親切なお隣さん9

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「ごめん、アレはほんと失言だったというか、その、できれば忘れて欲しい、です」
 そんなことを言われて、じゃあ忘れます、なんて言うわけがない。
「無理っす」
 じっと相手を見つめて待てば、やがて観念したように大きく息を吐いた。
「下心っていうのは、その、学費貸したら卒業後も君に確実に関われるなって、思って」
「は? なんすかそれ」
「いやだって、君が卒業後にどんなとこに住んでどんな仕事するかとか、まだ全然未知数でしょ」
 社宅のある会社に入るかも知れないし、金銭的に余裕が出来たらここから出ていきたいって思ってるかも知れないし、と続いて、そんなの全く考えてなかったと思う。というか就職後にここを出ていくことなんて欠片も考えたことがない。
 確かにまぁまぁ不便な場所だし、安さに見合ったオンボロさだけど。
「それにここを離れないんだとしても、今みたいに一緒に御飯食べれるかもわからないし」
 出てく気なんか更々ないんですけど、という気持ちを察したらしい相手が、更に言葉を重ねてくる。確かに、就職先によっては休みが合わないかも知れないし、出勤時間も帰宅時間も就寝時間もどうなるかわからないし、今とは生活リズムがかなり変わってしまう可能性がある。
「あー……」
 なにか言いたくて、でも言葉は上手く出てこなかった。
 卒業後も変わらず、この人のご飯を作る日々を想定していたなんて、その事実をどう捉えれば良いのかわからなくて気持ちがざわついている。
 卒業後もご飯を作って欲しいのかを確かめたことなんかない。もし生活が変わって今後はもう作れないと言ったら、相手は残念だと口にするかも知れないが、あっさり引いてしまうんだろう。
 今の生活が変わらないような就職先を探せなんて、この人は絶対に言わない。わかっているのに、勝手にそういう選択をする気でいた。しかも祖父が亡くなる前からそういう意識でいたのだから、もはや食費援助が目当てとも言い難い。
 つまり気づいてしまったのは、この人にずっと食事を作り続けたいと思っている、という自分自身の欲求だった。
「どうしたの?」
 口を半端に開いたり閉じたりしていたから、相手が訝しむのは当然だ。でもこの気づいてしまった事実を、相手に伝えていいとは思えなかった。
 だってそれを知った相手が、純粋に喜んでくれるイメージがわかない。むしろ嫌がられそうな気もするというか、就職の幅を狭めるなと説教されそうな気がしなくもない。
「その、俺が思ってた下心と、かなり違ったな、って思って」
 言葉に詰まっていた理由は違うけれど、これも一つの事実ではある。だって下心、なんて言われたら、エロ関係かなと思っても仕方ないと思う。いやでも最近パパ活について考えまくってたせい、という気もするから、これも相手には全く非がない、こちらの思い込みでしかないのか。
 パパ活なんてしちゃだめだよって言ってた人が、エロい下心でお金を貸そうとするわけがなかった。
「君が思ってた下心って?」
「俺とパパ活してくれる気になったのかな、みたいな?」
 あっさり借金許可が降りた上に、奨学金が借りれるかも知れない情報まで貰って、切羽詰まった金策はほぼ不要になったけれど。でも元々は、お断りと説教覚悟で、この人にパパ活を提案するつもりでいたんだった。
「えっ!?」
「前にちょっと言ったじゃないすか。食費以外にもお金出してくれんなら、エロいサービスもしますよ、って」
「ねぇ待って。それ、お金貸す話じゃなくない?」
「エロいサービスしたら割り引いてくれるってなら、めちゃくちゃ張り切って頑張りますけどね」
「もう。そういうことは言っちゃダメって言ったろ。自分の体を安売りしない。というか、食費負担だけじゃなくて、御飯作ってくれるお礼というか手間賃? もっとちゃんと払おうか」
 いくらぐらいが妥当かな、とか考え始めてしまった相手に、慌てて待ったをかける。
「いや要らないっす」
「でも、学費用意する必要が出来たなら、少しでも取れるとこから取っといたほうが良くない?」
 割とマジにパパ活考えてない? と指摘されてしまって、当たってるけどハズレてるとも思う。
「学費は借りれそうなんで、アンタの目を盗んでどっかでパパ活、なんてことはしないから大丈夫す」
「本当に? 絶対だよ?」
「はい。でもそれはそれとして、アンタが俺を買ってくれたら良いのにな、ってのも、割とマジに思ってるのは事実すね」
「え、じゃあやっぱり手間賃を、」
「いや要らないっす。つか金じゃなくて、アンタが俺とエロいことしてもいい、って思ってくれたらいいのに、の方」
 言ったらめちゃくちゃ大きく目を見張られて、まぁ想定外だったろうなと思う。なんせ、自分もその事実にさっき気づいた。
 勝手にこの人の食事を作り続けようと思っていたのと同じだ。お断りと説教がほぼ確定なのに、それでもパパ活を持ちかけてみようと思ったのは、自分自身がこの人としたいからだと気づいてしまった。

続きました→

 
 
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