部屋に入ったらの言葉通り、扉が閉まったと同時に振り返った相手に何度も繰り返しキスされた。最初だけはただ触れるだけのキスだったけれど、一度僅かに離れて触れる度に少しずつそれは変化して、彼の舌を口内に受け入れる頃には背後の扉に完全に背を預けてしまっていた。
個室居酒屋や車の中ではそこまで意識しなかったけれど、並んで立てば二人の身長差は歴然だ。ひょろりとして見えたって目の前に立たれれば当然圧迫感はある。でも相手と背後のドアとの間に挟まれて、こちらの僅かな抵抗などは完全無視でやや強引にキスを続けられていても、嫌悪感はわかない。その事実に安堵しながら、重力に従い流れ込んでくる相手の唾液を喉の奥に落とした。
それが合図だったとでも言うように、ようやく相手の顔が離れていく。濡れた唇を相手の指が拭っていくのに合わせて、途中から閉じていた瞼をどうにか押し上げれば、優しく慈愛に満ちたような目とかち合ってしまって戸惑うしかない。
執拗なキスを繰り返していた興奮だってないわけじゃなくて、頬はかすかに上気していたしキスの名残で濡れた口元は嬉しげに口角があがっている。でもやっぱり全体的な雰囲気が、あんなキスの後だと言うのに生々しさが薄くて酷く優しい。
「あの……」
「俺の唾液飲まされても、嫌じゃなかったね?」
「それ、確認必要ですか?」
「あまり必要ないね。でも、なんでそんな顔をしてるのって、思ってるみたいだったから」
拒否されなかった安堵と受け入れてもらえた愛しさだよと言った相手は、ありがとうと続ける。一体なんのありがとうかわからない。そう思ったら、俺を欲しがってくれてありがとうと言い直された。どんだけ顔に出てるんだ。
「じゃ、次は一緒にシャワーを浴びようか」
言いながらこちらの手を取った相手が部屋の奥へと促してくるが、もちろん咄嗟に対応できるはずもなく、口からこぼれたのは疑問符の乗った音だけだ。
「は?」
「洗ってあげるよ」
「え、いや、ちょっと」
「大丈夫。俺も勃ってる」
え、勃ってるんだ。という驚きに捕らわれている内に、あっさりバスルームの脱衣所だったわけだけれど、これは相手の手際が良すぎるってことでいいんだろうか。
服を脱がそうと伸びてくる手から逃れるように身を捩って、ちょっと待ってと訴える。待って貰えないかと思ったけれど、相手はこちらに伸ばしていた手を引っ込めた。
「一緒にシャワー浴びるのの、何が問題?」
「何って……」
聞かれても何が問題なのかはわからなかった。そもそも何で抵抗しているのかも良くわからない。一緒にシャワーを浴びるという手順が自分の中に存在していなかったから、ただ戸惑ったというだけな気がしてくる。
「手順がわからない、のが、嫌……みたいな?」
「あー……なるほど」
それもなんだか違う気がすると思いながら口に出してみたけれど、相手はそれに納得がいった様子だ。けれど少し考える素振りを見せた後、相手は困ったように苦笑する。
「らしいと言えばらしいけど、そっちの反応と態度次第で次の手順大きく変わるような事だから難しい、かな。言葉で先に説明することで、身構えられても嫌ってのも大きい」
「それ、言ったら身構えるようなことをする予定があるって、言ってますよね」
「そうだね」
すでに身構えちゃったよねと苦笑を深くした相手は、どうしようかなと言った後で口を閉ざした。
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