電ア少年 家教と生徒の場合

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「ナツ先生、電気アンマの刑って、知ってます?」
 予定された授業時間の半分が過ぎた頃だろうか。今日はめずらしくソワソワしていると思っていた教え子の青治が、意を決した様子でそう口にした。
「電気アンマの刑?」
 つい先ほどまで青治が挑戦していたミニテストの解答を赤ペン片手にチェックしていた夏至は、答案用紙から目を離さないままで聞き返す。
「そう、です。あの、今、クラスで流行ってるんですけど、先生が小学生の頃も、ありましたか?」
「ああ、そういえば、そんなのが流行った事もあったかな」
「本当ですか? 先生も、したり、されたり、したんですか?」
 チェックを終えて顔をあげれば、真っ赤になりながらも真剣な表情で夏至を見詰める青治と目が合った。随分と興奮している。
「どうしたの?」
 本当に珍しいと思いながら、柔らかな声で問い掛ければ、教えて欲しいんです、なんて言葉が返ってきて、さすがの夏至も驚いた。しかし、表情には出さない。それくらいのポーカーフェイスはお手の物で、やはり柔らかな表情を崩さないまま、再度問い掛けの言葉を口にする。
 今度はもう少し、詳しい話を聞くために。
「僕は家庭教師だから、教えてくれと頼まれれば、教科外だろうと知ってることは教えてあげようと思うけれど、クラスで流行ってるなら、今更何を教えて欲しいと言っているんだろうね? 青治は」
「それは、あの……」
「はっきり言ってくれないと、何を教わりたいのかわからないよ?」
「されたこと、ないんです。もちろん、したことも。別にそれでクラスの友達から仲間はずれにされてるわけでもないんですけど。僕がその刑をされそうな雰囲気になると、なぜか途中で止まっちゃうんです。みんな、僕にはしたがらない。だから僕だけ、流行ってるのに一度も経験した事がない」
 夏至は目の前の少年の顎に手を添えると、不躾にジロジロとその顔を眺め見る。青治の優しく整った面立ちを、クラスメイトの男の子たちが、電気アンマなどという遊びで歪ませたくないと思うだろうことは容易に想像がついた。
「それは、みんなが青治の事を大好きってことだろう?」
「どういう意味ですか?」
「痛い事、したくないんだよ。青治には。例え遊びでもね」
「でも、僕だって……」
「されてみたい?」
 コクリと頷く顔は上気している。変な頼みごとをしているという自覚からか、それとも行為への期待からか、どちらにしろ面白そうだと思った。
「いいよ」
「本当ですか!?」
 答えれば、目を輝かせて夏至を仰ぎ見る。内心では、この綺麗な顔を苦痛に歪ませても構わないなんて、飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのことだなどと思いながらも、夏至は柔らかな笑顔を湛えたまま頷いて見せた。
「ああ。このミニテスト、一問もミスがなかったご褒美にね」
 言いながら青治の手を取り立ち上がった夏至は、青治のズボンのポケットから、ハンカチをスルリと抜き取った。
「口を開けて、青治」
「え?」
「これからすることが痛みを伴うと言うことは知っているんだろう? 叫ばれてお家の方が飛んできたら、家庭教師をクビになってしまうからね。コレを噛んで、声を出すのは我慢しなさい」
「はい」
 素直に開かれた青治の口に、夏至は丸めたハンカチを押し込める。小さな口からはみ出したハンカチに、それだけでも、酷く嗜虐心を煽られた。
