追いかけて追いかけて19

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 撫で回す余裕がなくすっかり落としたままだった腕を持ち上げて、相手の背を抱くようにまわしてから、やめないでと訴える。わかったの言葉とともに再開される耳へのキスに、抱きつく腕にはすぐに強い力がこもった。
 ゾワゾワして、気持ちが悪いような気がして、怖くて。でも同時に、ゾクゾクするのが気持ちがいいような気もするし、縋ってしまう腕の中の体に安堵も貰っている。
「ふ、……ふぅ……ぅっ……」
「声、我慢しないで」
 気持ち悪くて怖いのを抑え込んで、キモチイイを感じようと必死になりながら、彼の口で弄られ続ける耳に意識を集中させていたからか、歯を食いしばっている自覚はなかった。でもこれで顎の力を抜いてしまったら、何を口走るかわからない。
 ヤダとか怖い程度ならまだ、キモチイイのが嫌だとか、気持ちよすぎて怖いとか、言い訳が利きそうだけど。でも自分から続けて欲しいと頼んでおいて、気持ちが悪いのだと口走るわけにはいかないし、絶対に、気持ちが悪いのを耐えていると知られたくはなかった。なのに。
「大丈夫。気持ち悪いって、言ったって、大丈夫だから」
 宥めるような声音に、どうして、と思う。どうしてと思いながら、反射的に嫌だと返していた。
「やだっ。きも、ちぃ。きもちい。キモチイイ」
「ああうん。ごめん。きもちいね。気持ち良く、なってね。余計なこと言ったね。ごめんね。キモチイイね。気持ち良く、なろうね」
 馬鹿みたいにキモチイイと繰り返してやれば、相手も余計なことを言ったと謝り、キモチイイねと繰り返す。性的な興奮の薄い、甘やかすみたいに優しい声だ。
 泣きそうだと思ったし、そう思ってしまったらもうダメだった。腹筋に力を入れて、抱き縋る体に身を寄せる。涙の滲む目元を、相手の肩口に押し付ける。すぐに、自分の背にも相手の腕が回るのがわかった。
 体を起こすよと声がかかって、そのまま上体が引き上げられる。随分あっさりと、向き合って座りながら抱き合う体勢に持ち込まれた。見た目からひょろっと細くて、抱きしめた体だってやっぱり細身なのに、思った以上に力持ちなのが意外だった。驚いて、ちょっと涙が引っ込んだ。
 本当にごめんと繰り返されながら、宥めるように背を撫でられる。謝るべきはきっと自分の方なのに、あれこれ混乱したまま口を開くのが酷く怖くて、ただただ黙って彼の腕の中、気持ちが落ち着くのを待つ。気持ちが落ち着いたら、聞いて確かめないとならないことがあると、もう、わかっている。
「どこまで、知ってるんです、か」
 かなり長いこと待たせた後で、ようやく口を開いた。でもまだ顔は上げられそうにない。顔は相手の肩口に押し付けたままだし、腕は相手の背に回っているし、相手の腕も自分の背を抱いている。
「知ってるって、何を?」
「俺に起きた事。何をされたのか、そんな事まで詳しく調べられるものですか?」
「ああ、それか。そんなに詳しくは知らないよ」
「だから、それ、どこまで、ですか」
「うーん……抱かれる前には助け出された。ってくらいしか知らないというか、ちょっと調べたくらいで何されたのか詳細わかるような事はないよ」
 警察ではもちろん、何をされたかの詳細を話した。今のは、だからってその詳細が簡単に調べられるような状況にはなってない、という意味だ。安心していいよとは続かなかったけれど、そう言われたような気がしたし、実際、そんな詳細が流出してなくて良かったと思う気持ちはある。でも、じゃあ、なんで。
「でも、耳……」
「あー……それはまぁ、反応見てたらなんとなくってだけで、余計なこと言ったのは本当に自覚してるから」
 またしてもごめんと言われて、さすがに首を横に振った。もう、謝らなくていい。

続きました→

 
 
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