獣の子3

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 ベッドの端へと腰掛けたセージは、ガイに何事か囁きかけ、掛け布団を剥ぎ、嫌がるように身をよじっていたガイをヒョイと抱きかかえる。
「んぁぁっ!!」
 思わず漏らしたのであろう悲鳴に似た吐息は、ビリーが初めて聞くガイの声だった。
「ガイ!?」
「大丈夫。近寄らないで」
 制止の声に、ビリーは踏み出していた足を元へと戻す。
 ガイを膝の上へと乗せたまま、セージは耳の付け根へと指先を当て、どうやら脈を測っているようだった。
 その間も、ガイは苦しそうに息を吐きながら、身体を小刻みに震わせている。やがて真剣な表情をビリーへと向けたセージは、困ったように苦笑した。
「重い病気ではないんだけどね……」
「わかったんですか?」
「うん、まぁ、これは医師じゃなくても経験者なら誰でもすぐに気付くような症状で……」
 告げるべきか迷うように逡巡するセージに、ビリーは勢い込んで教えてくださいと頼み込む。
「発情、してるんだよ」
「え……、って、発情!?」
 溜息と共に吐き出されたセリフの意味を理解し切れない。
「そう。猫も豹もあまり変わらないのかな、発情期まんまの症状だね。ガイの様子からすると、最初の発情なのかな。慣れた感じがまるでないし」
「や、だって、そんな……そいつ、俺より身体小さいのに?」
「猫族は元々小柄な種族だから。もしかすると、ガイの方がビリーよりお兄さんかもしれないよ?」
 知らなかった。衝撃によろめくビリーを気にすることなく、セージはガイの首輪をツイと引いた。
「この首輪、やっぱり外すことは出来ないのかな?」
「それは、どういう……」
「出来れば、僕の部屋へ連れて行きたいんだけど」
「この部屋じゃ処理してやれないのか?」
 まだ発情期のないビリーも、発情期に入ったらそれ相応の処置をするものなのだということだけは知っている。それ相応の処置、というものの中身はまだ教えられていないので、知っているのは何かをすれば良いのだということだけだけれど。
「出来なくないけど、君は出来ればまだ、知らないほうがいいと思って。普通なら、後2年は発情なんてしないはずだからね」
 猫族と豹族との間で誘発が起こるかはわからないが、視覚的な刺激からだけでも、発情時期が早まるかも知れない。そう続けたセージに、ビリーはそれでも構わないと返した。
「ガイは俺のペットだから、俺が面倒を見るんだ。発情期ごとに誰かの手を煩わせるわけにいかないし、俺が処理してやれるなら、覚えたい」
 真っ直ぐな瞳に、セージは諦めの溜息を一つ。
「わかったよ。じゃあ、取りあえずもう少し近くまでおいで」
 呼ばれて、ビリーは二人の側へと近づいた。その間に、セージはガイの纏う薄布を全て剥いでしまう。
「はぁぁん」
 セージの腕に抱かれたまま、ガイは切ない吐息を漏らしながらも嫌がるように、緩く首を振って見せた。
「処理そのものは、そんなに難しいことじゃない。ここを扱いて何度か吐き出せば、一応は落ち着くものなんだよ」
 セージはガイの股間を開かせ、その間にある小さな性器へと手を伸ばした。
「やぁぁ」
 嫌がって身じろぐガイを片腕で押さえ込んだまま、セージは躊躇うことなく、手の中のモノを握りこんで擦り立てる。
「あっ、あっ、ああんっ」
 苦しそうに眉を寄せ、堪えきれずに溢れさせる悲鳴に、ビリーはガイから目が離せない。
「大丈夫。初めてで怖いかも知れないけど、我慢しないで」
 宥めるように優しく語りかけるセージの声に、ビリー自身の鼓動も酷く乱れて加速していく。
「汚して良いから、吐き出して。ね、ガイ、良い子だから」
「うにゃぁぁああんっっ」
 ピンと背を反らして、一際高い声を上げたガイは、セージの手の中に小水とは違う何かを漏らしていた。
 喉の奥がカラカラに乾いて口の中が気持ち悪い。それでもその場を動くどころか、言葉一つ発する事が出来ない。
 ビリーは言葉も無いまま、そんなガイを見つめ続けた。
 グッタリと身体の力を抜いてしまったガイをあやすように撫でながら、セージは視線をビリーへと移す。
「今から言うことをちゃんと聞いてね、ビリー」
 セージの真剣な表情に、ビリーも意識をセージの言葉へと集中させる。
「これを君に見せたのは、君にガイの発情の処理をさせるためじゃない」
「えっ?」
「こんなことは、別に誰かの手を借りなくたって処理できるんだよ。ただ、君自身にまだ発情の経験がないのに、同じ部屋で生活する相手だけが発情する状態を、無視する事なんてできないだろう?」
 ガイが発情している間は極力近づかないこと、決して手を触れないこと。それと、発情の誘発を防ぐための薬を、一応飲んでおくこと。ガイを取り上げられたくなかったらその3点を守りなさいと、やわらかな命令口調で告げられ、ビリーはしかたなく頷いて見せた。
 発情時期が早まったって構わないから、セージの腕の中であやされ続けるガイに、自分も触れたい。
 そう言ってしまいたかったが、セージがビリーの傍へガイを置くことに難色を示しているのがはっきりとわかっていたから、ビリーにはセージの言葉に逆らう真似はできなかった。
 いくら黒毛の遺伝子を持っていたとしてもビリーはまだ何の権限も持たない子供で、専属医師であるセージが不適切と告げれば、ガイは本当に取り上げられてしまうだろう。ほんの気まぐれで与えたのだとしか思えないから、あの父がそれを止めてくれるとは考えにくい。むしろ、そんな事態になったら、ペットの世話一つできないと思われ、呆れられるかも知れない。
「ガイ、落ち着いたなら、次は自分でしてごらん。まだ、全然足りてないでしょう?」
 くったりとセージに寄りかかったままのガイは、導かれるまま、小さな手で自分自身の性器を包みこむ。
「ビリーはどうする? 見るなとまでは言わないけど、この様子じゃまだ暫く掛かると思うし、眠るなら僕の部屋のベッドを使うといい」
「見てます」
 間髪いれずにそう返したビリーに、セージは諦めたように小さな溜息を一つ吐き出し、仕方がないねと苦笑した。
「立ったままじゃ疲れるでしょう。見るなら向こうのソファへ座ってなさい」
 このまま近くで見ていたい気持ちをどうにか押さえ、ビリーは言われた通りにソファへ向かった。
 腰を下ろして目を凝らせば、ガイは先ほどセージがしたように、握った手を上下させている。恐々と動かす手は随分とゆっくりだったけれど、それでも頬は上気し、息はますます乱れていく。
「いいこだね、ガイ。そう、そのまま気持ち良いと思うことを、自分で好きにやってごらん」
「あ、あっ、はぁん」
 先ほどの行為がガイにどんな衝撃をもたらしたのかはわからないが、セージに対しては随分従順で、もう嫌がるような様子はほとんどみられない。
 セージの甘い響きに、ガイの切ない喘ぎが応じて行くのを、ビリーは唇を噛みしめながらジッと見つめていた。

