奢りますという連絡が来て向かった先では、随分と顔つきの変わった男が待っていた。晴れ晴れとして、といえるほどの陽気さはないが、それでも大分穏やかな顔つきになっている。
初めて会ったときは思い詰めてると思ったし、一年ぶりに会ったあの日は、初めて会ったときよりかなりやつれてるなと思っていた。なので、他人事だけどなんだか安心してしまう。
ゆっくり話せるようにと半個室の居酒屋を予約してくれていたので、そこへ移動したあとは、酒を交えながらようやく相手の事情を聞いた。
早くに両親を亡くしたこと。実質妹を育てていたのは彼なこと。自身が学歴で苦労した分、妹の大学進学に反対はしなかったこと。なのに進学後は勉学よりも遊びに夢中で無断外泊も増え、交友関係や男との交際にかなり口を出しまくってしまったこと。いつの間にか帰ってこなくなったこと。慌てて探したが住民票なども移されていた上に閲覧制限が掛けられていて、自力では探せなかったこと。有り金はたいて頼んだ興信所がイマイチ頼りにならなかったこと。そもそも妹の交友関係を全く把握できていなかったこと。それでも諦めきれずに金が溜まったらもう一度調査を依頼しようと思っていたこと。などだ。
なかなか苦労の多い人生だったようで大変面白く聞かせてもらったが、一通り話し終えたあとで一息ついた相手は、ようやく長々と語りすぎたことを自覚したらしい。
「す、すみません。ずっと相槌打ちつつ話聞いてくれてたから、俺ばっかりこんなに話しちゃって」
こんな苦労話聞かされても困りますよねと肩を落としてしまうから、いや全然、と否定を返しておく。
「普通に楽しく聞いてた。苦労はしたんだろうけど、今日は穏やかな顔してるせいかな。苦労話が深刻なほど、妹さん見つけられてホントよかったって思うし、それ手伝えた俺凄い! みたいな気持ちにだってなるだろ?」
知り合いにそっくりさん知らない? って聞いて回っただけで、そう大したことはしてないのだけれど。まぁ、たまたま顔が似てたってだけだけど、それでも自分の手柄には違いないので。
「というか前提はわかったけど、妹さんとは和解できたと思っていいんだよな?」
「あ、はい。一応は」
いきなり消えたから凄く心配したってことは理解してもらえて、ちゃんと謝っても貰えたらしい。
「赤ん坊抱いてたけど、相手の男とはちゃんと結婚してんだよな? そっちも大丈夫そうだった?」
聞いてないはずはないと思って話を振れば、思ったよりもまともそうな相手でした、と苦笑とともに返ってきた。
「大学生に手ぇ出して妊娠させて大学辞めさせた男、って思うとやっぱり許せない気持ちはあるんですけど。ただあの頃妊娠したなんて聞いたら、絶対堕ろせって言ってたと思うし、相手の男刺しに行くくらいしてたかもだし、そう言われて否定しきれなかった俺より、俺から逃がす手伝いしてしっかり結婚してお腹の子を妹ごと守った男の方を選んだだけって言われると、俺が言えることなんてないっていうか」
その時の会話を思い出しているのか、ははっと乾いた笑いをこぼす相手は悲哀に満ちている。
「ちゃんと幸せだって言ってましたし、相手の両親が良くしてくれるとも言ってたんで、あいつのことはもう、大丈夫、です」
新しい連絡先は聞いたけれどこんな自分じゃ困ったら頼れとも言いづらくて、今後は甥っ子のお祝いごとに贈り物をする程度の付き合いができればいい、らしい。多分それくらいはさせてくれると思う、と続いた声はどこか頼りない。
「寂しい?」
「え?」
「妹さん見つかって幸せそうで安心はしたけど、完全に自分からは手が離れちゃって寂しいのかな、と」
実質君が育てたようなものなんでしょと言って、娘を結婚に出す男親の気持ちじゃないのと指摘してみる。
「ああ……そっか、そうなのかも」
「あ、自覚はなかった?」
「です、ね。なんか気が抜けたっていうか、今後どうしようっていう漠然とした不安? みたいな方が印象が強くて。そっか、これ、寂しいのか」
妹さんを探すという目的がなくなって、次の目標とかがない状態か。
「寂しいなら俺と遊ぶ?」
「え?」
「いやまぁ俺じゃなくてもいんだけど。ずっと妹さんのために仕事優先して頑張ってきたんだろ? だったらこれからは自分のために時間使えばいいし、手っ取り早く、友達と遊びに行くのはって思っただけ」
趣味を見つけるのでも彼女作るのでもいいと思うよと言ってから、勝手に判断は良くないなと思って、なにか趣味有る? 恋人いる? と聞いてみる。
相手はやっと少しおかしそうに笑った。
「無趣味だし恋人もいないです。ついでに言うと友達もいないんですけど、あなたは俺を友達って思ってるんですか?」
「今日で終わりにならなくて、また飲みに行ったりどっか出かけたりする機会があるなら、友達ってことでいいんじゃない? って思ってるけど」
「じゃあ俺と、友だちになってください」
いいよと即答したら、相手はやっぱりおかしそうに笑う。
「こんな風に友達できるとか、考えたことなかった、です。てか友人づきあいもかなり疎かにしてきてて、友達と何するかとかも正直あんまりわからないとこあるんで、かなり頼り切りになる予感がするんですけど」
大丈夫ですか? 今ならまだ撤回してもいいですよ、と続く声がからかい混じりで、でも不安に揺れているようにも感じたので、問題ないよと返す声が柔らかに響けばいいと思った。
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すごい始まり方だ!とわくわくしながら読ませていただきました!自分とそっくりな人を探してる、だなんて、自分だったらものすごく興味引かれるか逆にちょっと怖くなって引く…?なんて考えていたら、まさかの連絡先交換からの妹さん発見。探していたお兄さんからしたら、一生懸命育てた妹に変な男がついちゃって心配!だったのだと思いますが、妹さんからしたら感謝してるけど窮屈というか息苦しさもあったのかなぁと。子供がいてお相手のご両親とも良好な関係なようでひと安心ですが、お兄さんが燃え尽き気味なのがちょっと不憫といいますか、だいぶ苦労して生きてきたんだろうなぁと。これから探していた男と間違われた彼と、ちょっと気持ちや生活に余裕持って楽しみを見つけられたらいいね…と応援したくなりました。彼と最初にお友だちとして遊びに行くならどこかなぁとか、あれ?これは受けと攻めはどっちがどっちだろう!?とか、これからの展開をあれこれ想像しながら楽しみに続きをお待ちしております!
コメントありがとうございます。
今回のお話もわくわくで読んで貰えて嬉しいです(*^_^*)
本当は1話で終わるつもりで書き始めたので、そっそくりさん&妹さん発見までが早いんですよね。
なのに肝心の視点の主と探し主が進展しなくて、うっかりこのままダラダラ続いてしまったらとんだタイトル詐欺だなって思ってたりです。
そっくりさん探しは1話目で終わってるのに、みたいな。笑
一応長くならずにエンドつける予定ではあるんですが、いつも通りノリと勢い任せ創作なので、どうかエンド着くまでこの二人を見守ってやってください〜