 そうしてから、青治の身体をベッドの上ではなく、あえて床上へと横たえる。両足首を掴みあげて見下ろせば、既に潤んだ瞳が期待の熱を孕んで見詰め返した。やはり行為への興奮なのかと思うと、笑ってしまいそうになるのを堪えるのが、いささか大変だった。まさか青治に、こんな素質があるとは思っていなかった。
「いい? するよ?」
 それでもまだ、優しい家庭教師の仮面を被ったまま、問い掛ける。ただし、頷くのを待って、股間を踏みにじる足に、容赦はしなかった。
「んんーっ……!!」
 ハンカチに吸われ、くぐもった悲鳴。
 ハンカチを吐き出したらその時点で終了するつもりだったが、青治はギュッとそれを噛み締め耐えている。痛みに身悶え、嫌々と首を振るのに合わせて、溢れた涙が散る姿が愛おしいと思った。
 もっとずっと眺めていたい気持ちを押さえ込んで開放した後は、グッタリと身体の力を抜いた青治の脇へと膝を付き、その身体をゆっくりと起こし、口からはハンカチを抜き取ってやる。
「大丈夫?」
 そう言って覗き込んだ、涙で濡れた瞳の中、興奮は去っていなかった。期待通りの反応に、嬉しさがこみあげる。
「痛かっただろう?」
 返事を待たずに、股間に手を伸ばしてそっと撫でてやった。確かめるように握りこんだ小さな膨らみは、硬く手の平を押し返す。
「痛いのに、感じてた?」
 さすがに恥ずかしいのか、赤くした顔を逸らそうとする。その顎を捕まえて、顔をジッと覗き込んだ。
「正直に言えたら、もっと手伝ってあげるよ」
「えっ……」
「こんな状態だったら、イきたいだろう?」
 再度、足で踏まれて感じたのかと問えば、困ったように頷いてみせる。
「本当は、最初から、こうなることがわかってて、誘ったの? それとも本当に、試してみたかっただけ?」
「それはっ、本当に、こんなになるなんて思わなくてっ」
 誘ったのならお仕置と言いたいところだったが、無自覚だったと言うのなら、それはそれでも構わない。
「ずいぶんいやらしい身体をしてるね、青治は。踏まれて痛い思いをしたのに、それでもここはこんなに硬くなってる」
「あ、あっ、ごめんなさい。先生、ダメっ、触らないでっ」
 少し強めに揉み込んでやれば、小さな悲鳴が甘く響いた。
「どうして? 痛いのが気持ちいいんだろう? ちゃんと、もっと手伝ってあげるよ?」
「でもっ」
「それならどうして欲しい? 青治が自分でするのを見ていてあげようか? それとも、もう一度、足で踏んであげようか?」
 見詰める顔に浮かぶ期待の色に、夏至はうっすらと笑みを浮かべた。
「足でイかせて欲しいなら、今度は下着も全部脱ぎなさい。下着が汚れたら困るだろう? 先生も靴下を脱いで、今度は直接、踏んであげるよ」
 逡巡はそう長くは掛からず、青治はズボンのボタンに自ら手を伸ばす。ズボンと下着とを脱ぎ捨てた青治の口に、再度ハンカチを押し込んだ夏至は、ハンカチを咥えるその口にそっと口付けた。
「さっきよりずっとイヤラシイ格好だよ、青治。可愛くて、うんと泣かせてあげたくなる」
 驚きに目を見張る青治に、いままで見せた事のない笑顔を湛えながら、先ほどと同じように両足首を掴んで持ち上げる。剥きだしの股間の中心では、小さな性器がそれでも頭をもたげながら、刺激を待ちわび震えていた。
 もちろん、簡単にイかせてやるつもりなどなかったが、達してしまわない程度に、まずはゆっくりと足の裏で捏ね回してやる。
「んーっ、んっ、んっ……」
 身体を震わせ、夏至の与える快楽に素直に身悶える青治を見ながら、この子供の持つマゾヒストとしての素質を、自らの手で開花させてやりたいと思った。