< 未完 >

 
 
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獣の子2

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 ビリーの部屋の隅にはその存在を無視し切れない大きさの檻があるが、父の部屋から運ばれてきた直後から、その檻が本来の役目を果たすことはほとんどなかった。
 課せられた条件の元、首輪をつけて鎖で繋いではいるが、その鎖は部屋の中を自由に歩きまわれるほどに長い。
 始めから、ビリーには父から与えられた黒猫の子を檻の中で飼う気はなかった。それでも運ばれてきた当初は、檻から数メートルの長さで繋いでいたのだが、数日後には今の長さへと代えられた。
 なぜなら、彼は自分達の言葉を理解できるらしいからだ。父とのやり取りも、この部屋に連れて来られた後にビリーが話し掛けた色々も。自分の立場をわかっているから、自由にさせておいても、ビリーを困らせるような真似はしないのだろう。
 ただし、言葉はビリーからの一方通行でしかない。一言も言葉を発しない相手に仕方なく、ビリーは昔読んだ物語の中に出ていたネコの名前を拝借し、その黒猫にガイという名前をつけた。
 どんな声をしているのか、どんな言葉を話すのか。今の所、そんなビリーの期待は報われていない。

 夜も遅い時間、ソレは唐突に起こった。
 随分前から、ビリーはガイを広すぎるくらい大きな自分のベッドへと連れ込んで眠っていたが、その日はガイの苦しそうな息遣いに安らかな眠りを妨げられた。
「ガイ……?」
 呼びかけに返事がない事はわかっていても、声を掛けずにはいられない。それくらい、部屋の中を不自然な空気が満たしていた。
 荒い息がせわしなく耳に届いて、ビリーは眠りの淵を彷徨う意識をむりやりに引き上げ、身体を起こす。
 夜には眠る生活をしてはいるが、暗闇だろうとある程度の視界は確保できる。
 ビリーの目に飛び込んできたのは、膝を抱くようにして丸まった身体を震わせるガイの姿だった。
「ガイ!?」
 慌てて手を伸ばすが、触れてはいけないような気さえして、ビリーはキュッと拳を握り締める。
 自分と似た姿形をしているから気付かずにいたが、相手はビリーにとって今までほとんど接点のなかった猫族の子なのだ。どんな病気にかかるのかすら調べていなかった自分に、ビリーは軽い舌打ちを零す。
 父から与えられたという安心感もあったかもしれない。ある程度のメディカルチェックは入れているのだと信じているが、ただの風邪などとは明らかに違う様相を呈するガイに不安を煽られる。
 猫族特有のモノなのか、自分にも感染する可能性もあるのか。
 考えても埒があかないのは明白で、自分一人で手に負える事態ではないこともビリーは自覚していた。
「すぐ、誰か呼んで来るから」
 努めて労わるような優しい声を掛けて、ビリーはベッドを降りる。
「……ぃ……」
「え、何?」
 何事か言われたような気がして振り返ったが、気のせいだったかもしれない。
 ガイがビリーに向けて何かを告げる事などないのだから、きっと苦しさに呻いたのだろう。
「行ってくる」
 ガウンに袖を通したビリーは、足早に自室を後にした。

