今更嫌いになれないこと知ってるくせに11

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 テーブルの上に転がり落ちたローションボトルとコンドームとイチジク浣腸に、こんなものいつの間に用意したんだと聞いたら、最初から持ってきてたと返ってきて目眩がした。
「最初っから俺とやる気まんまんか」
「そこまでは思ってない。どう頑張っても無理そうなら諦めるつもりと覚悟で来たよ」
 それは要するに、無理ではないと判断されたということだ。今のこの状況を考えたら、むしろ相当脈アリと思われた可能性だって高そうだ。
 そう思うのも無理はないと、甥っ子が来てからのあれこれを思い出しながら思う。
 だって最初っから、これはマズイとはっきり感じたくらい、相手のことを意識した。どう考えても大人二人が暮らせる造りの部屋ではないから、いろいろ文句を言ってみたり、さっさと帰るよう諭してみたりもしたけれど、基本的には彼の自由意志に任せてしまった。彼のいる生活を楽しんでしまった。それはきっと、随分思わせぶりな態度に思えたことだろう。
「お前のやる気と覚悟は、もう嫌ってほどわかったよ。で、実際のとこはどうなの?」
「どうって何が?」
「だってどれも使った形跡ないから。抱かれる側になること想定してたなら、少しくらいは自分で弄ったりしてないのか?」
 まさか抱かれる側になることを想定してはいなかった、とは返って来ないだろう。どちらでもいいような口ぶりではあったが、抱きたいというよりは抱かれたいのだという事は、甥っ子の様子からわかっていた。
 最低限必要な物を用意している事からも、先程の体の中を洗うという発言からも、それなりの知識はあるのだろう。だったら抱かれることを想定して、自分自身の体を慣らす事もしているんじゃないかと思った。
 というか、自分で慣らしててくれと願う気持ちもある。まったくまっさらの体を、一から慣らして抱くなんて、あまりに難易度が高過ぎだ。出来れば多少なりとも気持ちよくなって欲しいと考えたら尚更だった。
「俺、いま、結構大事なこと聞いてるから正直に答えて。自分で弄った経験は?」
 少しばかり頬を赤らめた甥っ子に、畳み掛けるように問いかける。
「あー……自分でする時はこっち、かな」
 ごそごそっと鞄の中を漁った甥っ子が取り出したのはワセリンのケースだった。確かにそちらは開封済みだ。
「でもこっちはセックス向きじゃないって言うから」
「うん。それで、そっち使ってどれくらい広がる?」
「え、ええっ……??」
 さすがに直接的な話になって恥ずかしいのか、戸惑いためらう様子を見せる。しかしそれに構わず質問を続けていく。
「指3本、自分でイける?」
「む、むり」
「2本は?」
「入るけど……」
「痛い?」
「っていうか苦しい。あんまキモチくなれない」
「これ、自分で試したことは?」
 言いながら、テーブルに転がったままのイチジク浣腸を取り上げた。
「ない」
「水とかお湯とかだけのも?」
「シャワー使ってっての1回試したことあるけど、イマイチ上手くいかなかった。家だと風呂場とトイレの往復なんて、何度もしてたら怪しまれるし。あんま試す機会なかったんだよ」
「てことはこれ使っても、その後が一人じゃ無理か……」
 甥っ子の話を聞く限りでは、興味と知識はあるものの、まだそれを自分の体でいろいろ試せてはいないようだ。姉は専業主婦だから、家ではそうそう試せないのも仕方がない。
 自分自身、実家にいた頃は普通にナニを握って扱くだけのオナニーしかしたことがなかったから、後ろを弄っているというだけで、昔の自分より進んでいるといえるかもしれない。しかし現状彼に、知識以外の経験がないのもまた事実だった。
 男女どちらとも経験があるし、男相手に限定したって抱いたことも抱かれたこともあるのだけれど、未経験という相手との経験はほぼないに等しい。気楽に体の関係を結べるような相手は、すなわち、既にそれなりに経験がある、性に緩いか性的興味の強いタイプだからだ。
「あのさ、取り敢えず俺に突っ込んでもらったら満足。とか思ってる?」
「思ってない。てか父さんの代わりになる覚悟までしてるんだから、ちゃんと優しくしてよ、とは思ってるよ」
「そりゃ優しくはするし、最初っから全部義兄さんの代わりにとまでは思ってねーよ。でも錯覚する瞬間は絶対あるから、お前辛いと思うし……って話じゃなくて。これ、使って貰うかどうかを考えてるだけだって」
 まったくの未経験だというのなら、やはりリスクのほうが高いだろうか。
「体の中、洗わなくても出来る?」
「そりゃ出来るよ。けど指2本キツイってなら洗ってみた方が楽かもしんないし、でも逆にダメになるかもしんないし」
「ダメになるって?」
「だって中洗ったことないんだろ。違和感残ってセックスどころじゃなくなる可能性もある」
「そっか……」
 甥っ子は目に見えてガッカリした様子で肩を落とした。
「俺の手で中洗われたい~みたいな願望とかある?」
「にーちゃんは? そういうので興奮する人?」
「しない人」
「じゃあどっちかって言ったらヤダ」
 ガッカリしていたから、もしかして洗って欲しいとか、もっと言うなら排泄を見られたいとか、そんな性癖持ちだったらどうしようとチラッとでも考えたことはもちろん言わない。代わりに、少しばかり揶揄う口調で問いかけた。
「もし興奮するっつってたらさせるの?」
「させるよ。それでにーちゃんが興奮するって言うなら、それくらい、なんでもない」
「ったく、可愛いこと言いやがって」
 よしやるか、と言いつつ立ち上がったら、座ったままの甥っ子が酷く驚いた顔で見上げてくる。
「なに驚いてんだよ」
「え、今すぐ始めるの?」
「え、そのつもりで誘ったわけじゃないのか?」
「や、そのつもり、だったけど……」
「怖気づいたならやめる?」
「違っ! え、だって、あの、シャワーとか……」
「中洗わなくていいよ。それで出来なくなったら嫌だろ?」
「じゃなくて外側」
 外側?
 一瞬意味がわからず呆然と見つめてしまったが、わたわたと言い募る甥っ子の言い分は、どうやら普通に体を洗ってから始めたいというだけのようだった。夕飯を作りながらけっこう汗をかいたらしい。
 こちらは彼が夕飯を作ってくれている間に汗を流していたから、自分基準で考えてしまっていた。
「あー、そっか、悪い。いいよ。シャワーしておいで」
「シャワー行ってる間に、気持ち変わったりしない?」
 しないから安心してゆっくり入って来いと言って送り出したが、あの様子だとすぐに出てきてしまいそうだ。取り敢えず甥がシャワーを済ませる間に、自分も歯磨きくらいはして置こうと思った。

続きました→

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