今更嫌いになれないこと知ってるくせに23

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 凄いなと思わず零した本音に、甥っ子は少し嫌そうに片眉を持ち上げながら、何が? と問いただしてくる。
「俺が18の時には、そこまで色々考えられなかったから。逃げることしか思いつかなくて、ただひたすら逃げて、ちゃんと失恋もしないまま適当な相手と体の関係だけ覚えて、気持ち引きずってるから結局誰とも恋人関係が続かなくて、年だけ食って恋愛事そのものからだんだん縁遠くなって、ますます体だけの相手としか関係できなくなってる」
 ひどい告白の内容に、さすがに甥っ子も驚いた様子で、軽く目を瞠っていた。
「俺も、逃げる前に義兄さんに告白して、ちゃんと振られておけば良かったのかも知れない。そこで逃げたからすっかり逃げぐせが付いて、さっきも姉さんに、昔はそこまで臆病者じゃなかったハズだって言われたよ」
「それさ、変わりたいって気持ち、あるの?」
「あるよ。あるから、来たんだよ」
「父さんに告白する気?」
「違っ、あ、いや、結果的には似たようなことはしたけど、」
「は? 告白したの!?」
 随分と驚いた様子の大きな声に、言葉は途中で遮られてしまった。
「し、してない。告白はしてない」
「じゃあ似たような何したわけ?」
 もともと義兄との間であったことは甥っ子にも話すつもりでいたので、まずは簡単に、待ち伏せしていた義兄に連れられ、半ばむりやり近所を散歩してきた事情を話す。
「義兄さんはさ、俺が義兄さんを嫌ってるから、似てるお前を嫌ってると思ってたっぽいんだよな。それを否定してたら、俺が大学行ってからほとんどこっち戻らない理由が、義兄さんを好きだったからだってバレちゃった。嫌いだから戻らないわけじゃなくて、その逆で逃げてたんだって話」
「それで父さんはなんて? 振られたの?」
「振られるとかって話にはなりようがないな。今もまだ好きで居るのか聞かれたけど、それはすぐに否定したし。実際に会って話したら、気持ちはとっくに終わってるんだって、実感できたから」
「終わってんの?」
「うん。ちゃんと終わってる。それを確かめることすら怖くて、今まで近寄らずにいたんだよ」
「臆病者だから?」
「そう」
 否定なんて出来るはずもなく肯定すれば、甥っ子は言葉を探す様子で暫く沈黙した。なんとなく話しかけられる雰囲気ではなく、結局甥っ子の次の言葉を待ってしまう。
「あのさ、まさかと思うけど、にーちゃん実は俺を好きで、だから逃げて拒絶してたとか……ある?」
「それ、義兄さんにも聞かれたな」
 義兄とのやり取りを思い出しつつ思わず苦笑してしまったが、甥っ子はそれどころではないと言いたげに答えを急かした。
「で、なんて答えたの?」
「義兄さんには、似てるけど全然違うって返したよ」
「どういう事?」
「お前がダメな理由なんて、お前にはもう散々言ってる。お前が俺の甥っ子で、義兄さんの息子だからだ。好きになったらダメな相手だって、お前を可愛いとか愛しいとか思うたびに何度も繰り返して思ってた。それでも結局どんどん惹かれてくから、どうしようもなく怖くて、お前傷つけてでもお前と離れたかった」
 本当にごめんと言ってみるものの、それに対する応えはない。やはりまた何かを考えているようで、今度は先程よりも更に長く待たされた。
「変わるつもりがあって、ここに来たって、さっき言ったよね?」
「ああ」
「逃げるの止めるって事はさ、それって要するに、俺を好きって認めるって事じゃないの?」
 その後、もちろん恋愛的な意味でだよ、という補足が続く。
「そうだな」
「俺を好きなの?」
「うん、好きだ。とっくに手遅れで好きになってる」
 なんで今更と呟くように吐き出して、一度ギュッと固く目を閉じた後、甥っ子は数回深呼吸を繰り返す。それからゆっくりと開かれた目は、また冷たく鋭い光を灯していた。
 あまりに身勝手過ぎる言い分で、また彼を傷つけてしまったのだろう。しかしそれなら、いったいどうすれば良かったのか。
 今更だという彼の気持ちも、痛いほどにわかる気がした。気持ちを切り替えて勉学に励んでいたのは明白なのに、その気持ちを大きく乱すだろう事を言ってしまった。
 逃げずに向き合うというのは、本当になんて難しいんだろう。逃げないことと、相手を思いやることは、きっと両立出来るはずだ。それが出来ないのはやはり、今まで逃げることしかしてこなかった自分の未熟さなのだと思った。

続きました→

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