親切なお隣さん7

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 お隣さんに食事を作るようになっておよそ2年が経過した大学3年次の夏、学費だけなら出せるからと大学進学を勧めてくれた祖父が他界した。もうすぐ定年退職を控えた59歳で、お正月に会ったときには、再雇用して貰えるし、まだまだ働けるから何の心配もいらないと胸を張ってくれていたくらい元気だったのに。
 突然の訃報に面食らいながらも参加した葬儀は散々だった。祖父が大学の学費を出すことを、実両親が忌々しく思っていたのはもちろん知っていたが、まさか葬儀の席で、顔を合わせたほぼ直後に遺産の話をされるなんて思ってなかった。
 勝ち誇ったような顔をした父に、お前に遺産を受け取る権利はないぞと言い切られ、大学なんかさっさと辞めて、実家に戻って就職しろとかなり強気な態度と言葉で命じられた。もちろん、実家に金を入れろという意味だ。
 実際問題、3年次後期と4年次丸々の学費分の当てなんて欠片もない。お隣さんのお陰もあってそれなりに貯金は溜まっていたから、3年次後期分くらいはなんとかなりそうだけど。でも4年次分が圧倒的に足りなかった。
 もちろん、言われたとおりに大学をやめて実家に戻る気なんて更々ない。諦めたくないし、諦めない方法を探すつもりだった。だって諦めてしまったら、ここまで学費を出してくれた祖父にだって申し訳無さ過ぎる。
 といっても現状かなりみっちりとバイトを入れていて、これ以上バイト時間を増やすのは色々と難しいかも知れない。無理して体を壊して医療費かかってバイトも休んで、なんて目にはあいたくないし、食事面は大丈夫にしても、ある程度の睡眠時間だってしっかり確保しておきたい。
 手っ取り早く短時間で高時給の単発バイトを副業で、的なことを考えたときに、どうしても思い浮かべてしまうのは、いわゆるパパ活的なアレだ。なぜなら、過去にそれでお小遣いを得たことがあるからだ。
 もちろんその時も必要にかられてだったし、もっというなら年齢もかなり偽っていた。そもそもバイトできる年齢だったら、そんなものに手を出してなかっただろう。あのときだけは、成長期が早めに来てて本当に良かったって思っていた。
 最初の約束よりかなり多めに払ってくれたから、多分相手は気づいてたけど。でもそこはお互い様というかなんというかで、はっきりと年齢を確認されることはなかった上で、かなり気を遣ってくれていたような気もする。
 多めに払ってくれたおかげで、そんな真似をするのは1度きりで済んだのもかなり有り難かったし、少なくとも、想像してたよりは酷い時間じゃなかった。
 だからこうして、今また再チャレンジするかを迷っているわけだけど。でもあれが相当幸運だったレアケース、という認識もちゃんとある。多めに支払ってくれたのだって、今の認識だと、口止め料的なものだった気がしている。アレがバレたらヤバいのは、どう考えても圧倒的に相手側だろう。
 問題は、実家周辺に比べたら供給も多そうだから、たいして稼げない可能性の高さだろうか。あと、お隣さんの存在が微妙にネックでもあった。
 バイトの時間を減らす気はないから、長期休暇中か日曜の夜に副業になるんだろうけれど、お隣さんといっしょに夕飯を食べていたらそれなりに遅い時間になってしまう。かといって、今日は夕飯作れません、と言ったら理由は絶対聞かれるだろう。これは経験的にも絶対だ。
 1度くらいなら誤魔化せても、繰り返し誤魔化し続けられる自信がない。
 いっそお隣さんが買ってくれたら良いのに。なんてことをチラリと思ったりもするが、そんな提案をしようものなら、盛大な説教が始まってしまいそうだ。というか、相手にそんな気が全く無いのも、実は既に知っている。
 お弁当を作るようになって暫くして、彼女が出来たって誤解されてるみたいだと報告されたときに、そんな話がチラリと出たのだ。もちろんその誤解は解いていて、隣に住む大学生の男の子が食費全額負担で作ってくれてると話したら相当驚かれたとかなんとか。まぁ、でしょうね、という当然とも言える話だったのだけど。
「女の子だったら絶対手放すな嫁にしろって言うのに男じゃなぁ、とか言っててさ。男の子じゃなきゃこんなお願いそもそも出来ないのにね。というかエアコン壊れたならうち泊まる? とか誘えないでしょ」
「女の子相手でも言いそうっすけどね。で俺が女だったとしても、そう言われてホイホイ泊まってるかも知れないですけどね」
「ダメでしょそれは」
「女の子だったら襲ってました?」
「だからそもそも泊まりなって言わないってば」
 じゃあどうしてたんだと聞いたら、随分悩んだあとで大家さんに連絡すると返ってきた。大家さんは既婚者で奥さんがいるから、女の子も任せられるはずとかなんとか言ってたけど、だとしても、相変わらず大家さんへの信頼が厚い。
「なら男で良かったす。けど、そのままお隣さんとこんな関係になるとか、あの時は全く思ってませんでしたけどね」
「ほんとにね。てかこの関係ってなんなんだろ、って思うことはあるよね」
 友達とは言い難いし、やっぱ雇用関係に近いのかな。と言われて、思わず。
「パパ活とかじゃないんすか」
「は? え?」
「パパ活、っす。援助されてデート、的な」
「デート……」
「お金貰って一緒に食事したりするみたいっすよ」
「いやいやいや。お金払ってないし。ただの食費だし。てかこれがパパ活じゃ全然割に合ってなくない?」
「食費だけって言うけど、それでも結構援助されてんですけどね。それにもし食費以外にも払ってくれる気があるなら、エロいサービスとかも、まぁ、出来そうな範囲でなら」
 まぁ当然お断りされたわけで、というかパパ活なんかしちゃダメだよと、そういや釘を差されたんだった。

続きました→

 
 
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