 

 ビリーの住む館には、専属の医師も居住している。部屋を飛び出したビリーが向かった先は、当然ながらその医師の部屋だった。
 父よりは確実に若いだろうセージという名のその医師が、いつから館に住むようになったのか、物心ついた時には既にその医師の診察を受けていたビリーにはわからない。
 わかっているのは、日に輝く黄金の体毛を持つ、ひどく綺麗な男だということ。
 この国に住む者は、ビリーとその父以外、皆黄色の毛皮を纏っているが、中でも彼のは群を抜いて美しい。
 その容貌とも相まって一見近寄りがたい雰囲気すらあるが、医師としての腕は確かで、患者に対しては優しかったから、週に2度、館を解放しての一般診療はいつも相当賑わっている。
 部屋の前まで来て、ビリーはその扉を叩くことを一瞬だが躊躇った。明日がその一般診療日だと思い出したからだ。
 慌てて部屋を出てきてしまったから、今が何時であるかもわからない。
 そもそも、自分の身の異変ならともかく、診て欲しいのはペット扱いのガイなのだ。
 いくら腕の良い医師だとしても、彼に猫属の知識があるのかもわからない。それでも、頼れそうな相手は彼しか思い浮かばず、ビリーは深夜に叩き起こす申し訳なさを抱きながらも、意を決して目の前の扉を力強く叩いた。
「何方ですか?」
 暫し待たされた後、扉の向こうから声が聞こえ、ビリーは急く気持ちを押さえながら名を告げる。扉はすぐに開かれた。
「こんな時間にどうしたの、ビリー。具合が悪いなら出歩いたりせず、内線で呼び出していいんだよって、前にも教えたでしょう?」
 心配気な顔に、そんなことにも気がまわらずにいた自分の慌て振りを恥ながら、ビリーは部屋を訪れた理由を告げる。
 必死にガイの、何処か異様な状態を説明するビリーを制して、セージは優しく笑った。
「猫族には詳しくないから、役に立てるかはわからないけど。でも、取りあえず様子を見に行くよ」
 少し待っててと告げ、一旦部屋へと戻ったセージは、往診用のカバンを手に現れた。
 今にも走り出しそうな程の急ぎ足で自室へと向かうビリーを、セージは咎めることなくついてくる。
 自室前まで戻ったビリーは、一旦後のセージを振り返った。
「いいよ。開けて」
 促されてドアを開けば、やはり異質な空気が二人を包む。それだけで、セージは何かを察したようだった。
「ガイはベッドの上?」
 ガイを長い鎖で繋ぎ、部屋の中ではかなり自由にさせていることを知っている者は幾人かいたが、ペット扱いの彼をベッドに連れ込んでいることは誰にも教えていない。
 咎められる可能性もあったし、何より、一人寝が寂しいのだと思われるのは許せなかったからだ。しかし、こうして現場を見られてしまっては、取り繕いようがない。
 具合が悪そうなので運んだ、などという言い訳を告げるほうが恥ずかしい事のように思え、ビリーは黙ったまま頷いてみせる。
「ビリーはここに居てね」
 ドア付近にビリーを立たせたまま、セージはガイの横たわるベッドへと近づいて行った。

