追いかけて追いかけて5

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 ルームシェアの話を聞く前に、気持ちの余裕を持って話したかったと言った彼は、先に一つ確かめさせてと言葉を続ける。
「ルームシェアの相手と何か特別な関係があるわけじゃないよね?」
「特別な、関係?」
「恋人だったり、恋人予定だったり」
「ただの友人です、よ」
 あ、これ以上は聞いたらダメなやつ。頭では瞬時にそう悟ったのに、彼の口から溢れる言葉を止めることは出来なかった。
「君が好きだよ。だから俺の、恋人になって」
「ダメっ……です」
 聞いたらダメって思った気持ちが遅れて口から漏れて、その後慌てて「です」を足した。もう聞いてしまったけれど、恋人になりますと頷けるわけじゃないから、まぁこの返答でもいいかと思う。もうちょっとマシな断り方があるだろとも、一応頭の片隅で思ったけれど。
「どうしてダメ?」
「それは、……男同士、なので」
 なるべくゆっくりと言葉を吐いていく。少しでも多く、思考を回す時間が欲しい。
「男も恋愛対象になるよって、言ったことあったと思うけど」
「性別の拘りはない、って話、ですよね。だったら恋愛は、女の子として下さい、よ」
 最初の焦りが少し落ち着いて、しっかり考えて答えないとマズいという思考にはなったけれど、思いの外アルコールが回っているらしいことも自覚できていた。飲み込まれて頷いてしまわないように、必死で吐き出す言葉を考える。なのに。
「目の前に、ずっと自分を好きだって思い続けてくれてる、とても可愛い子がいるのに?」
 真剣な目と熱を持った声は、知っているよと言いたげだった。
 恋してるのは本当かと尋ねられたのは最初だけで、憧れですと濁して以降ずっとこちらの気持ちを探らずに居てくれたのは、探るまでもなかったってことなのかも知れない。どんどんと育つ恋情を必死で隠していた意識もないし、ダダ漏れだったよと言われたら、そうですかとしか返しようがないなとは思う。
 でも、そう思ってたって、実際にそれを口に出すかはまた別だ。それを認めるわけにはいかないのだから。
「あこがれです、って言いました」
「うん。聞いたね」
「恋人には、なれません」
「なんで?」
「なんで?」
 思わず同じ言葉で問い返してしまった。
「好きの名前が憧れでも、俺は構わないよ。その憧れは、俺からすれば限りなく、恋してるに近いものだから」
 左頬に彼の少し冷たい手が触れる。自分の頬が熱くなっているのか、それとも彼の手が冷えているのか、もしくはその両方か。
 意識が自分の頬とそこに触れる彼の指先に向かってしまったのは一瞬なのに、その一瞬で元々詰められていた距離が更に縮まっていた。正しくは彼が顔を寄せてきたってだけなのだけれど、間近に迫る彼の顔に息を呑む事しかできなかった。
 唇に彼の唇が柔らかに押し当てられるのを、ただただ黙って見守ってしまったのは、まぶたを落とすことも出来ないくらい硬直しきっていたからだ。
「ほら、びっくりはしてても、嫌悪感はないだろう?」
 ゆったり触れ合うだけのキスを終えた彼は、優しい顔でこちらを見つめている。
 どれだけ口先で憧れだって言ったって、恋情なんだと見抜かれている。軽いキス程度の触れ合いは平気だと確信されている。じゃなければ、勝手にキスを奪っておいて、そんな優しい顔は出来ないだろう。
「そう、ですね。確かに、あなたとのキスに嫌悪感はなかった」
「だったら」
「でも」
 付き合えるだろうと言いかける相手の言葉を、強い声で遮った。相手はさすがに少し驚いた顔をしている。
「でも、男同士で付き合うってことへの偏見と嫌悪感は、あります」
 驚いた顔のまま、相手は未だ寄り気味だった顔と体を離していく。驚きが困り顔に変わっていく様を、なんだか申し訳ない気持ちで眺めていたら、相手はそっと目を閉じ天を仰いだ後、次には俯き大きく息を吐きだした。
 そうしてから再度まっすぐにこちらを見つめる彼は、何かを振り切って、どこかスッキリした顔をしている。
「わかった。困らせるようなこと言って、キスまで奪って、ごめんね」
「いえ。俺こそ、すみません」
「謝らないでよ。どう考えても、今日のは俺が悪い」
 言っていいか迷ってたって言ったろと続けた彼は、断られるのもわかってたんだよと苦笑してみせる。
「好意だけはめちゃくちゃ伝わってきてたから、好かれてる自信はあったんだけどね。男も恋愛対象になるよってことも、本気で恋人になってもいいって思ってるよとまで伝えてあったのに、ずっと告白っぽいことは一切してくれなかったから」
 もう一度、わかってたんだよと、彼はまるで彼自身に言い聞かすかのように繰り返した。

続きました→

 
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