今更嫌いになれないこと知ってるくせに10

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 テーブルに沈んだ相手を見つめながら言葉を探すが、掛ける言葉なんて見つからない。
 義兄への想いに気づいた当時、その息子である甥っ子に対しても心揺れてしまったのは事実だった。義兄相手になんらかの間違いを起こす確率よりも、まだ幼い甥に対して起こす確率のほうが高いだろう自覚はあった。あの時自分は、義兄からも甥からも逃げたのだ。だから甥の言葉の半分は当たりと言ってもいい。
 幼いながらもそれを感じ取っていたというのなら、やはり責任はこちらにあると思った。あの当時には気づかなくても、彼自身が成長した今、幼いころに兄と慕う相手から性的な視線を受けていたと認識したのだろう。
 だとしたら彼の性愛対象に男を意識させたのはきっと自分だ。もしもそのせいで彼をこちら側に引き入れてしまったのだとしたら、どう責任をとっていいかなんてわからない。
「ねぇ、責任とってよ」
 気持ちが落ち着いたのか、甥っ子がゆっくりと頭を上げた。吐き出されてきた言葉は、どこか拗ねた子供っぽい響きを持っていたけれど、それでも胸の奥をえぐるには十分過ぎる威力があった。
「俺がそんなバカな誤解したのも、それで好きになっちゃったのも、にーちゃんのせいだよ?」
 反論は出来ない。その通りだと思った。
「だから、責任とって」
「ど、……やって?」
「にーちゃんが、俺の初めての男になってよ」
「なにがなんでもお前と寝ろって?」
 無茶を言っている自覚があるのか、そうだねと肯定しつつも、甥っ子は自嘲気味に口元だけ笑う。
 その顔を見ていたら、嫌だムリだダメだ、とは言えなかった。言えないが、だからといってわかったとも言えない。言えるわけがない。
「にーちゃんってさ、どっちの人なの?」
 黙ってしまったらそれをどう受け止めたのか、甥っ子はそんなことを口にする。
「どっちって?」
「ネコとかタチとかいうやつ。男に抱かれたい人なの? それとも抱きたい人?」
「聞いてどうすんだよ」
「抱かれたい人でそういう経験が多いってなら、いっそ力づくで襲ってもいいかな。って思って?」
 俺のが力あるしタオルとか紐とかガムテープとかで縛っちゃえば可能そうだし。などという物騒な話を吐き出すその顔は、やはり自嘲気味だけれど泣きそうにも見えた。
「むりやり関係結んだって、そんなの辛いばっかだぞ」
「それでもいいよ」
 半ば投げやりな口調に、ああ、きっと何もわかってない、と思う。
「なぁお前、わかってんの?」
「何を?」
「お前が義兄さんに似てるから嫌だ、って言った意味」
「父さんが初恋でその父さんに似てるなら、むしろ俺が相手だって構わないだろ」
「バカだな」
 言いながら大きく息を吐きだした。
 バカなのは目の前の甥っ子なのか自分なのか、多分きっと二人共が大馬鹿だ。
「そこまで言うなら抱いてやるよ。お前が本気で、義兄さんの代わりにされてもいいってならな」
 ここまで酷い言い方をすればさすがに諦めると思った。実際、目に見えて甥っ子の顔の血の気が失せていく。
「それが嫌で、俺を力づくで襲うってなら、俺は今すぐここを出て行くし、お前が出て行くまで戻らない」
 ダメ押しのように告げた。蒼白な顔でキュッと唇を噛みしめる甥っ子に、胸はきしんで悲鳴を上げていたけれど、これで諦めてもらえるならと思って耐える。
 告げた言葉の半分は本音だ。大事な甥っ子を義兄の代わりになんてしたいわけがない。しかしそう思わなくても、どうしたって義兄に重なる瞬間はあるだろう。それは身を持って断言できる事実だった。
 割りきって体だけ気持ちよければ、なんて相手でさえ、誰かの代わりにしてするセックスは心が痛むものだ。不可抗力に近くても、そうなってしまう瞬間を排除できない以上、自分たちは触れ合わないほうがいい。甥の気持ちが自分に向いているならなおさらだった。
「わかった」
 ようやく諦めたかと思ってホッとした次の瞬間。
「父さんの代わりでいいから、抱いて」
 驚いて目を見張ったら、悔しげな甥っ子に睨まれる。
「にーちゃんは俺をまだ子供だと思って舐めすぎ。それで、どうすればいいの? 抱かれる側って体の中洗ったりするんでしょ?」
 必要そうなものは買ってあると言いながら、部屋の隅に置かれていた鞄を引き寄せた甥っ子は、そこから紙袋を取り出して中身をテーブルにぶちまけた。

続きました→

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