まるで呪いのような10

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 抱えたままの膝にまた顔を埋めて目を閉じる。涙は流れていないし、もちろん呼気も乱れていない。泣いているわけじゃなく、ただただ、自分の内側に閉じこもるように息を潜めた。
 ドロドロでキモチワルクて怖いと、彼自身が泣きそうになって言い募る執着を、恐れる気持ちはもちろんある。けれど、こちらの恋情ごと絡め取って今後もずっと手放さないと言い切る強い意志を、喜ぶ気持ちも、安堵する気持ちも、間違いなくありそうだった。
 なんで別れたかったんだっけと考える。彼が違う高校を選んだという理由で別れを切り出したのは、今なら自分の恋を終わりに出来ると思ったからだったはずだ。同じ高校に進学してくれてたら片恋とわかっていながらも続ける気があったのは、彼と共に過ごす学校生活の中で、彼への想いを捨てられるはずがないと知っていたからに他ならない。
 残り二年ある、彼と共に通うことをしない高校生活は、チャンスなんだと思った。
 この一年で嫌というほど思い知った彼との想いの差に打ちのめされていたし、自分だけが持ってしまった恋心のせいで彼に負担を強いているのもわかっていたから、終えたほうがいいと思っていたし、終えてしまいたかった。
 でも彼は間違いなく、こちらの一方的な恋情で彼にかかる負担ごと、受け止め抱え込む覚悟を持っている。彼の想いが返らない事で、惨めで切ないと泣いて離れたがることすら、想定済みだったようだし、それでも放す気がないという。
 もっと言うなら、育ってしまった彼の執着を受け止める覚悟を持てなくても、たとえば彼の言葉を肯定して同じように気持ちが悪いとか怖いとか言って逃げたがっても、酷いと責めても、彼はきっと怒りはしないだろうと思う。そうなる可能性もわかっていて伝えたのだろうし、それでこちらがどんな結論を出そうと、それら全てを飲み込んで絡め取って抱え込んで、逃がす気も放す気もないのだと言っているのだ。それほどまで彼の執着が育っているのだと、知らせているのだ。
 そしてそれだけの強い意志が有りながら、一方では、キモチワルイと思わないで受け止めて捨てないで嫌わないでと、心の内側で必死に泣き叫んでもいる。
 胸が騒いでキュウキュウと切なく疼くから、ズルいなぁと思う。これももしかしたら無自覚に嗅ぎ分けて使いこなしているのだろうか。だとしても、彼への愛しさがどうしようもなく湧き上がってしまう。
 昔っから、こういうとこってあったなと思う。彼が口に出したりはっきりと表に見せる感情よりも、じわりと滲み出る内面の必死さが愛しかった。必死に好きだ好きだと叫んでいるように思ってしまったけれど、もしかしてずっと、捨てないで嫌わないで好きでいてと叫ばれていたのかもしれない。
 もしそうだったとしたら、そしてそれを正確に把握できていたら、結果として好きになるのは同じでも、両想いだなんて誤解はせずにすんだろうか。でもきっと、お前の呪いのせいで好きになったんだから、責任取れよと持ちかけていただろうなとは思う。
 きっと少しだけ、動き出すのが早すぎて、だからちょっと遠回りをしていただけなのだ。
 膝を抱えて丸まった体勢を解きながら、体を後ろへ倒していく。背中をベッドマットに預けきった後、ゆっくりと目を開ければ、心配そうにこちらを見下ろす瞳と出会う。でも口は開かず、黙ったままだ。こちらから話しかけるのを、どんな結論を出したのかを、彼はじっと待っている。
 片手を上げて彼の背中を覆う布を握り、数度緩く引っ張れば、同じように彼も体を倒して隣に寝転がった。

続きました→

 
 
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