兄は疲れ切っている40(終)

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 気持ちよさそうに目を閉じる兄を起こさずベッドまで運ぶのはさすがに無理だったけれど、風呂場から連れ出して体を拭いてやって未使用の部屋着を着せてやる間、兄は眠そうにぽやぽやしていて、ただただされるがままだった。
 ベッド行くよとだけ告げ問答無用で抱き上げても、さすがにもう慌てることもしがみついてくることもなく、ゆるっと体を預けてくれるどころかまた目を閉じている。口元がゆるっと笑んでいるのが可愛くて、愛しくて、信用されきっているのがわかるから嬉しくて仕方がない。
 ベッドの比較的綺麗そうな場所を選んで兄を下ろし、布団をかけてやる間も、兄はずっと目を閉じたままだった。きっともうこのまま眠ってしまうんだろう。もしくはもう既に寝ている。
 自分もその隣に潜り込んで、眠る兄の顔をジッと見つめた。もう少し眠くなるまで、このまま眠る兄を見続けるつもりだった。なのにゆっくりと兄が目を開いていく。
 目が合った。と思ったら、兄が嬉しそうにふふっと笑う。
「かいがいしぃ」
「そりゃあ、そこまで疲れさせたの、俺なわけだし」
「うん。でも、うれしい」
 好きだよって囁くみたいにこぼされて、俺だって好きだと返せば、やっぱりんふふと嬉しそうに笑っている。眠いせいもあるのだろうけれど、とろっと甘い気配が漂っているのがたまらない。
 どうにも兄に触れていたくて手を伸ばした。とはいえ、これ以上性的な興奮を煽るわけに行かないので、結果、頭を撫でるように髪を梳く。
「気持ちぃ……」
 うっとりと目を細めながら、小さな声がやっぱりとろりと吐き出されてきた。
「ん……っ、き…ちぃ……」
 そのまま瞼を閉じてしまったものの、必死に気持ちよさを伝えようとしているのか、途切れ途切れに気持ちぃの言葉の切れ端が口からこぼされたり、んっんっと気持ちよさげに鼻を鳴らしたりもする。
 相変わらずサービス精神旺盛すぎだと苦笑した。そんなに頑張って気持ちよさを伝えてくれなくても、もう充分に伝わっている。
「ほんっと可愛いんだから。ね、もう、寝ちゃっていいよ?」
「んっ……」
 小さな返事の後、すーっと息が深くなって頭を撫でても反応しなくなったから、今度こそ本当に眠ったのだと思った。しかし暫くそのまま頭を撫で続ければ、また唐突に兄が話し出す。
「なんか、ねちゃうの、もったない」
 舌っ足らずに吐き出されてくる言葉は、眠気にむりやり抗っているようで、やっぱり苦笑を誘った。
「もったいなくないって。てか可愛い寝顔、もっとじっくり見させてよ」
「んー、それ、は、ずる、い」
 もぞっと動いたかと思うと、兄がすり寄ってきて胸に顔を押し当ててくる。寝顔を見せたくないってことかと思ったら、兄がくふくふと妙な笑い方をしながら肩を揺するから何事かと思う。
「え、何?」
「おっぱい、やらかい」
「あー……」
「ここ、きもちぃ」
「知ってるって。で? そこに顔埋めて眠りたいって話?」
 聞けばやっぱり小さく肩を揺すって笑う。
「それも、いいけど」
「いいけど?」
「それより、いっしょ、ねて、ほしぃ、かなぁ」
 寝ないのと聞かれて、つまり兄が眠気にむりやり抗って起きているのは、こちらにまだ眠る気がないせいらしいとやっと理解した。
 わかったと小さくため息を吐き出して、手を伸ばして部屋の明かりを落としてやる。
「これで安心して寝れる?」
「おまえも、ねる?」
「寝るよ」
 言えばまたもぞっと動いて、胸に埋めていた頭が離れていった。しかし近づいた距離は離れず、兄の体がすぐ近くに密着している。そっと抱きかかえれば、んふっと満足げな吐息が漏れた。
「おやすみ」
「んっ……すみ」
 どうにかという感じで小さく返事をくれた後は、静かな寝息が聞こえてくる。暫く様子を見ていたが、今度はもう、兄が話し出すことはなかった。
 とはいえ、もう一度電気をつけて寝顔を眺めてやろうとまでは思わない。疲れ切った兄はきっとぐっする眠るだろうから、兄より早く目覚めて、寝顔も寝起きも堪能してやればいいのだ。
 そんな決意を胸に、腕の中の熱と寝息に誘われるまま目を閉じた。

<終>

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昨年内に終わらず年越しまでしてしまいましたが、長々とお付き合いどうもありがとうございました。恋人同士の既に慣れた気持ちいいセックスを書く機会が少ないので、ついダラダラと書いてしまいましたが、とても楽しかったです。
2回ほど休憩を挟んで、次回更新は10日の予定です。

 
 
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「兄は疲れ切っている40(終)」への4件のフィードバック

  1. 連載おつかれさまでした!
    ラブラブ兄弟のあれこれを楽しく拝読させていただきました。

  2. コメントありがとうございます!
    ダラダラ書きすぎだよなぁでも楽しいんだよなぁ〜みたいな葛藤が有りつつ書いていたので、ラブラブなあれこれを楽しんでもらえて良かったです(´∀`*)ウフフ

  3. ありがとうございます!
    楽しんで貰えたなら良かったです(´∀`*)

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