 
 
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電ア少年 転校生の場合

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 それは終業の挨拶を終えて教師が教室を出て行った後、カバンを手に立ち上がった直後のことだった。
「まてよ、転校生」
 クラスでも目だって大柄な、大沢という少年に声を掛けられた。
「ワイ、急いどるんやけど」
 ムダだろうなと思いながら告げれば、やはり不興を買ったようだ。
「付き合い悪過ぎるんじゃねぇの、転校生よ」
「こっちにはこっちの都合があんねん。ほな、また明日」
 自分の態度が悪いことは百も承知で、けれど、新しい学校の新しいクラスメイトと馴れ合う必要はないとも思っていた。だから、さっさと逃げ出すに限る、とばかりに、雅善は目の前に立ちはだかる大沢の横をすり抜けようとした。
「待てっつってんだろ!」
 伸びてきた手に痛いほど腕を掴まれて、しまったなと思う。体格差はそのまま明確に腕力の差を現しているだろう。
 殴り合ったら、どう考えても自分の方が被害を被る。それでも一応は覚悟を決めて、手にしたカバンを床へ落とすと拳を握った。
 力の差はあっても一方的に殴られてやる気はなかったし、自慢できるようなことではないが、喧嘩慣れはしてると思う。上手くやれば同等のダメージを相手にくれてやれるだろうし、クラスの中で面倒そうなのはコイツだけだったから、コイツさえ黙らせることが出来れば後々楽そうだとも思う。
 負けられない。
「やんのか?」
「やる気マンマンなんは、そっちやろ?」
「勝てると思ってんのかよ?」
「負ける気はせんね」
「そうかよっ」
 言うなり足を払われてさすがに反応し切れず、整然と並んでいた机を巻き込んで、雅善は派手に床に転がった。
「痛っ……」
 椅子か机の足かに打ち付けた膝がジンと痺れ、雅善は小さな呻き声を漏す。二人を囲むように見守っていたクラスメイト達の騒ぐ声が耳に煩い。
「押さえろっ」
 そんな中、大沢の扇動するセリフが耳に届く。大きくなるざわめきと、数人が近寄ってくる気配。セリフの意味を理解した時には既に、伸びてきた複数の手によって両腕と両足を床に縫い付けられていた。
「放せや、この卑怯者!」
 取り巻くクラスメイト達を、雅善はキツイ瞳で睨み付ける。どちらかというと、大沢に逆らうのが怖いのだろう。雅善の視線に一瞬はたじろぐものの、必死の形相でもがく雅善を押さえつけている。
「侘びを入れるなら今のうちだぜ?」
 大沢の上履きが、雅善の股間の上に乗せられた。
 脅しを掛けるように軽く力のこもる足先に、大沢が何をするつもりなのか悟って、さすがに雅善も血の気が失せる。それを知って、大沢がニヤリと意地の悪い笑みを見せた。
「どうしたよ? 怖くて声も出ないか?」
 見下ろす大沢の醜悪な顔に、ツバを吐き掛けてやりたい衝動が襲ったが、それが叶う体勢ではない。雅善は大沢を睨みつけながらギリギリと歯を食いしばって、こみ上がる怒りを耐えた。
「なんだよその目は、ムカツクな。いつまで気取ってるつもりだよ?」
 何とか言えよと促されて、雅善は怒りに任せて言い募る。
「お山の大将気取っとるんは自分の方やろ、大沢。そないにでかい図体しとるくせに、タイマン張ることも出来ん弱虫や。侘びなんぞ入れる必要あらへんわ」
「なんだとっ」
「うあっっ!」
 股間を踏みにじられ、雅善の口から苦しげな声が漏れた。可哀想という女子の囁きに、羞恥で身体が熱くなる。
 もしも予測と違わず大沢が『電気アンマ』を仕掛けてくるとしたら、クラス中に醜態を晒してしまうだろう。掛けられたことも、掛けたことも、ないわけじゃない。ただ、ふざけてやりあった経験しか持たない雅善は、内心恐怖でいっぱいだった。
 この大沢相手に許してくれなんて、絶対言いたくない。かといって、終業直後でほぼクラス全員が見守る中、痴態を晒すのだって嫌だ。
 大沢に足を抱えられるのを目の端で捕らえながら、雅善は覚悟を決めてギュッと唇を噛み締めた。
「ぐぅ……あああぁぁっ」
 振動する大沢の足に、噛み締めた唇を割って、雅善の悲鳴が漏れる。床へと押さえつけられた両腕を力の限りバタつかせて身をよじろうとする雅善の額には、いくつもの汗の玉が浮かんでいた。
「おいっ、その辺にしておけ、剛士」
 遠くで誰かの声がして、股間への刺激が止まる。大沢の名前がタケシなのだと、初めて知った。
「何やってんだよ、お前。俺はそんなことしろなんて一言だって言ってないだろ?」
「だけどよ、ビリー」
「いいからやめろ」
 誰かが近づいてくる足音と、それに伴い下ろされる両足と開放される両腕。
「大丈夫か?」
 ムクリと身体を起こした雅善に手を差し出したのは、見たことのない顔をしている。先ほど大沢がビリーと呼んでいたが、黒い髪と黒い瞳を持つこの男の本名ではないだろう。
「誰や、アンタ」
「隣のクラスの、河東美里。名前を音読みしてビリーって呼ばれてる」
 ふーん、と気のない返事を返して、雅善は美里の手を借りずに立ち上がった。
「ほいで、自分、首謀者なん?」
「違う」
「ま、ええけど。止めてくれた礼だけは言うとくわ。おおきに」
 雅善は身体についた埃を軽く払うと、床に投げ出していたカバンを拾って何事もなかったかのように教室の出口へ向かって歩いていく。
「待てよ、ガイ!」
 その背に美里の声が掛かって、雅善は仕方なさそうに振り向いた。
「初対面の人間に、名前呼び捨てされるいわれはないんやけど?」
「お前も俺を、ビリーなりヨシノリなり、好きに呼べよ」
「そういう問題とちゃうやろ」
「そういう問題だよ。お前と友達になりたいんだ、ガイ」
「は?」
「大沢から話を聞いて、興味を持った。大沢には、放課後一緒に遊ぼうと誘って貰うつもりだっただけなんだ」
「そんなん一言かて言われてへんけど?」
「話を聞こうともせず睨みつけてくるからだろ!」
 口を挟んだのは、当然大沢だ。雅善は肩を竦めて見せる。
「それで、ガイ。俺達と一緒に遊びに行かないか?」
「無理や」
「なんだとっ!? 折角誘ってやってんのに、なんなんだよ、お前の態度はよっ!」
「騒ぐなよ、剛士。理由くらい、聞かせて貰えるんだろ?」
 大沢を制し、ニコリと微笑みすら浮かべながら尋ねてくる美里に、雅善は小さなため息を一つ吐き出した。
「ウチ、母子家庭やねん。仕事行っとるオカンに代わって、ワイが家事やっとんのや。一緒に遊んどる時間なんてあれへん」
 同情なんていらない。
 雅善はざわめくクラスメイト達に背を向けて、今度こそ教室を後にした。

