そっくりさん探し5

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 お付き合いを始めたからと言って連絡頻度が上がるだとか、やりとりするメッセージに愛の言葉が混ざるだとかの変化は起こらなかったが、出かける先は大きく変わった。
 今までは定番人気観光スポットがメインだったけれど、穴場と呼ばれるような自然あふれる静かな場所がメインになったわけだが、理由はもちろん、人目を気にせずいちゃつきたいからだ。
 旅の恥はかき捨てとも言うし、人気観光スポットだろうが男同士手を繋いで歩くくらいはどうってことないんだけど、それは自分の基準であって相手が同じとは限らない。
 ちょっと手を繋いだだけでも大きな反応が返ってきたから、それで人目を引いてしまう可能性もあるし、男同士でという部分に引っかかっていた彼に、周りからの好奇の視線が向くのはなるべく避けたい。
 とまぁ最初は恋愛初心者な相手への気遣いによる変更だったわけだけれど、高頻度で人目が全くないという状況が訪れるため、どんどん大胆になっている自覚はあった。
 交際申し込みをした最初に、隣に意識してくれる子が居たら手を出したくなる、という話をしていたせいか、相手に手を出される覚悟っぽいものがあるのもいけない。観光先の変更理由も、もしかしたら人気のない場所で気軽に手を出したいからと誤解されている可能性すらある。
 いやまぁそれは今となっては誤解とも言い切れない気がするけれど。人目がない場所へない場所へと誘導している自覚も有るし、そうして得たチャンスは逃すことなく、恋人的な接触をあれこれと試みてもいる。
 手を繋いで歩くのも、ふと視線が絡んだ後に軽く唇を触れ合わすのも。頻繁に繰り返したおかげで、どうやらすっかり慣れたらしい。
 手を握るたび、握った最初に伝わってきていた緊張が無くなって、唇を離したあとに見せる顔からこわばりが消えて、どこかうっとりとしてさえ見える。そんな顔をされたら更に一歩踏み込んでみたくなるのは当然で、再度顔を寄せて与えたキスはすぐに離れてしまう軽いものではなかった。
 といってもそこまで深いものでもなかったし、長々貪ったわけでもないのだけれど。それでもそれは結局のところ自分基準でしか無くて、どうやら相当相手の性感を煽ったらしい。
「おっとぉ」
「す、すみません」
 崩れそうになる体を慌てて支えてやれば、か細い声が謝罪を告げる。戸惑いと羞恥は滲んでいるが、それだけだ。
「謝らないでよ。俺は嬉しいばっかりなんだから」
 嫌じゃなかったならまたしてもいい? と聞いたら、少し待たされた後で、嫌じゃないけど歩けなくなりそうで困る、なんて、本気で困った様子で返ってきたから、愛しさが込み上げて笑ってしまう。
「じゃあ歩きながらするのは止めておくよ」
 車に戻ったらもっかいしようねと宣言したせいで、その後それを思い出してか、度々ぎこちなくなる相手をこっそりと堪能しながらゆっくり景色を楽しんで、それからようやく駐車場へと戻って来る。ちらほらと車が停まっているものの、やはり人の気配は皆無だった。
 穴場スポット巡りになってからは、車を出す頻度も上がっている。
 相手は免許を所持してないため、運転がこちらだけに偏ってしまうのを気にされて、なるべく公共交通機関を使ってたんだけど。穴場スポットとなるとやはり車があったほうが便利で、そういう観光地に行きたいのはこちらなのだからと押し切っていた。
 うん、まぁ、そういうところでも下心が丸出しなのは認める。
「さっき言ったこと、していい?」
 助手席に座った相手に向かってそう問いながら、既に体ごと相手へ向かって寄せている。
「ど、どうぞ」
 言ってキュッと目を閉ざしてしまうのがまたなんとも可愛くて、やっぱり愛しさが込み上げてくる。クフフと小さな笑いが相手の唇をかすめたせいで、その唇が震える様まで愛おしい。
 嫌じゃなかったと言質を取ったことと、ここなら腰が抜けたところで問題ないという気持ちから、先程より深く長く触れてしまったけれど、もちろん、嫌がる素振りは皆無だった。
「っ……はぁ……」
 顔を離せば蕩けるみたいな吐息がその口から漏れてくる。目蓋はまだ落ちたままで、赤くなった目元の上でまつ毛が微かに震えていた。
 可愛い、と素直な感想を口から零しながら、再度唇を塞ぐ。といっても今度は深くはせずに、チュッチュと軽く何度も啄んだ。
 そうしながら、確かめるように下肢に手を伸ばす。
「あっっ」
 その膨らみに触れた途端、慌てた様子で肩を強く押されてしまったので、諦めて顔も手も相手から離した。
「嫌?」
「いや、っていうか」
 こんなところで? という戸惑いの声に、誰も居ないけどと思いながらも、ここじゃなければいいの? と問い返す。
「そ、れは……えと、……」
 相手が答えを出すのを黙って待てば、やがて覚悟が決まったらしい。
「ちゃんと二人きりに、なれるところなら」
「ラブホとか連れ込んでもいいよって意味に取るけど、いい?」
 いいです、の言葉を貰ったあとは、上機嫌で車のエンジンを掛けた。

続きます

 
 
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