったら。デートやセックスを経験済みだったら。
 自分でお付き合いは無理だと断ったくせにそう考えるのを止められなくて、キス以上を求めてもらえないのが切なくて、自分で自分を慰める夜が虚しくて、まんまと弟にその隙を突かれた形になってしまった。
 お隣さんを自分の家族の問題に巻き込みたくはなかったけど、弟にはかなり余計なことまで知られてしまったから、もうすでに巻き込んでしまったと認定して、今後のことを相談したいって気持ちもある。
 弟はお隣さんを貧乏人って思ってるし、嫌われたと言わせるくらいお隣さんには愛想の欠片も見せてないし、お隣さんよりも兄である自分を落とすほうが手っ取り早いみたいに考えたようだけど、今後どうするつもりかはわからない。想像がつかない。
「巻き込んですみません。けど、聞いて欲しい、す」
「こっちは出来れば聞きたいって思ってるんだから、謝らないでよ」
 話してくれるならお茶でも淹れようか、と言って玄関横に設置されている流しに移動するお隣さんを追って、自分がやりますとその作業を奪った。ついでに、部屋で待っててとお願いする。
 お湯くらい沸かせるのにと不満そうな顔をされたけれど、話すことまとめたいんで時間くだいさいとお願いすれば、仕方がないねとしぶしぶ了承して部屋に向かった。かと思ったら、すぐに戻ってきて上着を渡される。
 玄関近くの台所だろうと、お隣さんがヒートマットやらを用意してくれているのでそんなに寒くはないんだけど。でも見てるこっちが寒くなってくると言われるくらいには、布団に入る直前の薄着だったので、ありがたく借りて袖を通す。
 お隣さんはそれを見届けてから、今度こそ部屋へと引っ込んだ。

続きました→

 
 
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