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獣の子1

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 目の前の重厚なドアをノックし、返答を待ってからゆっくりと開く。
 久しぶりに踏み込んだ父の部屋は、やはりいいようのない厳格な空気が満ちていて、ビリーは緊張で息を飲む。
「暫く見ない間に、随分と大きくなったな」
 笑顔のない言葉は胸を打つことなく素通りし、ビリーも形式どおりの謝辞を述べるだけにとどめた。
「ところで、大事なお話があると伺って来たのですが……」
 ビリーの視線は、言いながら部屋の隅で存在を主張する檻の中へと向かう。
 中には自分と同じくらいか一回り小柄な子供が一人、怯えと敵意を含む瞳でジッとビリーを見つめていた。
 注目すべきはその耳と尻尾の毛の色だろう。服を纏っていないので、その尻尾が本物であることは疑いようがない。
 この小さな国で、黒い毛皮を纏うのはビリーと今目の前にいる父の二人だけだ。
 兄弟姉妹は多々いるが、黒い毛色の遺伝子を受け取ったのはビリーだけで、だからこその特別待遇と期待に、ビリー自身は辟易している。
 父は既にこれ以上の子をなすことを諦めてしまったようだが、後2・3人くらいは頑張って欲しいと常々思っていた。
 ただ、檻の中の子供が、父の子供でないのは明白だ。黒い毛を持つ父の子を、檻に閉じ込めるようなことは絶対に起こらない。
 では、目の前の子供は一体何物なのだろう?
「猫の子、だ。お前にやろうと思って連れてきた」
 ビリーの思考を読んだように、父の声がかかる。
「猫……? なぜ、猫族がこんな場所へ?」
「さあな。ただ迷い込んだだけかも知れないが、それにしても、本来ならこんな場所まで踏み込むことはしないだろう。どちらにしろ話したがらないからわからんな」
「そんな得体の知れない相手を、俺に任せてもいいんですか?」
「殺すには惜しい毛色をしているからな」
 その言葉に含まれた父の気持ちを正確に理解できたとは思えないが、ビリーは黙って頷いてみせた。
「ただし、条件はある」
「条件……?」
「そうだ。一つ目は、檻の中から出さないか、もしくは鎖に繋いで飼うこと。もう一つは、一生この国からは出さないこと」
 似たような姿形をしていても、相手が猫族である以上、扱いはペット以上のものにはならないのだろう。
 それが守られなければ、殺すことになる。そう続けられた言葉に、ビリーは慎重にわかりましたと返す。
 檻の中の子供がどこまで二人の会話を理解しているのか、猫族についてはその存在を知っているという程度にしか知らないビリーには検討もつかない。
 一体どんな言葉をしゃべるのだろう?
 意思の疎通が出来るような相手なのだろうか?
 たとえ種族は違っても、同じ毛色を持つ自分よりも小さな生き物を、殺させなどしない。キツイ光彩を放つ瞳を見つめ返しながら、ビリーはこれからどうするかを考える。
「檻は後でお前の部屋に運ばせよう」
 それは話の終了と退室を促すものだった。
「わかりました。それでは失礼します」
 一旦思考を中断したビリーは、父へと一礼してその部屋を後にした。

