まるで呪いのような9

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 どうはぐらかすか、もしくはどう説明するか、悩んでいるんだろうか。相手は迷う様子で暫く黙り込んだ後、ようやく口を開いた。
「お前に酷いことしてるって自覚はあるから、お前が俺に謝って欲しいならいくらでも頭を下げて謝るし、土下座しろって言うならしたっていい」
「聞いたのそういうんじゃないんだけど。というか謝れって言ってるわけじゃないんだけど」
 謝りたくない理由を聞いてるんだと言えば、謝る気はちゃんとあるって言ってんだと返されてしまって、今ひとつ話が噛み合わない。というか多分意図的にズラされているんだろう。
「なんで隠すの?」
「隠すっていうか、言っても多分わかんないよ」
 俺はオカシイからなんて泣きそうな顔で言う相手に、じゃあ言わなくていいと言えるほど大人じゃなかった。
「いいから言え。たとえ理解できなくても知っておきたい」
 言えば諦めたみたいに大きなため息を吐き出している。
「お前が欲しがっても居ないのにゴメンゴメンって繰り返すのは、お前をその言葉で縛って手に入れたい時だから」
「え?」
「お前は俺に激甘で、三ヶ月ポッチ年上なだけでお兄さんぶって、俺にゴメンって謝られたら許さなきゃって思うんだって、知ってた?」
「しら、ない。なにそれ」
「昔から、お前が本気で怒っててヤバイって時しか、俺はゴメンって言ってない。俺のゴメンは、お前に離れて行かないで欲しい時のとっておきだった。お前が俺に悪いなと思った時、素直に口に出すゴメンとは圧倒的に意味が違う」
 それを彼はうんと小さな子供の頃から、無自覚に嗅ぎ取って使い分けていた。ということに気づいてしまった時、彼は随分と戦慄したそうだ。自分でもすぐには理解できず認めたくもなかった行動を、わざわざ言いたくなかったってことらしい。
「お前の好きは俺のドロドロな執着心とはこんなに違うと思ったせいか、お前のゴメンと俺のゴメンも大きく違うってのまで思い出して、お前のゴメンに反応しすぎたのはあると思う」
 だからゴメンなと続いた言葉にドキリとする。
「おまっ、それ今、言うの?」
「まぁさすがに今のはわざとだけど。この話聞いて、ゴメンって言われた感想はちょっと知りたい気もする」
「今後お前にゴメンって言われても、許さなきゃとは思わなくなるかもって?」
「そうなりそう?」
「なっていいの?」
 いいよと言いながら、相手は少しおかしそうに、そしてやっぱり泣きそうに、笑っている。
「全然、いいよって顔じゃないんだけど……」
「だってお前と話してるとさ、俺のお前への執着心、ほんっとドロドロでどうしようもなくキモチワルイってのがわかる」
 なんでわざわざ最後にゴメンって言ったと思うのと聞かれて、こちらの反応を見たかった以外に、あの場面でわざとゴメンという意味なんてわからなかった。
「俺はまた一つ、お前に呪いをかけたと思うよ」
 薄く笑う顔は泣きそうなのにゾッとするほど怖くて、どういう意味かと尋ねる声は少し震えていた。
「多分今後、俺がゴメンって言うたび、お前は俺を許さなきゃって思うより先に、俺に、俺を放さないでくれと縋られてるって思うようになると思う」
 言われれば、確かにそうなりそうだという気がしてしまう。
「お前は優しい上にまだ俺を好きって気持ちが残ってるから、そんなことされたらますます俺を突き放せないだろ。お前がそうやって俺のゴメンにがんじがらめに捕まってる間に、俺はゆっくり次の手を考えることにした。つまり、さっきのゴメンは、お前をこの言葉で縛るよって宣言」
 ゴメンねと再度告げられた言葉には、放さないという強い意志しか見えなくて、全く縋られているような気はしなかった。つまり彼の思惑は失敗している気がするのだけれど、それを指摘してやるべきかは大いに迷うところだった。

続きました→

 
 
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