今更嫌いになれないこと知ってるくせに22

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 ベッドからの甥っ子の視線は、なんだか監視されているようで居心地が悪い。そんな中、それでもなんとか食べきると、それを待っていたとばかりに甥っ子が口を開いた。
「それで? 関係大有りってことは、わざわざここまで、俺に自宅から通える大学に行けって説得しに来たわけ?」
 余計なお世話すぎだよと吐き捨てる声は心底嫌そうだったが、それに怯んでいる場合ではない。
「というかまず、お前俺に嘘ついてたろ」
「嘘って?」
「うちのそばの大学でも良いって言われてたんだろ。むしろそっち推奨気味だったらしいじゃないか」
「それが何? もし言ってたら何か変わってたの? 近くに住むなら恋人になる気があった、とか言い出す気じゃないよね?」
 淡々とした口調で問われて言葉に詰まってしまった。もし最初から言われていたら、あの時甥っ子の想いを受け入れたのかといえば、やはりそれはまったくの別問題だ。遠距離であることが問題なわけじゃない。
「だいたいさ、にーちゃん俺に興味ないよね。行きたい大学も、学部も、何を学びたいと思ってるかとか、どんな仕事に就きたいと思ってるかとか、一度だって聞かれてない」
 口調は淡々としたままだが、見つめてくる視線は鋭く冷たかった。そこにあるのは深い怒りか悲しみか。もしくはもっと別の感情なのか、その声音と表情からは読み取れなかった。
 わかっているのは、その言葉の通り、一度だって自分が彼にそれらを尋ねなかったという事実だけだ。興味がなかったというよりは、突然現れた男が成長した甥であることも、その男が大学受験を控えた身であることも、その受験生と何故か一緒に暮らしていることにも、今ひとつ現実味がなかったという方が正しい気もするが、そんなものはただの言い訳でしかないこともわかっている。
 あんな形で追い出して、彼を酷く傷つけた事は重々承知していた。しかし負わせた傷の大きさを目の当たりにすれば、どう償えるのか検討もつかないと思う。
 同居生活中、こんなに鋭く冷たい視線を浴びる事は一度たりともなかった。義兄に抱かれる夢を見た日の朝、押し倒されて無理矢理に弄られた時でさえ、怒りも悲しみも自嘲もその顔の上にちゃんと乗っていたのに。家を出て行く間際だって、泣きそうな笑顔を残していったのに。
 彼から表情を奪ったのもきっと自分なのだろう。罪悪感と後悔と。冷たい視線を浴びながら、身が震える気がした。
 それでも、もうこれ以上逃げては行けないという気持ちから、目をそらすことは出来ない。なのに掛けられる言葉も持ってはいなかった。
 結局黙ったまま見つめることしか出来ない自分に、甥っ子は焦れた様子で溜息を吐き出した。
「押しかけて一緒に暮らしてみて、かなり意識されてると思ったし、このまま押せば落ちそうとかも思ったりしたけど、にーちゃん好きなの父さんだったとか誤解もいいとこだし、結局一回きりの思い出すらくれなかったよな。あんなに拒絶しといて、なのにそっちの大学狙えとか言う気なの? 正気で? 俺に毎日泣き暮らせっての? 俺達が一緒に暮らせばいいって案も聞いてるなら、家からと爺ちゃんちからの援助で、もっと広い家に住みたいとかって下心でもあったりする?」
「そんなんじゃない。そんな下心ない。だってお前、こっちの大学、悪く無いって思ったんじゃないのか? 行きたいと思った大学を、俺のせいで候補から外すなんてさせたくない」
「その大学へ通うメリットと、にーちゃんのそばで暮らすデメリット考えたら、どう考えてもデメリットがでかいんだからしょうがないだろ。失恋引きずって大学生活ままならないとか困るから」
 それに、と甥っ子は言葉を続ける。
「父さんの顔見るたびに色々と思い出して辛くなるのに、このまま家から通える大学を狙うのだって無理。というか元々家から通える大学に行く気はあんまりなかったから、実質、にーちゃんが俺を受け入れてくれるかどうかだけが問題だったわけ」
 最初っからずっと一貫して、それだけが目的で押しかけ生活を続けていたのだと彼は言う。
「大学生活は最低でも4年あるのに、近くで生活しながらずっと気持ちを隠し続けるなんて無理だし、失恋して気まずいまま生活を続けるのも辛すぎる。もし振られるとしたら今が一番いい時期だと思って実行した。結果予想以上にダメージ食らったけど、でもこんなダメージ、入学後に受けてたらもっと取り返しつかない。辛い気持ちもあるけど、でも後が無くなって勉強にも身が入ってるから結果オーライだよ」
 苦笑顔はやはり辛そうだったけれど、それが本心からの言葉だという事は、しっかりと伝わってきた。
「急に進路変更したみたいに思ってるのかもしれないけど、元々にーちゃんが俺に落ちなかったらそうしようと思ってた案に切り替えただけだから。親は遠方行かせたくないみたいだけど、でももう諦めてもらうしかないよね」
 だから気にしないでと、こんな場面でさえ、こちらを気遣う言葉をくれる。先程までの鋭く冷たい視線も緩んで、辛そうな苦笑顔は変わらないはずなのに、そこに彼の優しさが滲んでいた。
 大人びているのか懐がでかいのか、10も年下の高校生が、とてつもなく格好良い男に見えてしまう。それと同時に、自分との違いをまざまざと見せつけられる気がした。

続きました→

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