追いかけて追いかけて6

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 自分たちはきっともう会うのを止めた方がいい。今更、彼を好きだと思う気持ちを隠すことなんてきっと出来ないし、会えば好きだ好きだと気持ちが育っていくのだってきっと止められない。
 こちらのダダ漏れな好意で、彼に迷惑なんてかけたくなかった。なのに彼は自分が悪いと言って譲らないし、もう困らせないからまた食事に付き合ってと言われれば、自分から強く拒絶することなんてとても出来ない。
 結局、頻度は少し落としたものの、彼とは変わらず会い続けていた。元々場を取り持つのが上手い気遣いの人だと知っているから、気遣われているのは感じてしまうし気まずさだってゼロじゃないけれど、彼と過ごす時間はどうしたって楽しくて心地いい。
 それでも時折、もう会わない方がいい、これ以上関わらない方がいい、甘えてないで拒絶するべきだという気持ちが湧いて、もう会えません会いませんと何度も連絡を入れかけた。脳内に、メッセージを送った後、彼の返事を待たずにブロックしてしまえと唆す自分がいる。
 なぜなら、唇を触れ合わせただけの優しいキスを、何度となく思い返していたからだ。告白を受け入れて彼と付き合ったら、あのキスの先もあったんだろうなと考えてしまう。優しく笑いながら触れてくれる手を、唇を、想像してしまう。熱を吐き出した後の賢者タイムに、ひたすら落ち込んで泣きたくなるくせに、その想像を止められなかった。
 気持ちが不安定に揺れる。特に彼と会う日が決まった後は、本当に会いに行くのかと直前までかなり悩む。悩んだって、結局は彼に会いに行ってしまうし、彼との時間を楽しんでしまうんだけれど。
 そうなるってわかってても、迷う気持ちはどうしようもなかった。そしてそんな自分の迷いや揺れる気持ちが、どれくらい周りに漏れているかなんて気にしたことがなかった。

 それは夜間実験を終えて、友人と共同で借りた部屋で仮眠を貪っていた時だ。自分の身に何が起きているのかなんて、最初はさっぱりわからなかった。
「ああ、やっと起きました?」
 ルームメイトの友人の声じゃない。上から覗き込む相手の顔をぼんやり見返しながら、誰だっけと思う。全く知らない顔じゃない。
 確か、友人のとこのゼミの4年生だ。てことは、友人も一緒なんだろうけれど、部屋に友人の気配はない。大学からの近さと安さ重視で契約した狭いアパートなので、トイレという可能性はあるものの、そこでようやく何かがオカシイと感じた。
 そもそも、友人はこちらが夜通し実験していたのを知っているし、今から寝るという連絡も入れてある。仮に部屋に何かを取りに来たのだとしても、こちらを起こさぬよう静かに用事を済ますはずだ。お互いその程度の気遣いは当たり前にするから、特に揉めること無く部屋を共同で使っていられるとも言える。
「ゴメン、名前、なんだっけ。あと、なんでここ居るの?」
 体は酷く重くて怠かったけれど、殆ど知らない後輩に上から見下されている状態を受け入れることも出来ず、聞きながら体を起こそうとした。けれど浮かしかけた体は、肩を押されてあっさり布団の上に戻ってしまう。
「ちょっ、」
 名前を告げる相手の口元は笑っているのに、目は全く笑っていない。ゾッとするような気配に、冷や汗が吹き出そうだった。
「先輩とちょっとお話したくて、鍵、借りたんすよ」
 友人がそうホイホイ他人に鍵を貸すはずがない。貸したとして、その連絡と説明がないなんてありえない。絶対嘘だと思ったものの、でも事実、相手はこの部屋に入り込んでいる。
 鍵を盗んだか、ピッキング行為でむりやり鍵をこじ開けたか。どちらにしろ、ヤバイ相手には違いない。
「疲れてるから今はゆっくり寝たいんだけど。話があるなら、後で研究室で聞くから」
 努めて冷静に発したつもりの声は、少し震えてしまった。相手を恐れているとバレるのは避けたかったのに隠せなかった。
「それだと、わざわざここ来た意味、ないじゃないすか」
 口調は落ち着いているが、それは優位を確信しているからなんだろう。

続きました→

 
 
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