Eyes4話 美里の家で

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「泊りにこないか?」
 それは金曜の夜。時間は9時をまわっていた。
「今からか?」
「明日、学校も部活も無いだろう?」
「せやけど……なぁ、それって、誘ってくれとるん?」
 少しだけ冗談めかして尋ねる。
 美里から誘ってきたことなんて無いから、期待なんてしない方がいい。十分わかっていて、それでもやはり、心のどこかで期待している。
「雅善が、疲れてないようなら……」
「今から、行く」
 躊躇いがちに告げられたセリフに即答して、電話を切った。親に一言だけ断って、家を飛び出す。
 
嬉しかった。
 
「早かったな」
 玄関先で掛けられた言葉に、さすがに顔が熱くなる。浮かれて、駆け足で来てしまったことを、笑われているような気がした。
「美里の気が、変わらんうちに来たかったんや。美里から誘うくれたんは、初めてやんか」
「ああ、そうだな」
 優しい口調に少しだけ、ホッとするような不思議な気分を味わった。
「親、いないんか?」
 階段を登りながら、いつ来ても静かな家の中が気になって尋ねる。
「居たら、泊りに来いなんて電話を、わざわざ掛けると思うか?」
 泊まりがけで出掛けたと言う言葉が返ってきた。帰って来るのは日曜の夜だとも。
「さすがに、一人の夜は寂しいんか?」
 本当にそう思っただけだったのに、返ってきたのは呆れたようなため息がひとつ。
「今更だろ。親の居ない夜になんて、慣れてるさ。ただ、明日が休みだから、たまにはちゃんとしてみてもいいかと思ったんだ」
「ちゃんと……?」
「いつも一方的に、むりやり抱かせてる自覚、あるだろう?」
 返事をする前に、美里の部屋の前に着いた。この部屋の中で、抱かれたことがないとは言わない。親が共働きで不在な事が多いと知って、押しかけたことは何度もあった。けれど、いつもとは違う美里に、頭の中で警戒信号が点滅している。
「俺が、抱かせて欲しいと誘ってもかまわないんじゃなかったのか? それとも俺は、お前が抱かれたい時に、都合よく相手をさせるための存在か?」
 部屋へ一歩踏み入った場所から振り返って、美里が誘う。
 優しい微笑みを浮かべてはいたけれど、その目は、笑ってなんかいない。いつも見せる、困っているような、怒っているようなものでもない。何か思う所があるのだろう、強い意思が見え隠れしている。
 その言葉は、頭をガツンと殴られるような衝撃をもたらした。
 
そんな風に思っていたなんて……
   
「雅善が、選んでいい。この部屋にそのまま入ってくるか、回れ右して自分の家に帰るか。ただし、俺 が、俺 の 意 志 で、お前を抱こうとしてるんだって、その覚悟はしておいた方がいい」
 そう言いながら、右手を差し出してくる。
 
美里が、
美里の意志で、
自分を求めてくれる。

 
 それは待っていた瞬間だったはずなのに、なぜか恐怖に似た感情で体が震えた。
 いや、理由はちゃんとわかっている。その瞳の中には、熱い想いのカケラすら見えなかったからだ。見たことのない瞳は、何を考えているのかが見えなくて恐い。
 けれど一歩踏み込んで、その手を取った。
 
 
 
 
傷つけられても、いい。

 

 

 正確には、傷ができるような行為は何もされなかった。
 覚悟した方がいいと言った、その言葉が、全く別の意味を持っていたということには、資料室で最初に誘った時以来のキスを、仕掛けられた時に気付いた。
 乱暴に、美里の欲望の赴くまま抱かれることを想像していた自分を裏切るように、ただそれだけを何度も繰り返す、優しいキス。やがて、くすぶりはじめる熱を自覚して、気付かされた。
 
 
いつも、自分が美里にしていることを、やり返されるということに。
煽って、むりやりに感じさせたいのだ。
ただ、挑戦的に直接の刺激で煽る自分とは、明らかに違う。
逆らうことを許さない優しさで、ゆっくりと焦らされる。

嫌だ。
逃げ出したい。
本気で、そう思った。

    

 美里を受け入れることに慣れはじめていた体は、あっさり心を裏切った。開かれる痛みしか知らなかった場所も、簡単に快楽を享受していく。まるで痛みを感じない行為に、罪悪感が押し寄せた。欲しいのは裁かれる痛みで、優しい快楽なんて、いらない。
 美里の指で、舌で、体で。感じさせてもらうほどの価値が、自分には、ない。
 
イヤや、とか。
やめて、とか。
許して、とか。

 
 それは、自然に零れ出て、何度も繰り返された言葉。
 
イイ、とか。
もっと、とか。
感じる、とか。
イかせて、とか。

 
 これは、むりやり引き出されて、繰り返すことを強要された言葉。
 声が枯れるほどに感じさせられて、それを、見られていた。じっと見つめてくる瞳はまっすぐで、けれど、感情が読みにくい。気持ちがまるで見えない不安と、恥ずかしさで、泣いた。
 
 
 目に見える表層には小さな傷一つ残らなかったけれど、目には見えない心の奥に、無数の傷が残った。

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