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電ア少年 家教と生徒の場合

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「ナツ先生、電気アンマの刑って、知ってます?」
 予定された授業時間の半分が過ぎた頃だろうか。今日はめずらしくソワソワしていると思っていた教え子の青治が、意を決した様子でそう口にした。
「電気アンマの刑?」
 つい先ほどまで青治が挑戦していたミニテストの解答を赤ペン片手にチェックしていた夏至は、答案用紙から目を離さないままで聞き返す。
「そう、です。あの、今、クラスで流行ってるんですけど、先生が小学生の頃も、ありましたか?」
「ああ、そういえば、そんなのが流行った事もあったかな」
「本当ですか? 先生も、したり、されたり、したんですか?」
 チェックを終えて顔をあげれば、真っ赤になりながらも真剣な表情で夏至を見詰める青治と目が合った。随分と興奮している。
「どうしたの?」
 本当に珍しいと思いながら、柔らかな声で問い掛ければ、教えて欲しいんです、なんて言葉が返ってきて、さすがの夏至も驚いた。しかし、表情には出さない。それくらいのポーカーフェイスはお手の物で、やはり柔らかな表情を崩さないまま、再度問い掛けの言葉を口にする。
 今度はもう少し、詳しい話を聞くために。
「僕は家庭教師だから、教えてくれと頼まれれば、教科外だろうと知ってることは教えてあげようと思うけれど、クラスで流行ってるなら、今更何を教えて欲しいと言っているんだろうね? 青治は」
「それは、あの……」
「はっきり言ってくれないと、何を教わりたいのかわからないよ?」
「されたこと、ないんです。もちろん、したことも。別にそれでクラスの友達から仲間はずれにされてるわけでもないんですけど。僕がその刑をされそうな雰囲気になると、なぜか途中で止まっちゃうんです。みんな、僕にはしたがらない。だから僕だけ、流行ってるのに一度も経験した事がない」
 夏至は目の前の少年の顎に手を添えると、不躾にジロジロとその顔を眺め見る。青治の優しく整った面立ちを、クラスメイトの男の子たちが、電気アンマなどという遊びで歪ませたくないと思うだろうことは容易に想像がついた。
「それは、みんなが青治の事を大好きってことだろう?」
「どういう意味ですか?」
「痛い事、したくないんだよ。青治には。例え遊びでもね」
「でも、僕だって……」
「されてみたい?」
 コクリと頷く顔は上気している。変な頼みごとをしているという自覚からか、それとも行為への期待からか、どちらにしろ面白そうだと思った。
「いいよ」
「本当ですか!?」
 答えれば、目を輝かせて夏至を仰ぎ見る。内心では、この綺麗な顔を苦痛に歪ませても構わないなんて、飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことだなどと思いながらも、夏至は柔らかな笑顔を湛えたまま頷いて見せた。
「ああ。このミニテスト、一問もミスがなかったご褒美にね」
 言いながら青治の手を取り立ち上がった夏至は、青治のズボンのポケットから、ハンカチをスルリと抜き取った。
「口を開けて、青治」
「え?」
「これからすることが痛みを伴うと言うことは知っているんだろう? 叫ばれてお家の方が飛んできたら、家庭教師をクビになってしまうからね。コレを噛んで、声を出すのは我慢しなさい」
「はい」
 素直に開かれた青治の口に、夏至は丸めたハンカチを押し込める。小さな口からはみ出したハンカチに、それだけでも、酷く嗜虐心を煽られた。