 
 
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電ア少年 従兄弟の場合

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 高校受験を控えた中学3年の夏休み。朝から塾の夏期講習に参加した美里は、帰宅後、一休みとばかりに自室のベッドに転がった。
 どれくらいの時間眠っていたのだろう?
 ベッドのスプリングが軋む振動に続いて足に触れる人肌。
「……ん、何?」
 未だ半分以上眠りの国に身を任せたまま、美里はもっと寝かせておいて欲しいという気持ちを込めつつ、ボソボソと問い掛ける。相手は母親だと思い込んでいた。
「夕飯なら後で食うから」
 そう告げて、身をよじり壁に向かおうとする美里の足は、思いがけず強い力で持ち上げられた。予想外の行為にムリヤリ意識を浮上させられ、不機嫌そうに瞼を上げた美里の目に映ったのは、勝ち気に笑う少年だった。
「雅善!?」
「くらえっ、電気アンマ!!」
 驚き問い掛けた美里の言葉と少年の発した声が重なり、次には股間に激しい振動が送られてくる。寝起きの頭と身体には強すぎる刺激だった。
「ぐあぁっ……」
 美里はベッドの上で悶絶する。
 時間にして多分数十秒。足はあっさりと下ろされた。
「どうや、まいったか!」
 勝ち誇ったように告げた少年は、疲れたと言わんばかりに足を抱えていた両腕を振っている。それを目の端に捕らえながら、尚暫くの間ベッドの上で荒く息を吐いていた美里は、何故目の前に遠方に住んでるはずの従兄弟がいるのかを思い出していた。
 西方雅善という名の少年は、関西へと嫁いだ母の妹の息子で、美里より5歳年下の小学5年生だ。
 元々仲の良い姉妹で、どうやら一緒に出掛けたいらしく、夏休み中に1日子守をしてくれと頼まれたのを覚えている。
 すっかり忘れていた。
「俺が子守のバイトするのは、明日のハズだろ……」
 ぼやきながら上半身を起こせば、雅善は不思議そうに首を傾げる。
「何の話や?」
「いや、なんでもない」
 そうだ。前日から我が家に泊まって、明日は朝から出掛けると言っていた。明日は一日、この雅善のお守りをするのかと思うと、今から溜息が出そうだった。
「なーなー。それより、どうやった?」
「どうって、何が?」
「電気アンマ。結構効いたやろ?」
 クラスで流行ってる遊びなんだと笑う雅善に、そういや昔、同じように流行った事があったなと思う。あれは小学校に入ってすぐくらいだったろうか。地域差なのかリバイバルブームなのか、随分時差があるなと思いながら、美里はニヤリと笑い返した。
「たいした事ないな」
「嘘吐け。ぐわぁ~とか叫んどったやないか」
「寝起きだったからさ」
「そんなん強がりやん」
 もう一回思い知らせてやると膝に掛かった手を、美里はやんわり捕まえる。
「待てよ。今度は俺の番だろ?」
「え?」
「やられたらやり返す。こういうのはそうやって遊ぶのがルールじゃないのか?」
 少なくとも、自分のクラスではそうだった。
 掴んだ手を勢い良く引けば、バランスを崩して倒れこんでくる小さな身体。軽々と受け止めてベッドの上に転がすと、すばやく立ち上がって体勢を整えた。
「わっ、ちょっ、待っ」
「待たない」
「うぁっ、あっ、ああああーっはっはっは、や、やめっ!」
 さすがに子供相手にパワー全開はまずいかと、力を加減したせいだろうか。雅善は半ば笑いながら、悶えている。
