そっくりさん探し4

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 メインの通りを避けて人が少ない方へ少ない方へと歩いていけば、やがて閑散としてきたので、もう歩きながらでいいかと思う。
「人居なくなったし、さっきの話の続き、してもいい?」
「あ、はい」
 他愛ない話をしていたところからいきなりの蒸し返しだったせいか、相手の声に緊張が走る。
「そんな緊張……いやまぁ仕方ないか。で、俺が君の気持ちを知って、何を悩んだかなんだけど、君との交際が有りか無しかで言ったら俺の中では有りなんだよね」
「えっ???」
 驚くだろうとは思ったけど想像以上に驚かれてしまったので、一旦足を止めて相手の顔を覗き見る。こちらの視線に気づいて、すぐに逃げるように顔を反対側に逸らされてしまったけれど。
「ただ、君のことを恋愛的に好きかって言われるとそこはあまり自信がないと言うか、正直好奇心、という自覚がしっかりある」
「あ、あー……なるほど」
 とりあえず先をと思って告げてみたら、顔は背けたまま、あっさり納得されてしまった。
「君の方は? 恋愛って意味で意識されてると思ってるけど、なんで俺を好きって思ったのか、理由とかきっかけとかってあるの?」
「きっかけ……は、妹の旦那、というか、その、甥っ子に会いに行った時の妹夫婦見てたら……」
 しばらく待ってみたが続きがない。
 妹の旦那というのは例のそっくりさんなわけで、そんなところで言葉を止められてしまうと、色んな可能性が見えてしまって困る。
「えと、続きを聞いても?」
 余計なことをあれこれ考えてしまう前に、ちゃんと相手の答えを聞こう。そう思って話の先を促せば、めちゃくちゃ言いにくそうに、兄妹で好みが似てる可能性に気づいてしまって、と返ってきて一瞬頭の中が混乱した。というよりは、ちらっと頭を過ったアレコレの可能性の中に、それはなかった。
「あの、彼らにはあなたとの出会いとか、今も結構な頻度で遊んでる話とか、したんですけど。いい人と出会ったんだねって言われて、普通に嬉しかったんですけど。その、妹に、兄妹だから男の好みも似るのかなって言われて、最初意味がわからなかったんですけど、後から気づいて、そうかもって思っちゃったと言うか。それでちょっと意識し始めたら、止まらなくなっちゃって。正直これが本当に恋愛感情なのか、俺にはわからないんですけど。でも意識する前に戻れないっていうか、戻り方がわからないっていうか、その、すみません……」
 こちらが混乱して黙ってしまったせいで、慌てて色々教えてくれたのだろうことはわかる。ただ、最後の方はかなり情けない声になっていて、なんだか泣きそうだ。それに気づいて、途端に罪悪感が膨らんだ。
「いや謝らないでよ。ずっと恋愛とは無縁な生活してた話は聞いてたし、納得はした」
 教えてくれてありがとうと言えば、相手があからさまに体の緊張を解くのがわかってしまった。それを見て、想像以上に緊張させていたことに今更気づく。
「で、話を聞いて、俺としては君と付き合ってみたいなって思ったんだけど、俺とお付き合い、する?」
「え゛っっ!!??」
 相当びっくりしたようで、逸らしていた顔がやっとこちらを向いた。大きく目を見開いて、本気か冗談かを確かめるみたいにこちらを凝視してくる。
「そんな驚かなくても。さっき俺の方は好奇心の自覚があるって言っただろ。ものすごく真剣に俺に恋してくれてるなら、そんな気持ちで応じるのはどうなんだって思ってただけで、君自身が恋かどうかもわからない状態なら、お互い試してみてもいいんじゃないかって思ったんだけど」
「その、男同士、ですけど」
「いまどきそこあんまり気にしなくても良くない? 少なくとも俺の方は問題ない。そっちだって、妹さんの発言からして妹さんは大丈夫そうだし、職場関係に男と交際はじめましたなんてバカ正直に言う必要だってないだろ?」
 別に今すぐ返事くれなくてもいいから考えてみてと告げてから、行こうかと促し歩き出す。
 結局自分の方から交際申し込みをしてしまったと思ったらなんだか笑えてきて、その気持はそのまま笑いとなって零れ落ちる。
「楽しそうですね」
「そうだね」
 誰かに付き合ってくださいなんて言うの超久々だったと言いながら、溢れてくる楽しさを笑いにしてさらに零した。
「今までの恋人に男性、居ました?」
「いやいない。だから余計に興味がある、という自覚もあるよ」
「元カノさんたちとは今はもう全然関わりないんですか?」
「全く無いわけじゃない子もいるけど、疎遠になった子もいるね。俺の元カノ、気になっちゃう?」
「いえ。付き合ってみて、別れた後、どうなるのかなって思って」
「あー、そういう……」
 友人が恋人を兼ねたら一石二鳥ってよりは、友人を恋人にしたら別れた後で友人まで失う可能性がある、って考えるタイプらしい。まぁ現状、彼にとっては自分が唯一の友人、という可能性を考えると、それはかなり重大な問題なのかも知れない。
「別に無理してお付き合いする必要はないし、今のままでも構わないって思ってるよ」
「あなたを意識しちゃうのに?」
「まぁ、そこは俺が我慢すればいいだけの話だから」
「え、我慢? 何を?」
「何をって、手ぇ出すのを?」
「え? は? えっ?」
「いやほら、すぐ傍に俺を意識してくれてる子が居たら、こう、ちょっとちょっかい出したくなる的な」
 言いながら相手の手を握って、反応を確かめるようにその顔を覗き込んでみる。
「ひえっ」
 慌てて顔を逸らす相手に苦笑を零しながら、握った手もすぐに離してやった。
「困らせるつもりはないし、友達でって言われたらちゃんと友達の距離で付き合うから大丈夫。意識されてるのわかっても、気づかないふりしてあげるよ」
「そういう事言うから、好きって思っちゃうの止められないんですけど。付き合ってみたいかもって、思っちゃうんですけど!?」
 くるっと振り向いてギャンっと吠えてくるその顔は結構赤くて、なんだか可愛い。可愛いなと思ってしまったことに、また少し笑いが溢れてしまう。楽しい。
「もぉ〜、また笑うしっ」
「いやだって可愛いなって思って」
「ちょっ!?」
「ねぇ、そう思うなら、やっぱ俺達付き合おうよ」
 甘く響くようにと思いながら、君と付き合いたいよ、と真っ直ぐ見つめて真剣に告げれば、相手は顔を赤くしたまま観念したように頷いてみせた。

続きました→

 
 
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