だって、と反論したい気持ちをこぼせば、嬉しくも楽しくも思わないとは言ってないだろと、優しい声に諭される。でもそうは言っても、あんな言い方をしたってことは、たいして嬉しくも楽しくもないってのと同じじゃないのかと思う。
「ただこれも好きって気持ちがどれくらいあるかって話と一緒で、俺がちょっと楽しいなとか嬉しいなとか思う程度じゃ満足しないでしょ」
「そんなことは……」
思ったそばから、ほぼ考えていた内容を口にされてしまった上に、見透かすみたいに満足できないでしょなんて言われて、とっさに否定の言葉を口に出してしまった。
「じゃあ、君がうんと楽しんでくれたら、俺も嬉しいし楽しいよ。だから、張り切って気持ちよくなって?」
じゃあってなんだよ、と思ってしまう気持ちはどうしたってある。けれどあえてそう言った事もわかっていた。こちらが反射的に否定の声を上げてしまったことも、見透かされているのかも知れない。
だってその言葉には間違いなく、本当に出来るのかという意味が含まれている。そしてこんな言われ方をして、わかりましたと張り切れるわけがなかった。
ニコっと笑ってみせる顔は少し意地悪だ。
「ズルい……」
「ゴメンね。でもわかりやすいかと思って」
「別に、いいですけど。ズルいのなんて今更だし」
こんなの結局、こちらが張り切って気持ちよくなろうって思えるくらい、楽しいとも嬉しいとも言えないって宣言と変わらないよなと思いながら、大きく息を吐いていく。ほらやっぱりね、という諦めを込めまくった溜め息だった。
吐き出して、そのまま本当に諦めきれたらいいのに。
「ねぇ、安心する、ってのじゃダメかな?」
「安心じゃダメか? って、なんですか?」
意味がわからなすぎて、言われた言葉を繰り返してしまう。
「言葉通りの意味なんだけど、つまり、君がうんと楽しんでくれた時に、俺の中に湧く一番大きな感情は何かって考えると、嬉しいとか楽しいとかより、良かったっていう安堵だろうな、って話」
「それ、これでふられなくて済むぞ、っていう安心ですか?」
「えっ?」
驚かれた事に、こちらまで少しばかり驚いてしまう。だって他の理由がわからない。
「違うんですか?」
「俺とのセックスをうんと楽しめたら恋人続けてくれる気があるとは聞いたけど、でもそれ確約されてるわけじゃないし、これでふられなくて済むぞ、なんて安心は出来そうにないな。まぁ、それが全く無いとも言わないけど」
でもそうじゃなくてさ、と彼が言葉を続けていく。
「君が日々あれこれ楽しんでるのを、邪魔したくない気持ちは結構あって、なのに今回君がもう止めたいって思ったところを引き止めちゃったからね」
だから今回のデートを何かしら楽しんで貰えたら本当にただただ安心すると言った相手は、あげられるものが少なくてゴメンねなんて事まで言うから、やっぱりまたその言葉を繰り返してしまった。
「あげられるものが少ない? ってのは?」
「それも言葉通りだけど。君は俺が君に望んだもの以上のものをくれたけど、君が俺から欲しいものをほとんど返せないのが申し訳ないって話」
「望んだもの、以上……」
「君が人生楽しんでるとこを近くで見て、感じて、君の楽しい気持ちのおすそ分けを貰って、俺の人生もそう捨てたもんじゃないかもなって気になるだけのつもりが、好きって気持ちや体まで差し出してくれてるだろ」
「それ、押し付けられた、の間違いじゃなくて?」
「それだけどさ、多分、君は根本的なとこを勘違いしてる。さっきも、男の体なんか抱かせて、みたいな申し訳無さを感じる必要はないって言ったけど、君に好きだと思われることも、セックスを誘われることも、欠片だって迷惑には感じてないよ?」
「本当に?」
思わず聞いてしまえば、すぐに本当にと繰り返してくれたけれど、どうしてもそれを素直に信じきれない。
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