風呂の湯に浸かりながら、あー出たくねぇなぁと思う。もちろん、のんびりゆったりバスタイムを満喫したい、などという理由ではない。
結局抱かれることを了承し、せめて体くらいは洗ってきたいと頼み込んで、風呂場へ逃げたというのがここへ至る過程だった。
いきなり抱かせてと言われて、はいどうぞなんて返せるわけがない事を、相手だって充分にわかっていた。わかっていた相手は、こちらの弱い部分を的確に突いてきた。
要するに、抱かれてくれないなら弟に手を出すぞと脅された。愛すべき可愛い弟を人質に取られて、彼の要求を飲むしかなくなった。
「お前みたいな男があいつの親友だなんて、ホント信じらんねぇよ。まさか、あいつまで脅して、親友面してるわけじゃないよな?」
「俺は、貴方みたいな男があいつの兄貴なの、かなり納得できますけどね。もちろん、脅したりなんかしなくても、あいつは俺を大好きですよ?」
風呂場へ逃げ込む直前に交わした会話を思い出してため息を吐く。自信満々で弟に好かれていると口に出すその態度が腹立たしい。
「知ってんよバーカ」
小さくこぼした呟きだけど、声に出したら結構落ち込んだ。
二人の仲の良さなんて、黙々と勉強しているだけの姿を一日見ていただけでも充分に伝わっている。弟のあの顔も態度も、脅されて出来るようなものじゃない。
弟が信頼をおいている親友なのは本当だろう。きっと普段はいい男なんだろうなとも思う。成長して随分と背が伸びたし、小柄とはいえない男の体を、優しく抱き上げて運んでやると豪語するだけの筋力があるみたいだし、見た目は悪く無いどころか笑顔はうっかり見とれるレベルだし、話し口調は丁寧だし、勉強していた様子からすると、たぶんきっと頭もそう悪くない。
女の子にだってちゃんとモテそうなのに、親友の兄貴を脅して抱こうとしてるなんて、本当どうかしている。けれど言い換えれば、それほどまでに幼い彼を傷つけたのだろう。
まぁ中学生相手に大人気ない事をしたとは思う。まさかそこまでトラウマになっているとも思わなかったが、そんなのなんの言い訳にもならない事は明白だし、それを口にして相手の傷をさらにえぐろうとも思わない。
脅されて抱かれろと迫られるのは、復讐してやると思わせるほどの仕打ちをした、過去の自分が悪い。わかっている。これは自業自得だ。
「あーもう、しょうがねぇなぁ」
大きく息を吐きだして、覚悟を決めて風呂を出た。
ざっと体を拭いてリビングへ戻れば、ソファに腰掛けてぼんやりと空を見つめていた相手が、扉の開閉音で気付いたのか振り返る。
「ちょっ……」
やられる気満々の腰タオル一丁という格好に、相手が息を呑むのがわかった。
「ソファ汚すわけに行かないからこっちな」
彼の反応は無視して、ソファ脇を通り過ぎ、隣接の和室へ続く襖に手をかける。和室の中には、彼が今夜寝るための布団が既に敷かれている。
「ま、待って」
慌てたように伸びてきた手に腕を掴まれた。
「何?」
既に開けてしまった襖に背を向けて、背後に立つ困惑顔の男と向き合った。
「本当に、俺に抱かれるつもり、なんですか?」
「脅しておいてよく言うよ。あれ言われて、抱かれないって選択なんて出来るわけないだろ」
「ブラコンにもほどがありますよ」
「うっせ。わかっ」
わかってるの言葉は最後まで言えなかった。相手の唇を押し当てられてしまったからだ。
「やっぱりいいです」
「は? 何が?」
「貴方を抱く気が萎えました」
「はぁあ?」
今のキスの意味はだとか、風呂にまで入って決めた覚悟をどうしてくれるだとか、何泣きそうになってんだよとか、頭の中にぐるぐると回る言葉はどれも口から出てくることはなかった。
「いやだって、お前……」
「心配しなくても、貴方の大事な弟に手を出したりしませんよ。俺にとっても大事な親友ですし、今後も躊躇いなく大好きって言われてたいですしね」
可愛いですよね、あいつ。と続いた言葉に、そうだろ~と言いかけて慌てて口を閉じた。弟の可愛さを語り合う相手でも場面でもない。
なんだか辛そうな顔に傷つけたらしいとは思ったが、やっぱりわけがわからなかった。
「じゃあ、そういうわけで、おやすみなさい」
「えっ、ちょっ、」
するりと脇を抜けて和室へ踏み込んだ相手は、後ろ手にピシャリと襖を閉めてしまう。
「ええええー」
もらした戸惑いに応えてくれる者はなく、けれど閉じた襖を自ら開けて、どういうことだと問い詰めるのも躊躇われた。
暫くそこに立ち尽くしていたが、襖が開く気配はない。やがて肌寒さに気付いて、仕方なく、もやもやとしたまま自室に引き上げた。
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有坂様
いつもステキなお話をありがとうございます。
本当に弟の親友がヤバイですよう!
可愛すぎますよう!!
お互いに翻弄されてますが、私も翻弄されています!!
続き、首を長くして待っております!
ぽこさん、今回のお話も読んで下さっててありがとうございます(*^_^*)
親友くんはなんか色々拗らせちゃっててヤバイですよねぇ~……
どうやって本音引き出すかまだちょっと迷ってますが、一度は抱かれる覚悟までしたんだから、視点の主に頑張ってもらうっきゃないですよね。
まぁもしかしたら弟も頑張ってくれるかもしれませんが(検討中)
書き溜めてないので、今後の展開は私にもはっきりしてないのですが、続きも頑張りたいと思います。
コメントどうもありがとうございました~
私はリバも攻守逆転も好きですヨ~。
こんなに二人に大事にされてる弟くん。 気付いているやらいないやら。
知らずに二人を煽るような真似をするかもしれない・・、とか期待したりして(←キチクでしょうか? 笑)。
勢いだった兄の所業。勢い返しされたけど、親友クン、微妙な心の揺れが見えるような。
本当はどっちなんだろう・・?
mさん、またまたコメントありがとうございます(*^_^*)
リバも攻守逆転も好きとのお言葉、とても心強いです!
というか、確かに親友くん、抱かれる側のが向いてるんじゃないのと思い始めても居ます。
でも1話目出した時に親友×兄(視点の主)予定って一度書いてしまったので、今回はその方向でまとめられたらなぁと思ってます。受に余裕ありな、よしよしセックスに落ち着いてくれたら……
まぁ飽くまでも現時点での希望ってだけですが。
次回は弟くんにも頑張ってもらえたらと思ってますが、なんせまだ一文字も書いてないので、私自身が色々と揺れてます。
どうなるかわかりませんが、続きもよろしくお願いします~