 自由になる上半身をバタつかせて逃げようとするが、美里はがっしりと捕まえた両足を放すことはない。体格差は充分で、雅善の足の重みなどほとんど気にならなかった。数十秒で美里の足を放った雅善との差はここにある。
「ほらほら、参ったなら参ったって言えよ?」
「だ、誰がっ、あっ、ははっああんっ、んっ」
 負けず嫌いな所があるのか、それとも笑っているくらいだからやはり力加減が甘いのか。
「仕方ないな。んじゃ、レベルアップ」
 言いながら、美里は足に込める力を少しばかり強くした。
「うあぁ、ああああああ!!」
 ギュッとのけぞる身体に、しまったなと思う。やはり力を入れすぎたかも知れない。
「おい、大丈夫か?」
 慌てて開放すると、美里は膝をつき、暴れた興奮からか紅潮している雅善の顔を覗きこんだ。潤んだ目を隠すようにそっぽを向いてしまった雅善は、キュッと唇を結んで頑に美里のことを拒んでいるようだった。
「ホント、悪かったよ」
 仕掛けてきたのはお前だろう、とか。これでも手加減してたんだ、とか。言いたいことは山ほどあったが、美里は謝罪の言葉だけを告げて、困ったように目の前の小さな頭をそっと撫でる。
「ぁっ……」
 ピクリと震える身体と、小さく零れる吐息。雅善は耳まで真っ赤に染めて、モジモジと膝をすり合わせている。
「お、前……」
 もしかして、感じてた、とか?
 言葉に出せず躊躇う美里の気配に、雅善も気付かれた事を悟ったのだろう。
「ヨシノリのアホ! カス! イケズ!」
 どけと言わんばかりに突っぱねられた腕を取り、それを片手でまとめて拘束すると、美里は確かめるようにそっと、雅善の股間にもう片方の手の平を当てた。軽く揉み込むようにしてみても、その手を押し返す弾力はない。
「やっ……!」
 急に大人しくなって、雅善は緊張で身体を固めている。
「イっちゃった、とか?」
 やはり困惑気味に問い掛けた美里に返されたのは、大きな瞳から零れ落ちる涙だった。両腕を拘束されて拭くことのできない涙が、次から次へと溢れては流れ落ちていく。
「うー……っ」
 雅善は悔しそうに唇を噛み締めていた。
 酷く申し訳ない気持ちになって、美里は雅善の身体を引き起こすとそっと抱きしめ、宥めるようにその背を軽く叩いてやる。
「ゴメン、本当に悪かった。母さん達にはバレないように、ちゃんと始末してやるから。だから泣くなよ、な」
「ど、やって……?」
「あー……」
 部屋の中に視線を巡らせた美里は、先ほど塾から持ち帰り、机の上に置いていたペットボトルに目を止める。
「うん、大丈夫。ちょっといいか?」
 雅善をベッドへ置いて立ち上がった美里は、ペットボトルを取ってくると、雅善の視線の高さにそれを掲げて見せた。レモンティーのラベルがついたそのペットボトルの中には、数センチ分の飲み残しが入っている。
 雅善が不安げに見守る中、その蓋を開けた美里は、一瞬の躊躇いも見せずに雅善へ向かってそのボトルを傾けた。琥珀の液体を胸のあたりから被った雅善は、驚きに言葉をなくして、ただただ美里を見つめている。
「よし、じゃあ、行くか」
 ニコリと笑った美里は、雅善の手に空になったペットボトルを握らせると、ヒョイとその身体を抱き上げた。
「ど、どこへ!?」
「風呂場。汚れた服も、洗わないとな」
 俺達はふざけてて、置いてたペットボトルを倒したんだ。
 美里の告げた理由に、雅善は至極真面目な表情でわかったと呟き頷いてみせる。それを目の端に捕らえながら、明日もこれくらいしおらしくしててくれればいいなと思った。

 
 
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