まるで呪いのような6

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 口の中が嫌な感じに乾いていく。でも目は逸らせないし、口を開くことも出来ない。
「俺が、怖い?」
 やがてゆっくりとして単調な声が、確かめるように問いかける。怖くないよと言ってやるべきなのかもしれない。でも心にもない否定を口に出したってどうせ相手は気づくだろう。
「沈黙は肯定、だろ?」
 ほら、何も言わなくてさえ、伝わっている。
「そりゃ……あんな話聞かされたら、こわい、よ」
 震えはしなかったが、乾ききった口から発する声は掠れてしまった。
「うん。自分でもわかるよ。俺のお前への執着、すげーキモいし怖い。こんなの、お前のくれる好きと、同じになんてなりようがない」
 思いの外穏やかに頷かれた後、少しだけ震えた声が続く。その声に胸の深い所が共振したような気がして、いつもとは違う感じに切なく疼いた。
「お前に自覚しろって言われたから、色々考えたてみたんだよ、これでも」
「うん」
「でも考えるほどに、自分の異常性ばっか自覚する。お前が俺じゃない誰かを好きになったり、恋人作ったりする前に気づけたのだけは、良かったと思ってるけど。でもお前が欲しいような綺麗な想い、どんだけ探しても、俺の中にはありそうにない」
 彼の声はもう震えたりしていない。それどころか、落ち着いた静かな口調だった。なのに苦しくて仕方がないと、泣き叫ぶ彼の姿が脳裏に浮かんでくる。
 さっきとは全く別の理由で、また泣いてしまいそうだった。だって知らなかった。気づかなかった。望むような想いが返らないと嘆いてばかりで、彼にそれを求めることが、こんなにも相手を苦しめていたなんて思いもしなかった。
「ゴメン」
「なんでそっちが謝んの?」
「俺の、俺を恋愛感情で好きになってってのも、お前にとっては呪いだったんだろうなって、思うから」
「そんなの言われたら、俺、どんだけお前に謝り倒さなきゃなんねぇんだよ。お前が言うところの俺の呪いのせいで、お前の人生、これからさきもずっと狂いっぱだし、しかも逃さないって宣言までしてんのに」
「でもその呪い、俺だけが苦しいわけじゃないから。お前自身の呪いに、さらにお前を苦しめる呪いを、俺が上掛けした感じになってるかな、って」
 何かを考えるように少しの間黙ってから、相手は困ったみたいに、そんなんだから俺に呪われんだよと言う。意味がわからない。
「俺のお前への執着が俺自身を苦しめるのはただの自業自得だけど、ただ、その執着心ここまで育てたのお前なんだよね。って言ったら責任取ってくれる?」
「えっ?」
 唐突過ぎる責任を取れという言葉に酷く動揺した。いったい何を要求されるのか、全く想像がつかない。
「恋人やめないで」
「ああ、なんだ」
 そんなことかと思って安堵したら、相手はやっぱり困ったように笑っている。
「お前が欲しい好きをあげれないし、怖いっていった相手なのに、どうしてそんなあっさり受け入れちゃうんだよ。お前がそうやって俺のキモい執着を受け入れてきた結果が今だって、本当にわかってんの?」
「あー……俺が育てたって、そういう意味か」
「やっぱりわかってなかった」
「いやでもわかってたって、こんなの、受け入れる以外ないだろ」
 それとも今なら恋人をやめさせてくれるってことなんだろうか。聞いてみたら、それはダメだと即答されたから、ますます何が正解なのかわからなかった。
 困って首を傾げれば、相手はもどかしげに口を開く。
「あのさ、俺のお前への執着が、取り返しつかないほどキモ怖いものに育ってるのわかったろ。なのにそれ、本当に受け入れてくれる覚悟で言ってんの?」
 それ以外の道がないのに何を言っているんだと言いたいところだけれど、多分きっと不安なんだろう。覚悟があるよと言葉で欲しいのだ。
 つまり、彼の言う責任取って恋人のままでいてというのは、彼自身が異常だと自覚しているほどの執着を受け入れる覚悟を持ってくれという話らしい。
「なぁ、俺に必要な覚悟って何? これから先も、お前以外を恋愛的に好きにならないとか、お前以外の恋人を作らないとか、お前以外とキスもその先もしないとかだけ? それとも執着育ったから、俺にお前以外の友達作るなとか言い出すの? 俺をお前以外の誰とも関われないように閉じ込めたいとか、そういうのも考えてたりすんの?」
「恋人でいてくれるなら、友達作るなとか閉じ込めようとかまで思わないよ。なんで高校別のとこ選んだと思ってんの。お前が、俺の恋人になったからだよ?」
「え?」
「まぁ同じ学校入ったらまた2年は先輩と後輩になるのも嫌だったけど」
「待てよ。なんで俺と恋人だったら、同じ学校を選ばないの?」
 一緒に通学したり、また一緒に部活したり、授業は別にしても一緒に過ごす時間は確実に増えるのに。
「お前が同じ高校通うなら、俺、お前に恋人やめたいなんて、言わなかったけど」
 恋人だから同じ学校を選ばなかったと言った相手に驚かされたように、こちらの言葉に相手も相当驚いたようだった。

続きました→

 
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