今更嫌いになれないこと知ってるくせに24

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 想いがあることなど告げないほうが、彼にとっては良かったのだろうか?
 そう考えて不安に気持ちが揺れる中、甥っ子の発する声が淡々と響く。
「もしそれが本当だったとして、だからそっちの大学受けろってなら、いくらなんでもそんなの勝手すぎる」
 確かに本当に勝手なことを言っているとは思う。けれどその言葉には訂正を入れて置きたかった。
「本気で言ってるし、勝手なのも承知してる。でも、だからこっちの大学受けろとまでは言ってないだろ」
「そっちの大学受けろって言いに来たくせに」
「お前が本当に行きたい大学を狙えと思ってるだけで、親の気持ちを汲んでこっちの大学を候補に入れただけで、本当は遠い方の国立に魅力感じてるってなら、そっち狙えと思ってるよ。問題は大学の場所じゃない」
 じゃあ何、という質問には、お前が俺みたいにならないことだと返す。
「にーちゃんみたいにって、俺も逃げ癖が付いて臆病者になるって?」
「お前は俺よりしっかりしてるから、ただ逃げるのとは少し違うかもしれないけど。それでもお前、遠くの大学行ったら俺がやってたみたいに、実家にはほとんど寄り付かなくするもりじゃないのか?」
 少しだけ動揺の色が見えたから、多分、当たっているんだろう。
「現実に今、お前は受験勉強を笠に着て部屋引きこもってるだろ。でもそれ本当の理由は、義兄さんと顔を合わせるのが辛くてなんだろ? 俺が、お前と義兄さんが似てるって言ったせいで。それを理由にお前を拒んだせいで」
 どうすればいいかと聞いたら、どうすればって何がと聞き返された。
「今更お前を好きだと言ったって、すぐには信じられないかもしれないし、それで傷つけた過去が変わるわけでもない。俺のこと嫌いだって何度も繰り返してたよな。それを今更、もう一度好きになってくれと言ってるわけでもない。そんなこと、言えるわけがない」
 甥っ子は何か言いたげに一瞬口を開きかけたが、言葉はないまま結局また口を閉ざしたので、そのまま続けることにする。
「でも、少しでもお前の気持ちが晴れるような何かがあるなら、言ってみて欲しい。俺に出来る償いがあるなら、出来るだけのことはしたいと思う。正直、自分の気持ちからもお前の気持ちからも逃げるのをやめたいって気持ちはあっても、どうするのが正解なのかわからないんだよ。あまりにずっと、逃げることばかりが当たり前の生き方だったから……」
 年上ぶって兄ちゃんなんて呼んでもらっても、実際はこんなにも情けない大人でゴメンと言ったら、それを肯定するかのように呆れた様子の溜息を吐かれた。
 逃げ出したくて、せめて俯きたくて、それを必死で耐えながら眉間を寄せる渋い顔の甥っ子を見つめる。彼の言葉を待っている。
「あのさ、にーちゃんの好きって気持ち、試してもいい?」
「それは、いいけど……」
「いいけど、何?」
 思わず躊躇えば、疑惑の視線が突き刺さった。出来るだけの償いはすると言った直後でこれだから、往生際の悪さに自分でも辟易するが、けれどなんでもするとまでは言っていない。
「いやだってお前、好きなら抱けとか言い出しそうで」
「なんだ。結局さ、俺の希望なんて、叶えてくれる気ないんだろ?」
 やっぱりそれかと思うと溜息がこぼれかけたが、そんな立場ではないとなんとか飲み込んだ。
「年齢的にそういうの興味あるのはわかるけど、こんな形で抱かれるんで、お前、本当に後悔しないわけ? というかそれはどういう心理からなの?」
「どういう心理って?」
「だってそれ、好きだから抱いて、なんて可愛い感情で言ってるわけじゃないよな? あの日、お前を最後まで抱いてやらなかった仕返しで、無理にでも抱かせてやろうとか思ってるのかなと」
 ギュッと唇を噛みしめるしぐさに、やはり図星なのかと思う。
「そんなのに自分の体使うなよと思うし、もっと自分を大事にしろって言ったろ。それにお前を好きって認めた以上、嫌がる俺にムリヤリって展開にはならないからな。下心満載でお前に触れるし、持てるテク総動員でお前を誑し込むかもよ? そういう警戒心少しは持てよ」
 仕返しになんかならないと言えば、噛みしめる唇が小さく震えだす。そして両目にぶわりと盛り上がっていく涙に焦った。

続きました→

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