うっとり、かどうかはわからないが、ぼんやりと見惚れるこちらの視線に気づいた様子で楽しげな笑いが柔らかで静かな笑みになった。そんな優しい顔で見つめ返されると、ますます好きだって思ってしまう。
「ねぇ、昔連絡先交換したけど、あれ変わってない?」
「あ、はい」
「俺も変えてない。まだ残ってる? 消しちゃった?」
「残ってます」
「よし。じゃあちょっと今後を見据えて、もう少し深く交流してみようか」
「今後を見据えて、深く、交流……」
意味を確かめるように、彼の言葉を繰り返す。繰り返した所で、意味は今ひとつわからなかったけれど。
「恋愛に男女の拘りないから、取り敢えずお付き合いしてみようか、ってのでもいいんだけど」
「ぅえっ?」
「恋人になってみる?」
かわかわれているんだろうか。なりたいですって言っていいんだろうか。わからなくてやっぱり固まってしまう自分に、彼は優しげに、本心だけど本気じゃないよと続ける。ホント、意味がわからない。
「恋人になってみてもいいって気持ちは本当。でも恋人になろうって本気で誘ってるわけじゃないってこと。わかる?」
「なんとなく」
「なら今度連絡していい? 飯食いに行こうとか、まずはそんな感じで」
「あ、はい。ぜひ」
本当なら嬉しい。恋は自覚してても恋人になりたいなんて思ったことはなくて、恋人云々の話は正直全く実感もわかなければ彼と付き合う想像も出来ないけれど、今度一緒に食事に行こうって話は単純でわかりやすく、そしてめちゃくちゃ魅力的だった。
「じゃあ近いうちに連絡する」
もう研究室に用はないという彼とはそこで別れ、一人研究室へ戻る途中、携帯が着信を告げて震えた。メッセージの差出人は別れたばかりの彼で、確かに近いうちにと言っていたけれど、あまりに近すぎて驚く。
どうやら互いに変わっていないと言った連絡先を、それでも一応確認しておこうという事らしい。ついでのように、どんな店が好きとか食べたいものとか嫌いなものとかを聞かれていたから、正直に好きなものと少し苦手なものを返信しながら気遣いがマメだなと思う。それと同時に、きっとモテるんだろうなとも思ってしまった。
そうだ。今の彼なら当たり前にモテるだろう。見ず知らずの新入生に声を掛けて、お金まで貸してくれるような優しさだけじゃない。直接の交流はサークルでの僅かな時間しかないけれど、気が利いて聡明で、周りの人をよく見ていて場を取り持つのが上手いのは知ってる。院生時代はちょっと身形に構わなすぎだったけれど、社会人になってスーツを着こなす彼は見た目までも格好良くなってしまった。
工学部ってだけでも女性はめちゃくちゃ少ないし、大学院なんてもっと男性率が高くなるし、サークルの男女比はどちらかに偏るってことはなかったけれど、あの身形な上に明らかに多忙そうで女子からの受けはあまり良くなかったから、彼がモテるなんてイメージはまるでなかったのに。
モテそうだと思ったらますます、わざわざ男の自分相手に誘うような真似をする意味がわからない。性別に拘らないのだったら尚更、女性を相手にしたほうが良いに決まってる。自分自身、恋を自覚した時に男同士じゃどうしようもないなって思ってしまった程度の偏見はあるし、やっぱり男女の恋人が当たり前な世の中なんだから。
からかわれてるとは思いたくないから、恋人になってもいいって言ってくれた気持ちは信じるけれど、でも今後どれだけ親しくなれても、彼とそんな関係になることを望むのはやめておこうと思った。
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