泣いては居ないのに、嫌なこと思い出させてごめんねと謝られながら、目元をそっと撫でられていく。
「泣いてないすよ」
「そうだね、つい」
思わず手を伸ばすくらい、泣きそうな顔をしているってことなんだろう。そうだろう自覚は残念ながらある。
「そんな君に更に思い出語らせるのは心苦しいんだけど、そのパパ活でどんなことして何されたかも聞かせて貰える?」
「そんなの聞いて、不愉快にならないんすか? てか聞きたいようなものっすか?」
どうしても聞きたいって言われたら話すのは構わないんだけど、話した結果、機嫌が悪くなったり気まずくなったりは嫌だなと思う。知られたら何が変わるのかわからないけど、自分にとって良い方向に変わるってイメージが持てない。
「でも知っといたほうが良さそうだから」
否定されなかったし、でもって言ったから、不愉快になるし聞きたいわけでもないらしい。
「なんで?」
「その経験が今の君を作ってるってはっきりわかるから、かな。あと君、隠すのちょっと下手だから」
「えっ!? ……ってまぁ、そうっすよね」
隠すのが下手と指摘されて思わず驚いたけど、振り返ればそう言いたくなるような失言やらのオンパレードだったので、結局すぐに納得してしまった。
未成年でパパ活したのも、男相手にエロい経験をしたのも、隠しておくつもりだったのに結局全部バレている。
「そもそも俺に抱かれたくてお尻自分で弄ったっていうのも、その経験があったからじゃないの?」
「そ、すね」
「ちなみに、俺のこと考えながらディルド使ってたことを疑う気はないんだけど、ディルドサイズの参考にしたのってその相手じゃないの、みたいな嫉妬なら既にしてる」
「え、ええ……」
「口でした経験がないのは事実でも、相手の触ったりしなかった?」
「しました。てかそんなのまで既にわかってんすか? わかるようなこと、俺、してました?」
正直どっからバレたのかさっぱり想像がつかない。
「抱かれたことないのは事実って言いながら目ぇ逸らしてたから、それくらいはしてるかもっていうカマかけ」
「マジか……」
「まぁ抱かれてなくて、口でしたこともなくて、でも口でして貰った、ってだけなら、相手を気持ちよくさせるだけで満足、みたいな相手だった可能性もあったんだけど。でもあっさり認めちゃうんだから、隠し事向いてないと思うよ。てか絶対隠し通さなきゃみたいには思ってないでしょ?」
だからもういっそ思い出せる限り細かく全部吐いちゃいなよと、優しい笑顔が促してくる。優しいんだけど、でもどこかちょっとゾッとする笑顔だと思った。
「笑顔怖いす」
「まぁ嫉妬はあるからね。あと子供相手に何やってんだっていう、会ったこともない男への憤り。どっちかっていったらそっちのが大きいかも」
どのみち君に向かってる感情じゃないからあまり気にしないでよと苦笑されたけど。
「俺に向かってなくても、それで機嫌悪くなるならヤですよ」
「そっかぁ」
言いながら、怖いと指摘した笑顔をどうにかしたいのか、両手で頬を挟んでむにむにと揉んでいる。
「でもやっぱ聞いておきたい気持ちは変わらないかなぁ。君も、勝手に想像される方が嫌じゃない? ディルドサイズなんてまさにって感じだけど、だって疑い出したらキリがないんだよね」
サイズだけじゃなくて、なんでディルド買おうって思ったのかなってところから、ディルドも使われた経験があるのかも、とか。ディルド使うような相手だったなら、他のオモチャも色々使われてるかも、とか。
なんて言い出すから、慌てて待ったをかけた。確かに、されてもいないことを、されたって思われるのは嫌だ。
「まままってください。してないてか使われてない、す」
「じゃあなんでディルド買おうなんて思ったの?」
「そ、れは、買い物行った先でちょっと迷い込んだっていうか、たまたま見かけて、そういうのもここで買えんだ、みたいな」
まぁ迷い込んだってほどわけもわからずアダルトコーナーに踏み込んではいないけど。
「その、ちょっと、指で弄るのじゃ物足りなくなってたっていうか。だからホントに、アンタのサイズを勝手に想像して買ってるし、参考にしたのはどっちかって言ったら自分のちんこっす」
だってそんなに体格が違わないから、ナニのサイズもそこまで違わないかと思って。
「パパ活の人のも触ったっつうか一応握って扱いたけど、サイズまであんまよく覚えてないっていうか、手ぇ貸しただけに近いっつうか」
何回かイカされたあとで疲れてたから、だいぶおざなりだった自覚はある。何回もイってくったりしてる姿に興奮してたっぽいし、最後の方はこちらが握る手の上から手を重ねて、自分で扱いてイッていた。
「言われてみたら、気持ちよくするだけで満足、に近いタイプの人だったんじゃないすかね。もともと、初めてだし抱かれたりまでは無理、みたいな条件で探した人だったし。ただ、前立腺教えられて、そこで気持ちよくなれるって知っちゃったのは、パパ活のせいっす」
オモチャは使われなかったし、指だって1本しか入れられなかったけど。でも、パパ活してなかったらそんな快感とは多分縁がなかった。
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