親切なお隣さん27

1話戻る→   目次へ→

「まぁ時間はある、って思うことで、自制が出来てたってだけの話でもあるけどね。でもこれ以上君の負担になりたくない気持ちが強いのもホント」
「飯作るの、別に負担になんかなってないんすけど。というかこっちのメリットがデカいから続けてるんすけど」
「それは知ってるし、メリットあるからって手間賃取ってくれないとこも、結局は巡り巡って君の魅力になってるんだけどさ。でも自分の分だけなら手を抜けるとこ、抜けなくなるでしょ。疲れてる時や忙しい時でも、御飯作ってくれようとしてたでしょ」
 今日は無理ですって殆ど言われた記憶ないって言うけど、作れなかった時もそれなりにあったはずだ。
「いやそれ、忙しくなるのわかってたら事前に申告するからじゃ? テスト期間とかレポート提出重なってるとかで作らなかったこと、ありますよね?」
「なくはなかったけど、でも忙しくなる前にって下準備してなんだかんだ作ってくれてたことも多かったよね。そりゃ忙しさなんて傍から見てるだけじゃ判断しきれないとこもあるけど、うちでレポートとかテスト勉強しながら合間に料理してるとかもあったでしょ」
「いやだってこっちの部屋のが快適なんすもん」
「だから御飯作らないときでも好きに部屋使っていいよって言ってたよね?」
 確かに言われてはいたけど、ただただ勉強が捗るからって理由だけでお隣さんの部屋を使わせて貰うってのには抵抗があった。
「いやだってそれは……」
「うん、だからそれも君の魅力ってことでいいし、勉強合間の食事作りが息抜きになるとか負担じゃないとかの主張を疑ったりもしないけど。でも、君がそういう子だってことを知ってるから、デート誘ったりキス以上を求めたりは君の負担になるって確信してるって話だね」
 せっかく入った大学だから学業を疎かにしたくはない、とか。学費の目処はたったけど結局のところは借金と思ってるから少しでも稼げる時に稼いでおきたい、とか。いくら時間やお金に余裕がなくたって最低限の友人つきあいは必要だと思ってる、とか。
 言い当てられて、相手はかなりしっかりこちらの生活を見てくれているようだと思う。そりゃ食事中の雑談で学校やバイトでのことはそれなりに話すし、似たようなことを自分で言ったような気もするけど。でもそれを覚えててくれるくらいには、こちらの生活を知られている。
 だから、今の生活に恋人と過ごす恋人らしい時間をねじ込む余裕はないはずだとか、どっかで無理させるという相手の言葉は多分正しい。
 とは思う。思うんだけど。
 今の生活にパパ活を取り入れられないかって結構真剣に考えたときも、どこからその時間を捻出するのかって部分で難しいなと思った記憶がある。でもそれはお隣さんの目を盗んで行おうとしたからであって、お隣さんがパパ活してくれればいいのにって考えたくらいには、お隣さんが相手なら可能なんじゃって気持ちが、間違いなく自分の中にあった。
 まぁ相手が恋人らしい時間と言ったのに対して、お隣さんとのパパ活を考えたことが思い出される辺り、やっぱちょっとお隣さんとは求める先がズレてるんだろう自覚もあるんだけど。
「アンタが、恋人になったと思いながらも、デートもセックスも誘ってこなかった理由はわかりました。わかった上で聞きますけど、今すぐ俺を抱いて欲しい、って言ったらどうします?」
「どうするって、え、今の話をわかった上で? それを聞くの?」
「だってアンタが気にしてんの、俺に無理させるとか負担になるとかなんすよね? じゃあアンタが気遣ってくれてる俺自身が、ちょっとくらい無理してでもアンタに抱かれたいんすけどって言ったら、どうすんのかなって」
 したい気持ちはそれなりにあるってさっき言いましたよねと言えば、相手は観念したように言ったねと返してくる。
「はっきり求められなかったから先延ばしにしてたって言ってましたよね。じゃあはっきり求めたら、どうするんすか?」
「わかった。じゃあ用意してた答えから言うけど、今すぐは無理だしここではダメ、って言ってたよ」
「なんで?」
「君が男同士の行為に対して、どこまで知識があってどこまで想定してるかとか全然わからないからってのと、このアパートの壁の薄さわかってる? ってのが理由」
 細かい会話内容まではわからなくても君たちが揉めてるのが分かる程度には伝わってくるんだから、ほぼ間違いなく、階下におれたちがエロいことしてるってバレると思うんだよね。と言われて、思わず天井を見上げてしまった。
 さっきもわざわざ様子を見に階段を登ってこようとした斜め下に住む高齢男性は、この部屋の真下に住んでいる。
 お隣さんの部屋に出入りするようになってからも、自分は基本挨拶くらいしかしないけれど、お隣さんとはそれなりに交流があるのも知ってる。というかお隣さん経由で、昔どんな風にお世話になったかとか、なぜここに住んでるかとかを簡単には聞いてしまっているし、多分間違いなく自分の情報も相手に流れている。
「君と付き合ってる、みたいな話はしちゃってるから、聞かれたところで仲良いなくらいの反応かもなんだけど。でもほらなんていうか、ちょっとさすがにおれも恥ずかしいというか。それに他の部屋だって、人が居ないわけではないし」
 他の住人とはあんまり交流ないけど顔は知ってるし会えば挨拶くらいはするしね、というお隣さんは気まずそうな苦笑顔だ。
「俺だってやですよ。そんなの聞いて、ここでやれないっすよ。つかやっぱ言ってんのかよ」
「やっぱって何? あ、実は付き合ってなかったって訂正したほうがいい?」
「挨拶ついでにアンタをよろしくされることが増えたから、アンタが俺を好きって知ってんだろなとは思ってた。ってだけなんすけど。あと訂正はしなくていいっす。つかもう俺ら恋人ってことでいいっすよね?」
「え、いいの?」
「もしもこの先、アイツがアンタに媚びてきても、アイツじゃなくて俺を選んでくれるっぽいんで」
 すぐに、もちろんと肯定されて、君が好きだよと返ってくる。
「キスしていい?」
 もう逃げないよね? と聞かれて、そういやさっきキスしそうな雰囲気をぶち壊して顔を洗いに行ったんだったと思い出す。戻ってすぐじゃあ続きなんてなるはずもなく、結構色々話し込んでしまったけれど、でも多分、これは必要な脱線だったんだろう。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です