追いかけて追いかけて16

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 やがて仕方ないなと言った様子で、狡いのは承知で言うけど出来れば最後まで抱きたいと思っている、と言われたけれど、何が狡いのかがわからない。こっちだって、出来れば最後まで抱かれたいと思っているのに。
「俺も、そう思ってますけど……」
「うん。でも男同士のセックスって、それなりに準備必要だからね」
「それはまぁ、仕方ない、ですよね」
「そう。仕方ない」
 同意しながらも相手は困ったように笑って、どこまでわかって言ってるのと続けた。
「どこまで、って?」
「お腹の中、洗うことまで考えてる?」
「あぁ、それか……」
 酷く言いにくそうに告げられた内容に、そうか抱かれるならそういう事をしなきゃいけないのか、と思う。
 一応知識としては持っていた。ただ、妄想の中ではそういった現実的な手順なんて踏まないし、本格的なアナニー経験だってない。ペニスを弄りながら、アナルも一緒に撫でてみたり、指先を軽く埋めてみたりはしたけれど、ローションだのワセリンだのを使ってはっきりと自分で中に触れたことはなかった。
 ローションとゴムさえしっかり使えば、なんとかなるようなイメージもあるがどうなんだろう。
 ついでに言うなら、あの日、突っ込む気満々で来ていた後輩だって、お腹の中が綺麗かどうかなんて一切気にした様子がなかった。ただあの後輩に関してはなんの信用もないからな、とも思う。ローションとゴムを持参してたのはもちろん知ってるが、結果だけ言えば、洗っても居ない腸内に生指を突き立ててきたし、同居人の到着がもっと遅かったら、そのまま生ペニスをその場所に突っ込んでいただろう。頭に血が上っていたからって、衛生観念の欠片もない。
 ああ、余計なことを思い出しすぎた。
「知識はあるっぽいけど、まぁ、普通に考えて抵抗あるよね」
 嫌そうに顔を歪めてしまったのを、完全に別の意味で受け止めた目の前の相手が、小さく息をつく。
「一緒にシャワー浴びながら、必要な準備だよって言いくるめたら、もしかしたら納得してお腹の中洗わせてくれるかも。という期待のもと、出来れば事前に何も教えずに、バスルームに連れ込みたかったんだよね」
 失敗したけどねと言って相手はやっぱり苦笑する。
「抵抗感って意味なら、中を洗うことそのものより、あなたの手で洗われるってのが物凄く抵抗感じますけど。どうしても必要な準備だから中洗えってなら、自分でしますよ?」
「でも経験もなく一人で綺麗になんて出来ないでしょ。それとも経験有る? アナニーとかしてたりする?」
「いえ、ないです、けど」
「じゃあダメ。中途半端な洗腸ならしないほうがいいし、そうなる可能性のが高いから」
「しなくていいんですか?」
「うん。反応と態度次第で手順変えるって言ったろ。嫌がることさせる気ないもの。ただ、口で説明したら嫌だって言われることも、実際の反応見ながらお願いしたら、つい頷いちゃったり受け入れちゃったりする場合もあるよねというか、まぁ、悪い大人でごめんね?」
 色んな下心ありまくりでどうしても狡くなっちゃうんだよと自嘲気味に笑われて、やっぱり首を傾げてしまう。
「そんなの、お互い様で良くないですか。恋人にもセフレにもなれないのに、誘いに乗って抱いて貰おうとしてる俺だって、たいがい狡いし悪いと言うか、酷いことしてるって自覚、ありますけど」
 むしろ自分のほうがよっぽど狡くて酷い真似を相手にしている気がするのに。
「ああ、俺に酷いことしてるって、思ってるんだ」
「そりゃまぁ」
 この誘いに乗ること以外にも、本当にいろいろと酷い真似をし続けてきている。自覚は有る。
「だから、別に狡いだの悪いだの気にしなくていいです。俺が嫌がって怖がって拒否することを強要する気がないのはわかってますし、納得できないと頷けないことも多いと思うんでこの後も手間かけさせちゃうと思いますけど、でも、俺が流されて頷いて受け入れることに関しては罪悪感とかいらないです。むしろもっともっと狡く悪く立ち回って、俺に気づかせないまま、あなたの好きなようにして欲しい」
 言えば、最初少し驚いた様子で、次にはおかしそうに、でもどこか嬉しそうに、柔らかく笑って見せる。優しい笑顔を見せられると、それだけで少しホッとする。
「うん。すごい誘い文句だった。でもわかったよ」
 じゃあ一人でシャワーを浴びておいでと残し、彼は脱衣所を出ていった。

続きました→

 
 
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