 そうしてから、青治の身体をベッドの上ではなく、あえて床上へと横たえる。両足首を掴みあげて見下ろせば、既に潤んだ瞳が期待の熱を孕んで見詰め返した。やはり行為への興奮なのかと思うと、笑ってしまいそうになるのを堪えるのが、いささか大変だった。まさか青治に、こんな素質があるとは思っていなかった。
「いい? するよ?」
 それでもまだ、優しい家庭教師の仮面を被ったまま、問い掛ける。ただし、頷くのを待って、股間を踏みにじる足に、容赦はしなかった。
「んんーっ……!!」
 ハンカチに吸われ、くぐもった悲鳴。
 ハンカチを吐き出したらその時点で終了するつもりだったが、青治はギュッとそれを噛み締め耐えている。痛みに身悶え、嫌々と首を振るのに合わせて、溢れた涙が散る姿が愛おしいと思った。
 もっとずっと眺めていたい気持ちを押さえ込んで開放した後は、グッタリと身体の力を抜いた青治の脇へと膝を付き、その身体をゆっくりと起こし、口からはハンカチを抜き取ってやる。
「大丈夫?」
 そう言って覗き込んだ、涙で濡れた瞳の中、興奮は去っていなかった。期待通りの反応に、嬉しさがこみあげる。
「痛かっただろう?」
 返事を待たずに、股間に手を伸ばしてそっと撫でてやった。確かめるように握りこんだ小さな膨らみは、硬く手の平を押し返す。
「痛いのに、感じてた?」
 さすがに恥ずかしいのか、赤くした顔を逸らそうとする。その顎を捕まえて、顔をジッと覗き込んだ。
「正直に言えたら、もっと手伝ってあげるよ」
「えっ……」
「こんな状態だったら、イきたいだろう?」
 再度、足で踏まれて感じたのかと問えば、困ったように頷いてみせる。
「本当は、最初から、こうなることがわかってて、誘ったの? それとも本当に、試してみたかっただけ?」
「それはっ、本当に、こんなになるなんて思わなくてっ」
 誘ったのならお仕置と言いたいところだったが、無自覚だったと言うのなら、それはそれでも構わない。
「ずいぶんいやらしい身体をしてるね、青治は。踏まれて痛い思いをしたのに、それでもここはこんなに硬くなってる」
「あ、あっ、ごめんなさい。先生、ダメっ、触らないでっ」
 少し強めに揉み込んでやれば、小さな悲鳴が甘く響いた。
「どうして? 痛いのが気持ちいいんだろう? ちゃんと、もっと手伝ってあげるよ?」
「でもっ」
「それならどうして欲しい? 青治が自分でするのを見ていてあげようか? それとも、もう一度、足で踏んであげようか?」
 見詰める顔に浮かぶ期待の色に、夏至はうっすらと笑みを浮かべた。
「足でイかせて欲しいなら、今度は下着も全部脱ぎなさい。下着が汚れたら困るだろう? 先生も靴下を脱いで、今度は直接、踏んであげるよ」
 逡巡はそう長くは掛からず、青治はズボンのボタンに自ら手を伸ばす。ズボンと下着とを脱ぎ捨てた青治の口に、再度ハンカチを押し込んだ夏至は、ハンカチを咥えるその口にそっと口付けた。
「さっきよりずっとイヤラシイ格好だよ、青治。可愛くて、うんと泣かせてあげたくなる」
 驚きに目を見張る青治に、いままで見せた事のない笑顔を湛えながら、先ほどと同じように両足首を掴んで持ち上げる。剥きだしの股間の中心では、小さな性器がそれでも頭をもたげながら、刺激を待ちわび震えていた。
 もちろん、簡単にイかせてやるつもりなどなかったが、達してしまわない程度に、まずはゆっくりと足の裏で捏ね回してやる。
「んーっ、んっ、んっ……」
 身体を震わせ、夏至の与える快楽に素直に身悶える青治を見ながら、この子供の持つマゾヒストとしての素質を、自らの手で開花させてやりたいと思った。

 
 
