彼とはその後、平均したら月に一度くらいの間隔で食事に行くような仲になった。学年は少し離れているけれどサークルもゼミも同じなわけだから、共通の話題には事欠かない。こちらの卒研の話もすんなり通じるし、相手の仕事の話を聞くのも楽しくて、好きだと思う気持ちはあっさり育っていったけれど、だからって何かが大きく変わるような事はなかった。
好きだという気持ちが大きくなったからって、それを相手に伝えることはしなかったし、相手もあれ以降、恋人だの付き合うだのという話を持ち出すことはしていない。二回ほど話題の映画を一緒に見たりもしたけれど、それも話の流れでなんとなく一緒に行くことになっただけで、当然デートなんて感じではなかった。
逆にそれが、自分にとっては心地良かったとも言える。叶える気のない恋だけど、好きな人と二人っきりで過ごすことが出来るのはやはり嬉しい。でも叶える気がない恋だから、こちらの気持ちを探られたり、恋人になろうとか付き合おうなんて言われたら困ってしまう。その誘いに乗れなくなってしまう。
そんなわけで、自分はひたすら彼と過ごすその時間を楽しんでいたけれど、彼が何を思って自分を誘い続けるのかは知らないままだった。何が出てくるかわからないのに、自ら藪を突く気もない。
飽きられて誘われなくなったらそれまでと思いながらも、院に進学してもこの関係が続いたらいいな、なんて思いが崩れたのは卒研発表を終えて後は卒業を待つばかりという時期だった。
たまに連絡は取り合っていたものの、彼と直接会うのは年末に会って以来だ。いや違う。正確には、二人きりで会うのが年末以来だ。なぜなら卒研発表の場に、半分仕事と言いながらもちゃっかり彼が来ていたせいだ。
年末に会った時、ラストスパートだろうから次に会うのは卒研発表後だなと言われていたせいもあって、めちゃくちゃ驚いたし無駄に緊張したけど、でもそれ以上に嬉しかった。発表のあった週の終わりに、さっそく食事に誘ってくれたのも嬉しかった。お疲れ様ってことで今日は全部奢るから少し贅沢しようよって、雰囲気のいい個室居酒屋を予約されてたのだって、ただただその気遣いが嬉しいだけだったのに。
空気が変わった瞬間ははっきりと覚えている。その日の話題は当然卒研の中身がメインだったけれど、一息ついた後は春休みの話題になった。卒業を待つばかりと言っても院への進学は決定しているから、春休み中だってそれなりにゼミには顔をだす予定だという話をしていて、ついでのように大学近辺の不動産屋を巡る話も出した。
ゼミは違うけれど結構親しくしている同期生で、同じように院に進学が決まっている男が居るのだが、ルームシェアを持ちかけられて受けたのだ。ルームシェアと言っても、ゼミに泊まり込みそうな時の避難場所が欲しくないかって感じで、余裕があればちゃんと自宅へ帰るつもりだし、一緒にそこに住んで生活しようという話ではない。
それでもその話を出した瞬間、一瞬変な顔をした彼は、その後も暫く何かを考えているようだった。そして一度トイレに立った後、戻ってきた時には元の席には腰を下ろさず、こちらのすぐ隣に腰を下ろした。二人用の小さな個室なので、僅かな空きスペースにむりやり座った感もそのせいの圧迫感も酷くて、一気に焦った記憶がある。
「告白していい?」
「え?」
「今日、個室のお店を選んで連れてきたのは、最初っからそういうつもりもあったんだけど、でも本当に言ってしまっていいかずっと迷ってた。迷って言えずに居たことを、今、結構後悔してる」
本当に苦しそうな顔を、焦りながらもどこかぼんやりとした纏まりのない思考とともに、ただただ見つめてしまう。卒研発表が終わった開放感やらも手伝って、いつもより少し飲みすぎていたのかもしれない。
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