親睦会4

1話戻る→   目次へ→

 ドアを開けた先にいたのは、今現在微妙な関係となっている、というよりはもう間違いなくただのセフレな先輩だった。
「出かけるから支度しな」
 換えの下着だけでいいと言われて、わけがわからず目の前の男を見つめ返す。
「いったいどこ行くんですか?」
 返された地名は、そう遠くもない温泉地だった。しかしますますもって意味がわからない。
「なんで?」
「たまには場所変えてヤろうと思って?」
「ああ、そういう話」
 同期と違って寮内でヤることに抵抗なんてないけれど、外に食事に出て、その帰りに目についたラブホで、という経験は何度かある。支払いはどうせ相手だし、寮でするよりはやっぱり色々と気楽なので、自分からそう誘導してしまったこともあった。
「泊まるんですか?」
 でもラブホ利用経験はあっても宿泊まではしたことがない。もちろんラブホ以外の宿泊施設に泊まったこともない。
 もっと端的にいうなら、食べることとヤること以外の何かを、この男と共にしたことがない。
「ヤる気で行くのに日帰りとか慌ただしすぎだろ」
「ですよね」
 確かに聞くまでもなかった。この様子なら当然、既に宿の予約も完了しているんだろう。
 何で突然そんな気にと思う気持ちの中に、なるほどこういう形で自分の欲求を通すのかと思う気持ちがある。元々、酔って潰れた相手に突っ込むような男なわけだし、ある意味すんなり納得できる。
 ヤることヤッてるセフレっぽい仲にはなったし、平日だってお互い早い時間に寮へ戻っていれば応じてしまうこともあるけれど、基本、一度のセックスで何度も射精することはしない。互いに一度ずつ吐き出して終わりだ。だからだろうか。直接言葉で、物足りないだとかもっとしたいだとか言われたことはないけれど、終えた後にヤり足りないという気配を感じることはあった。
 最初の頃は本気で疲れ切って二戦目なんてとんでもないって感じだったし、そこそこ慣れてしまった今だって、やっぱり続けて何度もしたいなんてことは思わない。
 性欲の差とかではないと思う。なぜなら慣れてきてからは土日とも抱かれることが平気になったし、平日の誘いを疲れているからと断ることも減った。更に言えば、さすがに回数が減りはしたけれど、一人で処理することも未だにある。
 なんというか、気持ちよく果てた後の体を更に弄り回されるのが嫌だった。
 ほぼマグロが許されている現状、相手は毎回、こちらの体を丁寧に慣らして拡げてくれる。それらの準備を考えたら、一度にヤりたいだけヤッて、吐き出せるだけ吐き出して、その分次回までの日をあける方が楽なはずだ。でももし、面倒だからヤり溜めさせろ的な提案をされていたら、抱かれることそのものを止めるだろうとも思う。
 ヤり足りない気配を滲ませても口に出して言わないのは、そんなこちらの気持ちを、きっと相手も察しているのだろうと、そう思っていたのだけれど。そこに踏み込んで来る今回の誘いには、どうしたって警戒する気持ちや困惑する気持ちやらが湧いてしまう。
 元々のんびり湯に浸かれる温泉や銭湯などが好きで、たまの贅沢で徒歩距離にあるスーパー銭湯へ行くことはあるが、実のところ、温泉旅館への宿泊なんてしたことがない。旅行そのものも随分とご無沙汰だった。というか多分そんな話をチラッと零した記憶があるから、それで目的地が近場の温泉地になった可能性が高い。
 もしこれがセックスの誘いでなければ、きっと喜んでホイホイと付いていく。けれど相手の目的がなんとなく見えてしまっている以上、素直に喜ぶことなど出来ずにただただ立ち尽くしていた。
「まぁちょっとこれ見ろよ」
 相手もこちらのそんな態度は想定内だったらしい。そう言いながら、スマホの画面をこちらへ向けてくる。それはどうやら宿のサイトの料理紹介ページらしく、美味しそうな料理の写真が並んでいた。
「こんな感じの飯が出るみたいだけど」
 朝食はこっちなと指が画面を滑って、これまた美味しそうな和朝食の写真が表示される。ゴクリと喉が鳴ってしまって、フッと小さく笑われた。
「行く気になったか?」
 疑問符は付いているが、断られるなんて思っていないのは明白だ。食事に釣られて頷くと思われているのが癪だし悔しいのに、もし断ったらどうするのかを考えるとそれはそれで気持ちが沈む。
 他の誰かを誘って出かけて行くのか、あっさりキャンセルを選ぶのか。キャンセルを選んだとして、そんな真似をさせても今夜また食事に連れ出してくれるのか。
 もし自分なら、ここまで用意した誘いをあっさり断られたら、関係そのものを終えることを考える。これがそんな重要な意味をもつ誘いかどうかはわからないけれど、それを確かめることそのものをなぜか躊躇ってしまう。
 セフレっぽい関係とは言っても、明確にセフレと言われたことはないし、自分の方も、セフレだと思っていると口に出したことはない。それくらい、自分たちの関係はあやふやだった。
 こちらの不安や困惑の正体には多分気付いているだろうに、豪華な食事写真で釣る真似はしても、言葉での安心はくれようとしない。本当にいつもと違う環境でヤりたいだけで、嫌がるような無茶はしないと言ってくれれば、たとえそれが嘘だとしても、嘘だろうとわかってても、こちらは頷きやすいのに。せめて最初に、場所変えてヤるのが目的だなんて言わずに、温泉好きだって聞いたから喜ばせたくて宿を取ったとか言ってくれていたなら、たとえ本当の目的に気付いても、わかりやすく差し出された好意を振り払う真似はしにくいのに。
 胸の何処かがキリキリと痛い。ズルいと思うのに、それはお互い様だとわかってもいる。
 だって食事まで奢ってくれる、都合の良い性欲処理相手という扱いしかしていない。吐き出したらハイ終わり、という態度をあからさまに見せていた。疲れ切ってぐったりだった最初の頃はともかく、ある程度慣れてからは終えた後の処理も自分でするようになった。というよりは、終えた後の体には触れさせなくなった。
 行為の最中に甘い言葉をねだることもしないし、行為の余韻なんてものはむしろ避けるような素振りをしている。もちろん、食事とセックス以外の何かを相手に求めたこともない。
 だって酔い潰した相手に無断で突っ込む犯罪者と、そんな犯罪者相手にも簡単に足を開いて善がっている自分には、これくらい曖昧で殺伐とした関係で十分だろうし似合いだろう。そう思っているはずなのに、時折走る胸の痛みは、知覚するほどに増して行く気がする。
「ああそうだ。お前、財布置いてっていいぞ」
 食事に釣られてあっさり頷かなかったせいか、ダメ押しとばかりにそんな言葉が告げられた。
「行きます」
 言えば満足そうに笑いながら、じゃあ支度してと促される。最初に言われた通り、換えの下着類だけ適当なカバンに丸めて突っ込めば、支度なんてあっというまに終了だった。

続きました→

 
萌えたらポチッと応援よろしくお願いします。

1話完結作品/コネタ・短編 続き物/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




関連記事

noimage

親睦会13

noimage

親睦会17

noimage

親睦会1

Menu

HOME

TOP