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電ア少年 転校生の場合

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 それは終業の挨拶を終えて教師が教室を出て行った後、カバンを手に立ち上がった直後のことだった。
「まてよ、転校生」
 クラスでも目だって大柄な、大沢という少年に声を掛けられた。
「ワイ、急いどるんやけど」
 ムダだろうなと思いながら告げれば、やはり不興を買ったようだ。
「付き合い悪過ぎるんじゃねぇの、転校生よ」
「こっちにはこっちの都合があんねん。ほな、また明日」
 自分の態度が悪いことは百も承知で、けれど、新しい学校の新しいクラスメイトと馴れ合う必要はないとも思っていた。だから、さっさと逃げ出すに限る、とばかりに、雅善は目の前に立ちはだかる大沢の横をすり抜けようとした。
「待てっつってんだろ!」
 伸びてきた手に痛いほど腕を掴まれて、しまったなと思う。体格差はそのまま明確に腕力の差を現しているだろう。
 殴り合ったら、どう考えても自分の方が被害を被る。それでも一応は覚悟を決めて、手にしたカバンを床へ落とすと拳を握った。
 力の差はあっても一方的に殴られてやる気はなかったし、自慢できるようなことではないが、喧嘩慣れはしてると思う。上手くやれば同等のダメージを相手にくれてやれるだろうし、クラスの中で面倒そうなのはコイツだけだったから、コイツさえ黙らせることが出来れば後々楽そうだとも思う。
 負けられない。
「やんのか?」
「やる気マンマンなんは、そっちやろ?」
「勝てると思ってんのかよ?」
「負ける気はせんね」
「そうかよっ」
 言うなり足を払われてさすがに反応し切れず、整然と並んでいた机を巻き込んで、雅善は派手に床に転がった。
「痛っ……」
 椅子か机の足かに打ち付けた膝がジンと痺れ、雅善は小さな呻き声を漏す。二人を囲むように見守っていたクラスメイト達の騒ぐ声が耳に煩い。
「押さえろっ」
 そんな中、大沢の扇動するセリフが耳に届く。大きくなるざわめきと、数人が近寄ってくる気配。セリフの意味を理解した時には既に、伸びてきた複数の手によって両腕と両足を床に縫い付けられていた。
「放せや、この卑怯者!」
 取り巻くクラスメイト達を、雅善はキツイ瞳で睨み付ける。どちらかというと、大沢に逆らうのが怖いのだろう。雅善の視線に一瞬はたじろぐものの、必死の形相でもがく雅善を押さえつけている。
「侘びを入れるなら今のうちだぜ?」
 大沢の上履きが、雅善の股間の上に乗せられた。
 脅しを掛けるように軽く力のこもる足先に、大沢が何をするつもりなのか悟って、さすがに雅善も血の気が失せる。それを知って、大沢がニヤリと意地の悪い笑みを見せた。
「どうしたよ? 怖くて声も出ないか?」
 見下ろす大沢の醜悪な顔に、ツバを吐き掛けてやりたい衝動が襲ったが、それが叶う体勢ではない。雅善は大沢を睨みつけながらギリギリと歯を食いしばって、こみ上がる怒りを耐えた。
「なんだよその目は、ムカツクな。いつまで気取ってるつもりだよ?」
 何とか言えよと促されて、雅善は怒りに任せて言い募る。
「お山の大将気取っとるんは自分の方やろ、大沢。そないにでかい図体しとるくせに、タイマン張ることも出来ん弱虫や。侘びなんぞ入れる必要あらへんわ」
「なんだとっ」
「うあっっ!」
 股間を踏みにじられ、雅善の口から苦しげな声が漏れた。可哀想という女子の囁きに、羞恥で身体が熱くなる。
 もしも予測と違わず大沢が『電気アンマ』を仕掛けてくるとしたら、クラス中に醜態を晒してしまうだろう。掛けられたことも、掛けたことも、ないわけじゃない。ただ、ふざけてやりあった経験しか持たない雅善は、内心恐怖でいっぱいだった。
 この大沢相手に許してくれなんて、絶対言いたくない。かといって、終業直後でほぼクラス全員が見守る中、痴態を晒すのだって嫌だ。
 大沢に足を抱えられるのを目の端で捕らえながら、雅善は覚悟を決めてギュッと唇を噛み締めた。
「ぐぅ……あああぁぁっ」
 振動する大沢の足に、噛み締めた唇を割って、雅善の悲鳴が漏れる。床へと押さえつけられた両腕を力の限りバタつかせて身をよじろうとする雅善の額には、いくつもの汗の玉が浮かんでいた。
「おいっ、その辺にしておけ、剛士」
 遠くで誰かの声がして、股間への刺激が止まる。大沢の名前がタケシなのだと、初めて知った。
「何やってんだよ、お前。俺はそんなことしろなんて一言だって言ってないだろ?」
「だけどよ、ビリー」
「いいからやめろ」
 誰かが近づいてくる足音と、それに伴い下ろされる両足と開放される両腕。
「大丈夫か?」
 ムクリと身体を起こした雅善に手を差し出したのは、見たことのない顔をしている。先ほど大沢がビリーと呼んでいたが、黒い髪と黒い瞳を持つこの男の本名ではないだろう。
「誰や、アンタ」
「隣のクラスの、河東美里。名前を音読みしてビリーって呼ばれてる」
 ふーん、と気のない返事を返して、雅善は美里の手を借りずに立ち上がった。
「ほいで、自分、首謀者なん?」
「違う」
「ま、ええけど。止めてくれた礼だけは言うとくわ。おおきに」
 雅善は身体についた埃を軽く払うと、床に投げ出していたカバンを拾って何事もなかったかのように教室の出口へ向かって歩いていく。
「待てよ、ガイ!」
 その背に美里の声が掛かって、雅善は仕方なさそうに振り向いた。
「初対面の人間に、名前呼び捨てされるいわれはないんやけど?」
「お前も俺を、ビリーなりヨシノリなり、好きに呼べよ」
「そういう問題とちゃうやろ」
「そういう問題だよ。お前と友達になりたいんだ、ガイ」
「は?」
「大沢から話を聞いて、興味を持った。大沢には、放課後一緒に遊ぼうと誘って貰うつもりだっただけなんだ」
「そんなん一言かて言われてへんけど?」
「話を聞こうともせず睨みつけてくるからだろ!」
 口を挟んだのは、当然大沢だ。雅善は肩を竦めて見せる。
「それで、ガイ。俺達と一緒に遊びに行かないか?」
「無理や」
「なんだとっ!? 折角誘ってやってんのに、なんなんだよ、お前の態度はよっ!」
「騒ぐなよ、剛士。理由くらい、聞かせて貰えるんだろ?」
 大沢を制し、ニコリと微笑みすら浮かべながら尋ねてくる美里に、雅善は小さなため息を一つ吐き出した。
「ウチ、母子家庭やねん。仕事行っとるオカンに代わって、ワイが家事やっとんのや。一緒に遊んどる時間なんてあれへん」
 同情なんていらない。
 雅善はざわめくクラスメイト達に背を向けて、今度こそ教室を後にした。

