そう言えば、何もかもが受け身で、自分から相手に手を伸ばしたことはない。両手を持ち上げるように伸ばして、相手の頬を挟むように触れてみた。目の前の彼は、嬉しいの言葉通り柔らかな笑みをこぼすものの、何も言わない。こちらが次に何をするかを見守る気で居るらしい。
腹筋に力を入れて、少しばかり上体を起こす。ゆっくりと相手の唇を自分から塞げば、近すぎてぼやける視界の中で、相手の目が笑うように細められたのはわかった。
肩に掛かった力に従い腹に入れた力を抜けば、唇を合わせたまま、また背中にベッドマットの感触が押し付けられる。すぐにキスは深いものになったから、必死に応じて、流れ込んでくる唾液を飲み込んだ。
口の中を探られても、互いの舌が触れ合って擦れても、唾液を飲まされても。嫌悪感はないしキスは多分気持ちがいい。
キスを繰り返しながら体のあちこちを撫でていく彼の手も、時々くすぐったい以外はだいたい気持ちがいい。こちらも負けずと相手の体を撫で回そうとするものの、相手のくれる刺激に意識が拡散して、あまり上手くは行かなかった。
こちらはシャワー後に備え付けの部屋着を着用しているから、相手の手が肌に直接触れるのも早かったし、すべて脱がされ丸裸になるのも早かった。もちろんわかっていて、自分からある程度協力したのもあるのだけれど、それにしたって器用だなとは思う。だってほとんどずっと、キスを続けたままだったから。
「好き、なんですか」
「うん?」
唇が離れた隙に問いかければ、何をと言いたげにもう少し頭が離れて顔を覗かれる。
「キス、ずっとしっぱなし、だから」
しゃべると口の中の違和感が増した。口の中のあちこちと、舌全体にじんわりとした痺れがまとわりついている。
「ああ、うん。嫌?」
「いや、ではないけど……」
「ないけど?」
嫌悪感はないし、間違いなく気持ち良くても、さすがにもっともっとして欲しいって感じではないし、でも、したいならどうぞ続けて下さいとも思う。
「じゃあちょっと、口へのキスは一旦休憩してみようか」
言い淀んだら何を察したのかあっさり引かれて、代わりとばかりに唇が落とされたのは耳元だった。ゾワッと肌が粟立って、それに気づいた相手がふっと小さく笑った吐息にさえ、ゾクゾクとした何かが背筋を走る。
「っぁ……」
ちゅっと響いた音に、たまらず小さく声を零した。嫌悪、なのかもしれない。それともこれも気持ちがいいんだろうか。わからない。
「耳、ずいぶん敏感だね」
楽しげな囁きに、泣きそうになった。耳に触れる唇は想う相手のもので、自分に覆いかぶさっているのは間違いなく彼だ。あの男じゃない。思い出すなと思うのに、耳に触れる相手の息も唇も舌も、気持ちが悪くてたまらなかったあの日の感触を思い起こさせる。
ゾクリゾクリと体の中を貫いていくのが、快感からなのか恐怖からなのかわからない。わからない。わからないことが、怖い。
混乱する中、耳へのキスを繰り返していた相手に、耳朶を食まれて吸われて体が震えた。
「ひっ……」
わずかに零した悲鳴に、ピタリと相手の動きが止まる。酷く嫌な感じの沈黙に、どうしていいかわからないまま、ひたすら相手の次の行動なり言葉なりを待ってしまう。
「耳、いじられるのが嫌なら止める。感じちゃって辛いって話なら、続ける。どっちがいい?」
耳の近くで語られて、吹き込まれる声にすら体が震えるのに、そう聞いてまっさきに思ったのは、止めて欲しくないだった。
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