親睦会17

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 この気持が錯覚の思い込みだったとして、じゃあどうすればいいっていうんだろう。話を聞いて、そうかもしれないと思ってしまった所で、そうか別に本気で好きってわけじゃないのかと、あっさり気持ちが覆ることなんてない。
 こんな男を好きになっただなんて、やっぱり気のせいで勘違いで思い込みだったのだと、安堵して喜ぶ気持ちよりも、相手からそう指摘されたこと、相手がそう思っていること、そしてそれを自分自身が受け入れてしまったことへのショックの方がはるかに強かった。
 胸が締め付けられるように苦しくて、浅い呼吸を繰り返す。相手はそれを何も言わずにただジッと見守っているだけだった。
 相変わらず眉尻を下げた困り顔をしているようだったが、その顔を見てもぐちゃぐちゃの感情が更に乱れるだけと気付いてそっと視線を机に落とす。これ以上泣き顔なんて晒したくないのに、なんだか泣いてしまいそうだった。胸が軋んで目の奥が痛くなって、ますます顔を俯ける。涙が溢れてしまわないように、キツく瞼を閉ざした。
 机を挟んで対面に座っていた相手が立ち上がる気配がする。そのまま机を回り込んで近づいてくるのはわかったが、顔は上げられなかった。身構えるように体を固くして、相手がどうするのか気配を探り続ける。
 結局すぐ隣に腰を下ろした相手が、そっと背中に手の平を押し当ててくる。はっきり緊張はしていたし、それはその手から相手にも伝わっただろうけれど、その手を振り払うことはせず、口で何かを言うこともしなかった。もしくは出来なかった。
 まるでこちらの様子を窺うようにしばらく背を撫でていた手がやがて肩へと移動し、ゆっくりとした仕草ではあったものの、引き寄せるようにじわりと力をかけてくる。迷ったのは一瞬で、抵抗はしなかった。
「想いの出処は問題だと思ってるけど、既に自覚があるお前の想いを否定したいわけじゃない。好きだと思ってくれて、ありがとう。辛い想い抱えさせた上に、それに気づくのも遅くて、本当に、ゴメン」
 抱きしめられた腕の中、柔らかな声音で告げられた言葉で涙腺が決壊した。
 相手の肩口に目元を押し付けて、涙が溢れ出るまま子供みたいにわんわん泣いた。相手はありがとうとゴメンを繰り返しながら、抱きしめ続けたまま、時折宥めるように背を擦ってくれてもいた。少なくとも、記憶が途切れる直前まで、ずっと。
 色々なものに目を背けていたせいもあるけれど、色々な情報を一度に受け取って処理許容量を超えて脳が考えることを一旦放棄したのか、泣いて緊張の糸が切れたのか、どうやら泣き疲れて寝たらしい。
 気付いたら布団の上で、しかも夜が明けたのがわかる程度に部屋の中は明るかった。
 上体を起こして布団の上に座ったまま、ぼんやりと昨夜へ思いを馳せる。正直、相手の話は多分まだ途中だったし、なんの結論も出ていないけれど、泣ききったせいかどこかスッキリとしてもいた。
 眠りに落ちる寸前、これからのことは、これからゆっくり考えていこうと言われた気がする。相手にもう眠りなと促されたことも、焦って色々聞かせてゴメンと言われたことも、なんとなく覚えている。
 そう言って泣き疲れた自分を寝かしつけた相手の姿は部屋にない。
 立ち上がって部屋を区切る襖を開ければ、座卓に突っ伏す背中が見えた。起こして少しでも布団で横になって貰った方がいいのか、起こさず少しでも睡眠を取ってもらったほうがいいのか迷いながら近寄れば、気配に気づいたのか相手が身を起こして振り返る。
 寝不足がありありとわかる酷い顔をしていた。
「おはようございます」
「ん、はよ」
「ずっとこっち居たんですか?」
「まぁ、色々な」
 過去の反省でもしていたのか、今後の自分たちのことを考えていたのか、それとも自分の隣で寝る気になれなかったって話なのか。その色々を聞いて欲しいって感じでもないし、もちろんこちらも追求する気はない。
「酷い顔してますよ。朝食まで、少しでも布団で寝たらどうです?」
「あー……お前はどうすんの」
「ちょこっと朝風呂します」
「そっか。じゃ、朝飯の支度整ったら起こして」
 わかりましたと返せば、相手は立ち上がって寝室スペースへ移動するようだった。
「色々あったけど、せっかく来たんだから取り敢えずお前は風呂と飯、堪能しきって。後のことは帰ってからゆっくりな」
 すれ違いざま一度足を止めた相手に、そう言われながらポンと軽く肩を叩かれて、フッと体の力が抜ける。普段通りを意識しすぎて、少しばかり緊張していたらしかった。
「はいっ」
 振り向いて、思わずで力強くそう返す。多分、笑っても居たと思う。
 既に寝室スペースの襖に手をかけていた相手は、一瞬ビックリしたように目を瞠ったけれど、すぐに安堵の滲むどこか満足気な顔で頷かれた。

続きました→

 
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