獣の子1

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 目の前の重厚なドアをノックし、返答を待ってからゆっくりと開く。
 久しぶりに踏み込んだ父の部屋は、やはりいいようのない厳格な空気が満ちていて、ビリーは緊張で息を飲む。
「暫く見ない間に、随分と大きくなったな」
 笑顔のない言葉は胸を打つことなく素通りし、ビリーも形式どおりの謝辞を述べるだけにとどめた。
「ところで、大事なお話があると伺って来たのですが……」
 ビリーの視線は、言いながら部屋の隅で存在を主張する檻の中へと向かう。
 中には自分と同じくらいか一回り小柄な子供が一人、怯えと敵意を含む瞳でジッとビリーを見つめていた。
 注目すべきはその耳と尻尾の毛の色だろう。服を纏っていないので、その尻尾が本物であることは疑いようがない。
 この小さな国で、黒い毛皮を纏うのはビリーと今目の前にいる父の二人だけだ。
 兄弟姉妹は多々いるが、黒い毛色の遺伝子を受け取ったのはビリーだけで、だからこその特別待遇と期待に、ビリー自身は辟易している。
 父は既にこれ以上の子をなすことを諦めてしまったようだが、後2・3人くらいは頑張って欲しいと常々思っていた。
 ただ、檻の中の子供が、父の子供でないのは明白だ。黒い毛を持つ父の子を、檻に閉じ込めるようなことは絶対に起こらない。
 では、目の前の子供は一体何物なのだろう?
「猫の子、だ。お前にやろうと思って連れてきた」
 ビリーの思考を読んだように、父の声がかかる。
「猫……? なぜ、猫族がこんな場所へ?」
「さあな。ただ迷い込んだだけかも知れないが、それにしても、本来ならこんな場所まで踏み込むことはしないだろう。どちらにしろ話したがらないからわからんな」
「そんな得体の知れない相手を、俺に任せてもいいんですか?」
「殺すには惜しい毛色をしているからな」
 その言葉に含まれた父の気持ちを正確に理解できたとは思えないが、ビリーは黙って頷いてみせた。
「ただし、条件はある」
「条件……?」
「そうだ。一つ目は、檻の中から出さないか、もしくは鎖に繋いで飼うこと。もう一つは、一生この国からは出さないこと」
 似たような姿形をしていても、相手が猫族である以上、扱いはペット以上のものにはならないのだろう。
 それが守られなければ、殺すことになる。そう続けられた言葉に、ビリーは慎重にわかりましたと返す。
 檻の中の子供がどこまで二人の会話を理解しているのか、猫族についてはその存在を知っているという程度にしか知らないビリーには検討もつかない。
 一体どんな言葉をしゃべるのだろう?
 意思の疎通が出来るような相手なのだろうか?
 たとえ種族は違っても、同じ毛色を持つ自分よりも小さな生き物を、殺させなどしない。キツイ光彩を放つ瞳を見つめ返しながら、ビリーはこれからどうするかを考える。
「檻は後でお前の部屋に運ばせよう」
 それは話の終了と退室を促すものだった。
「わかりました。それでは失礼します」
 一旦思考を中断したビリーは、父へと一礼してその部屋を後にした。

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