生きる喜びおすそ分け3

1話戻る→   目次へ→

 デートである以上、相手と楽しむという部分をまるっきり無視した、自分ひとりが楽しければいいプランを立てるのはどうなんだ、という思いはあったものの、それが相手の要望だ。しかも相手の機嫌やらを窺い、上手くいかないと落胆する姿をこれ以上見せたら終わりにすると言われているような状態であれば、相手を楽しませようという気持ちは一旦脇に置くしか無い。
 そうして組んだデートは、ほんの少しの後ろめたさを残したけれど、相手にとってはそれまでのデートに比べたら格段に満足が行くものだったらしい。この方向でよろしくと言われて、そこから数ヶ月、ひたすら自分が楽しいことへ重点を置いたデートをした。いやもうこれはデートじゃないだろと思いながらも、行ってみたかった場所やら試してみたかった事に色々とチャレンジした。
 なんせ相手は上長で、自分よりずっと給料を貰っていて、年だってそれなりに上で、つまりは金払いがめちゃくちゃ良い。そもそも相手は、デート中の支払いは全額負担しても良い、という気持ちでいるらしい。太っ腹にも程がある。
 双方の懐具合を全く考慮せずに、興味と好奇心だけで手を出し得られる経験は、間違いなく貴重なものだった。ただそれを、純粋に有り難いと思うことも、この機会にたかれるだけたかってやれと思うことも難しい。
 年の差があったって今どきのカップルは割り勘も多いらしいですよと言って見たことはあるが、交際というのは自分たち含めて外からは見えない色々な事情があるものだろと諭されて終わった。もっと言うなら、立場や給料や年齢やらの差と、酔ったノリと勢いで始めた遊びでしかない交際を考えれば、相手が費用を持つのが妥当、という考えを改めて聞かされただけだった。
 休日にまで一緒にあちこち出掛けられるだけで嬉しいだとか、楽しいだとか、だから自分だってそこに金銭を支払う価値があるんだとか、胸を張って言い返せなかったのが敗因だ。棚ぼた的に手に入れた関係ではあるが、憧れの人が自分のために時間を割いてくれている、という認識は確かにあるのに。でもお金を払ってまで続けたい関係かと言われると、さすがに頷くことが出来なかった。
 あの日、観察を趣味にするよりかは恋人でもやったほうがまだ多少は刺激的かも知れない、と言ったあの人の言葉を何度も思い出している。そして毎回、結局のところ恋人という距離感で観察されているだけなんだろうな、という結論に至ってしまう。
 恋人だなんて言ったって、双方間違いなくデートという認識で何度も出かけているにも関わらず、手一つ繋いだこともない。結局この関係ってなんなんだろう、という想いが頻繁に湧くから、きっとそろそろ潮時なんだろう。
「え、ちょ、待って。え、まさかここに入るの?」
 休憩料金と宿泊料金がガッツリ書かれた看板前で相手が戸惑いの声を上げた。ここまでやれば、ちゃんとこういう反応もするんだなと、妙に冷めた気持ちで思う。
「はい。値段そこそこですけど、いろんなサイトで評価高かったんで気になって。あ、男同士での利用もオッケーって確認取ってますから安心して下さい」
 楽しみで仕方がないと装いながら、思いっきり笑って見せれば、相手は面食らった様子で更に戸惑いを増している。
「いや、そういう話じゃ……」
「無理に、とは言いませんけど。ムチャ振りしてる自覚はあるんで」
「確かに急すぎてちょっと気持ちが追いついてないんだけど、あーでもまぁ、ここで入るかどうかを言い争うのもねぇ」
 戸惑いを苦笑で塗りつぶして、相手が良いよ入ろうと決断するまではあっという間だった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です