女装して出歩いたら知り合いにホテルに連れ込まれた

 そいつは友人の友人の友人で、顔くらいは知っているが、たいして話をしたこともない相手だった。そんな相手に街中で声をかけられた時は女装がバレたのだと思って焦ったが、どうやらそうでもないらしい。
 めちゃくちゃ好みのタイプだと言って、躊躇いなく可愛いねと笑ってくるから、なんとなくの好奇心でお茶くらいならしてもいいと返した。
 友人の友人の友人ではあるから、バレた時のリスクは高い。けれど最悪罰ゲームとでも言えば良いと思ったし、女装男にそうと気付かずナンパを仕掛けた相手だって相当の恥辱だろう。
 相手は自分と違って割といつも人の輪の中心に居るようなタイプだけれど、納得の会話術でどんどんと相手の話に引き込まれていく。人を気分よく動かす術にも長けているようで、どう考えたってマズイのに、気づいたらラブホの一室に連れ込まれていた。
 なぜオッケーしてしまったのかイマイチわからない驚きの展開だったが、逆に、こうして女性をホテルに連れ込むのかと感心する気持ちも強い。といっても自分に同じ真似が出来るかといえば、彼女いない歴=年齢の非モテ童貞男の自分には絶対にムリなのだけれど。
 初めて訪れたラブホテルという空間に呆然と魅入っていたら、緊張してるなら先に一緒にお風呂に入ろうかなんて声が掛かって、慌てて首を横にふる。
「じゃあ取り敢えず座る?」
「あの、やっぱり……」
「怖くなっちゃった?」
 帰りたいかと問いつつも、逃さないとでも言いたげに手を取られて握られた。自然と視線はその手へ落ちる。その視界の中、ギュッと相手の手に力がこもった。思いの外強く握られ焦っていると、大丈夫と彼の言葉が続く。
「わかってるよ、大丈夫。俺、男の娘とも経験あるから、心配しないで?」
「……えっ?」
 慌てて顔を上げれば、相手は優しい顔で頷いてみせる。
「えっ……知って……?」
「ん? 君が女装子だってこと? それとも俺達が元々知り合いだってこと?」
 名前を言い当てられて血の気が引いた。
「男の君も良いなとは思ってたんだけど、女装姿も凄くいいよ。可愛いって言ったの嘘じゃないからね? 君がそっちって知れたのめちゃくちゃチャンスだと思って頑張っちゃった。警戒するのもわかるけど、もうちょっと頑張らせてくれない?」
 下手ではないと思うよと言いながら、取られた手を引かれて抱き寄せられる。近づく顔から逃げるように顔を背けて、なんとか口を開いた。
「ま、待って。待って」
「知られてると思わなかった?」
「だって、そんな……そ、そうだ、これ罰ゲームでっ」
 バレたら罰ゲームだった事にしようとしていたのを思い出して咄嗟に口走るものの、あまりにあからさま過ぎて、口に出しながら恥ずかしくなる。相手がおかしそうに吹き出すから、恥ずかしさは更に増した。
「ほんと可愛いな。女装知られたくないなら、他の奴らには言わないよ。2人だけの秘密ね」
 顔を背けたままだったからか、ちゅっと耳元に口付けられて盛大に肩が跳ねてオカシナ声が飛び出てしまった。
「ひゃぅっ」
「良い反応。でもちゃんと唇にもキスしたいなぁ。ね、こっち向いて?」
「や、やだっ」
「俺の事、嫌いじゃないでしょ? だって嫌いだったらこんなとこ付いてこないよね?」
「な、なんでこんなとこ来ちゃったのか、わかんない。ゴメン、ホント、ただの好奇心。てか女装してるけど男好きってわけじゃないし、き、キスも、初めてが男とかマジ勘弁」
「えっ……?」
「ど、どーてー拗らせまくって女装してるけど、俺は、女の子が、好きですっ」
 必死で言い募ったら無言のまま掴まれていた手も腰に回っていた腕もスルリと離れていった。
 相手はよろよろとベッドへ近づくと、そのままボスンとベッドに倒れ込む。
「騙されたー」
「えっ、えっ?」
「ねぇ、本当の本当に、好きなの女の子だけで男はなしなの?」
「今のところは」
「キスもまだの童貞拗らせて女装かぁ……」
「うっ……」
 しみじみ言われて言葉に詰まる。自分で言ってしまったことだし、それを言うなと相手に強いる立場にはなさそうだ。
「俺、結構本気で落としにかかってたんだけど、やっぱ脈なし? 諦めたほうが良い?」
 即答できずに居たら、少しばかり復活した様子で相手が嬉しげに笑う。
「取り敢えずさ、連絡先くらいは交換しない?」
 まずはお友達から始めようという提案に、否を返すことはなかった。

続きました→

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