 
 
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電ア少年 従兄弟の場合

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 高校受験を控えた中学3年の夏休み。朝から塾の夏期講習に参加した美里は、帰宅後、一休みとばかりに自室のベッドに転がった。
 どれくらいの時間眠っていたのだろう?
 ベッドのスプリングが軋む振動に続いて足に触れる人肌。
「……ん、何?」
 未だ半分以上眠りの国に身を任せたまま、美里はもっと寝かせておいて欲しいという気持ちを込めつつ、ボソボソと問い掛ける。相手は母親だと思い込んでいた。
「夕飯なら後で食うから」
 そう告げて、身をよじり壁に向かおうとする美里の足は、思いがけず強い力で持ち上げられた。予想外の行為にムリヤリ意識を浮上させられ、不機嫌そうに瞼を上げた美里の目に映ったのは、勝ち気に笑う少年だった。
「雅善!?」
「くらえっ、電気アンマ!!」
 驚き問い掛けた美里の言葉と少年の発した声が重なり、次には股間に激しい振動が送られてくる。寝起きの頭と身体には強すぎる刺激だった。
「ぐあぁっ……」
 美里はベッドの上で悶絶する。
 時間にして多分数十秒。足はあっさりと下ろされた。
「どうや、まいったか!」
 勝ち誇ったように告げた少年は、疲れたと言わんばかりに足を抱えていた両腕を振っている。それを目の端に捕らえながら、尚暫くの間ベッドの上で荒く息を吐いていた美里は、何故目の前に遠方に住んでるはずの従兄弟がいるのかを思い出していた。
 西方雅善という名の少年は、関西へと嫁いだ母の妹の息子で、美里より5歳年下の小学5年生だ。
 元々仲の良い姉妹で、どうやら一緒に出掛けたいらしく、夏休み中に1日子守をしてくれと頼まれたのを覚えている。
 すっかり忘れていた。
「俺が子守のバイトするのは、明日のハズだろ……」
 ぼやきながら上半身を起こせば、雅善は不思議そうに首を傾げる。
「何の話や?」
「いや、なんでもない」
 そうだ。前日から我が家に泊まって、明日は朝から出掛けると言っていた。明日は一日、この雅善のお守りをするのかと思うと、今から溜息が出そうだった。
「なーなー。それより、どうやった?」
「どうって、何が?」
「電気アンマ。結構効いたやろ?」
 クラスで流行ってる遊びなんだと笑う雅善に、そういや昔、同じように流行った事があったなと思う。あれは小学校に入ってすぐくらいだったろうか。地域差なのかリバイバルブームなのか、随分時差があるなと思いながら、美里はニヤリと笑い返した。
「たいした事ないな」
「嘘吐け。ぐわぁ~とか叫んどったやないか」
「寝起きだったからさ」
「そんなん強がりやん」
 もう一回思い知らせてやると膝に掛かった手を、美里はやんわり捕まえる。
「待てよ。今度は俺の番だろ?」
「え?」
「やられたらやり返す。こういうのはそうやって遊ぶのがルールじゃないのか?」
 少なくとも、自分のクラスではそうだった。
 掴んだ手を勢い良く引けば、バランスを崩して倒れこんでくる小さな身体。軽々と受け止めてベッドの上に転がすと、すばやく立ち上がって体勢を整えた。
「わっ、ちょっ、待っ」
「待たない」
「うぁっ、あっ、ああああーっはっはっは、や、やめっ!」
 さすがに子供相手にパワー全開はまずいかと、力を加減したせいだろうか。雅善は半ば笑いながら、悶えている。
 自由になる上半身をバタつかせて逃げようとするが、美里はがっしりと捕まえた両足を放すことはない。体格差は充分で、雅善の足の重みなどほとんど気にならなかった。数十秒で美里の足を放った雅善との差はここにある。
「ほらほら、参ったなら参ったって言えよ?」
「だ、誰がっ、あっ、ははっああんっ、んっ」
 負けず嫌いな所があるのか、それとも笑っているくらいだからやはり力加減が甘いのか。
「仕方ないな。んじゃ、レベルアップ」
 言いながら、美里は足に込める力を少しばかり強くした。
「うあぁ、ああああああ!!」
 ギュッとのけぞる身体に、しまったなと思う。やはり力を入れすぎたかも知れない。
「おい、大丈夫か?」
 慌てて開放すると、美里は膝をつき、暴れた興奮からか紅潮している雅善の顔を覗きこんだ。潤んだ目を隠すようにそっぽを向いてしまった雅善は、キュッと唇を結んで頑に美里のことを拒んでいるようだった。
「ホント、悪かったよ」
 仕掛けてきたのはお前だろう、とか。これでも手加減してたんだ、とか。言いたいことは山ほどあったが、美里は謝罪の言葉だけを告げて、困ったように目の前の小さな頭をそっと撫でる。
「ぁっ……」
 ピクリと震える身体と、小さく零れる吐息。雅善は耳まで真っ赤に染めて、モジモジと膝をすり合わせている。
「お、前……」
 もしかして、感じてた、とか?
 言葉に出せず躊躇う美里の気配に、雅善も気付かれた事を悟ったのだろう。
「ヨシノリのアホ! カス! イケズ!」
 どけと言わんばかりに突っぱねられた腕を取り、それを片手でまとめて拘束すると、美里は確かめるようにそっと、雅善の股間にもう片方の手の平を当てた。軽く揉み込むようにしてみても、その手を押し返す弾力はない。
「やっ……!」
 急に大人しくなって、雅善は緊張で身体を固めている。
「イっちゃった、とか?」
 やはり困惑気味に問い掛けた美里に返されたのは、大きな瞳から零れ落ちる涙だった。両腕を拘束されて拭くことのできない涙が、次から次へと溢れては流れ落ちていく。
「うー……っ」
 雅善は悔しそうに唇を噛み締めていた。
 酷く申し訳ない気持ちになって、美里は雅善の身体を引き起こすとそっと抱きしめ、宥めるようにその背を軽く叩いてやる。
「ゴメン、本当に悪かった。母さん達にはバレないように、ちゃんと始末してやるから。だから泣くなよ、な」
「ど、やって……?」
「あー……」
 部屋の中に視線を巡らせた美里は、先ほど塾から持ち帰り、机の上に置いていたペットボトルに目を止める。
「うん、大丈夫。ちょっといいか?」
 雅善をベッドへ置いて立ち上がった美里は、ペットボトルを取ってくると、雅善の視線の高さにそれを掲げて見せた。レモンティーのラベルがついたそのペットボトルの中には、数センチ分の飲み残しが入っている。
 雅善が不安げに見守る中、その蓋を開けた美里は、一瞬の躊躇いも見せずに雅善へ向かってそのボトルを傾けた。琥珀の液体を胸のあたりから被った雅善は、驚きに言葉をなくして、ただただ美里を見つめている。
「よし、じゃあ、行くか」
 ニコリと笑った美里は、雅善の手に空になったペットボトルを握らせると、ヒョイとその身体を抱き上げた。
「ど、どこへ!?」
「風呂場。汚れた服も、洗わないとな」
 俺達はふざけてて、置いてたペットボトルを倒したんだ。
 美里の告げた理由に、雅善は至極真面目な表情でわかったと呟き頷いてみせる。それを目の端に捕らえながら、明日もこれくらいしおらしくしててくれればいいなと思った。

 
 
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