親切なお隣さん46(終)

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 自然と目が冷めて見慣れない天井に慌てて体を起こした後で、昨夜何があったかを思い出す。
 部屋に窓がないので、朝になっているのかすらわからない。いったいどれくらい寝てしまったんだろう?
 キョロキョロと辺りを見回して、ベッドヘッドの時計にやっと気づいた。時計が示す時間はいつもの起床時間とほぼ変わらず、どうやら普段起きる時間を体が覚えていたらしい。
「ん、おはよ」
 慌てて飛び起きたり時計を探したりで、どうやら隣で寝ていたお隣さんを起こしてしまった。
「起こしてすみません。あ、朝飯」
 どうします? と聞くより先に、昨日遅かったからもう少し寝たいと返ってくる。なのにそこで会話は終わらず、相手から次の話題を振ってきた。
「それより体は平気そう?」
「あー、まぁ、ちょっと腰がだるいくらいすかね」
 時計を探してキョロキョロ動いた時も平気だったし、立ち上がることはしないまま軽く体を動かしてみるが、やっぱりどこかが強く痛むとかはない。
「そういや突っ込んだまま寝たりはしなかったんすね」
「さすがにね。だって俺も一緒にイッたし、またゴム変えて寝落ちた君の中に入ろう、とかは考えなかったかな」
「あ、やっぱ一緒にイッてくれたんすね。良かった。てかそんな時に寝落ちてすみません」
「一瞬気絶したかと思って焦ったけど、幸せそうな顔してるし、寝てるだけみたいだし、どう考えても夜ふかしさせすぎたせいだなって」
 こっちこそ長々付き合わせてゴメンねと謝られて、いっぱいしてもらえて嬉しかったから謝らないで欲しいと返す。
 だいたい、ヤリ溜めしたい的なことを自分から言ったし、求められて仕方なく応じたなんて場面は全然なかったんだから、謝られる要素なんて欠片だってない気がする。
「簡単には後始末もしてあるけど、必要ならここ出る前にもっかいシャワー使うといいよ。あ、お湯ためて一緒に入る?」
 広いしと言われて、確かに二人一緒に入れそうな風呂だったなとは思うけれど。
「二度寝するんじゃないんすか?」
「と思ったけど、話してたら目が冷めてきちゃった」
 そして結局、お風呂にお湯をためて朝から一緒に風呂に入った。
 体を洗いあって、そんなことしたら当然気持ちが盛り上がって、でもさすがに挿入はってことで、互いに互いのを握りあって扱いてイッて、結果、風呂上がりに二人してベッドに倒れ込んでいる。
 疲れた……
 てか朝から何をやってるんだ。
「今日の仕事、昼からだよね?」
「そっすね」
「じゃあもう1時間くらいは寝てもいいかな」
「1時間?」
 そこまで遠くのホテルに連れてこられたわけじゃないから、もう少し寝てても大丈夫そうだけど。ああ、でも、一旦帰って何かお腹に入れてからバイトに行きたい。というか家の鍵とかスマホとか、モロモロ全部持ってきてない。ってのを考えると、1時間は妥当な時間でもあるか。
 そう、思ったのに。
「お腹減ってるでしょ。どっかでブランチして、そのあとバイト先まで送ってあげる」
「どっかで? え、外食!?」
「たまにはいいでしょ。お正月だし。って、あー……」
「どうしました?」
「いや、君の弟くんの朝ご飯、考えてなかった」
 家の鍵とかスマホとか取りに戻ったほうがいいよね、って話かと思いきや、心配してるのは残してきた弟のことらしい。この人らしいと言えばらしいんだけど。置いてきた弟のことなんて、出来れば忘れていたいと言うか、あまり考えたくないんだけど。
「や、あれはほっといていいす。てか出来れば顔合わせたくないっていうか」
 多分向こうだって会いたいとは思ってないんじゃないだろうか。
 だってどう考えたって気まずい。あんなことがあったあとでお隣さんと仲良く朝帰りなんて、色々な意味で気まずい。
 何言われるんだろと考えるだけで、気まずいを通り越して、絶対会いたくないって気持ちになってしまう。
「ああ、うん。じゃあ直接バイト先送るのが正解だね」
「ですね。でも一つ問題が。というかお願いがありまして」
 ここで弟の朝飯の心配が出来るこの人になら、甘えてしまっても大丈夫なんじゃないかと思って口に出す。
「お願い? なんだろ?」
「俺のスマホと家の鍵の回収というか、アイツがまだ家にいるかもわかんないんすけど、いっそ鍵開けっぱにして帰っててくれてりゃいいんすけど、もし、まだアイツが家に残ってたら、スマホと家の鍵回収して、アイツ追い出してくれないかなって……」
 アイツと顔合わせたくないんすよと繰り返したら、あっさりわかったと了承された。本当は、これ以上この人をあの弟と会わせるのも嫌なんだけど。
「あの、俺とヤッたってアイツも気づいてると思うんで、もし変なこと言われたらすみません。つか、もし誘惑されても断ってくれるて、信じてるんで」
「兄貴の恋人奪ってやるって?」
「そういうの平気で考えるヤツなんすよ」
「おれが好きなのは君だけだから大丈夫だよ」
 即答でそう言い切ってくれるから、ほんと、嬉しいし安心するし信じられるとも思う。にへっと頬が緩むのが自分でもわかってしまう。
「それより、バイト中にスマホなくて大丈夫なの?」
「それは全然大丈夫す」
「しかし、鍵もスマホも持ってきてないの全然気づいてなかったっていうか、おれも相当テンパってたと言うか浮かれすぎてたね」
「俺はまぁいっかなって。このチャンス絶対逃せないって、テンションぶち上げだったんで」
「まぁわからなくはないかな」
 気づいてても取りに戻れる感じじゃなかったよねと納得されて、ですねと相槌を打っておく。
「さて、じゃあ今日の予定もあらかた決まったところで」
 おいでと両手を広げられてしまって、もぞっと相手に近寄れば、すぐに緩く抱きしめられる。
「アラームかけたから大丈夫だと思うけど、もうちょっとだけ眠らせてね」
 言って目を閉じた相手が、すぐに穏やかな寝息を立て始めて、寝付きいいなと思ってしまう。普段からこうなのか、疲れ切っているのかはわからないけど。昨夜あっさり寝落ちたのはこっちだけど。
 自分の方は、そこそこ疲れては居ても眠いってわけではないんだけど、でも抱き枕よろしく抱え込まれているし、やれることなんてないし。
 そう思いながら目を閉じたら、案外するっと意識が落ちた。

<終>

最後までお付き合いありがとうございました。
1ヶ月ほどお休みして、次回更新は12/25(水)の予定です。

 
 
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