別れた男の弟が気になって仕方がない25

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 優しくされて、気持ち良くなって、あなたと一緒にイク。って方が、よっぽど酷い真似、ってわかってないから、そういうことが言えるんですよ。
 先程言われたセリフが蘇る。確かにそうだ。全くわかっていなかった。
 いったいどの段階から、相手の想いはこちらへ向かっていたんだろう?
 想う相手が居るようだ、というその想う相手が自分だった可能性に頭を抱えたくなる。兄と好みが嫌になるほど似ているだとか、なれるなら兄になりたいだとか、そんな言葉の端々から、てっきり兄の恋人となった幼馴染が想いの向かう先と思っていた。けれどその相手が兄の恋人だった自分の方だったとしたって、そこまでの違和感がない気がする。
 相手の様子から、継続する関係の結べない相手と思い込んで、最初から一度きりの慰めを渡すつもりで触れていた。嫌がられながら抱く覚悟、結果嫌われてしまう覚悟ばかり決めていて、好きになって貰おうなんて欠片も考えていなかったし、相手がこちらに好意を持っている可能性すら一切考えなかったのだ。
 もし、好きになってという態度を取っていたら、何かが変わっていたのだろうか?
 せめてキスを試してそこまでの拒絶感はないらしいとわかった時に、好きになってくれたら嬉しいと、一言伝えておけば良かった。拙いながらも必死に応じようと頑張ってくれていたのに。そんな相手に自分がかけた言葉といったら、焦る必要はないだとか、応じようと考える必要はないだとか、気持ち悪くないか気持ちよくなれそうかを判断するためのキスだとかだった。相手の好意を受け入れる要素のまるでない態度を見せてしまった。
 ボロボロと溢れだす涙を拭おうと目元に指先を触れさせれば、嫌がるように首を振って、こちらが躊躇ったすきに両腕を持ち上げ、目元を隠すように顔の前でクロスさせる。
「触らないで」
 先程の憤りのある叫びと違って打って変わって、漏れた声は掠れた呟きだった。
「でも俺はお前に触れたいよ。抱きしめて、キスして、好きだって言いたい」
 行き場をなくしていた指先を、隠されていない唇にそっと押し当てる。小さく震える唇を、撫でるように指先を滑らせた。
 指の下、微かに唇が動く。多分ヤメテと言いたかったのだろうそれは、けれど結局、音にはならなかった。
「今から抜くけど、頼むから、逃げるなよ」
 そう声を掛けてから、ゆっくりと腰を引いて彼の中からペニスを引き抜いていく。そうして繋がりを解いてから、まずは好きだよと告げながら軽いキスを一つ落とした。相手は無言で無反応だったが、気にせず隣に側臥し、相手の体へ腕を乗せてそっと力を込めてみる。嫌がる素振りがなかっただけで、今は十分だった。
 暫くそのまま黙って、相手の呼吸に意識を向ける。先程、口でイカせた後と同じだが、散々泣かされて涙が枯れかけているか、それとも泣くことに慣れてしまったのか、しゃくりあげるような様子はなかった。
 それでも相手が落ち着くための時間を十分に置いてから、そっと口を開く。
「お前に嫌われることはあっても、好きになって貰えることはないって思ってた。だから対応を間違えた。お前が俺を好きだと思ってくれるなら、それは本当に、嬉しいんだよ」
 俺と付き合わないかと続けたら、すぐさま絶対に嫌ですとはっきりきっぱり断られて、思わず小さく笑ってしまった。否定であっても言葉が返ってきたのが嬉しかったし、ボロボロと涙を流す姿を見てしまっていたから、多少涙声ではあるものの断固拒否の強気な姿勢になぜかホッとしたのもある。
「もし抱いてくれた相手を好きになれたら、そのまま付き合う気があるって、お前、言ってなかった?」
「あなたは、別」
 そこに嘘はないだろう。自分自身、そう聞いていたのに、それが自分にも当てはまると思ってはいなかった。それは彼のそういった気持ちを、彼の態度や様子から正しく受け取っていたからに他ならない。
「なんで俺だけダメなの」
「十も年上のオッサンが恋人とか嫌です」
 兄の元カレだからと言われるかと思っていたのに、最初に言うのはそれなのか。
「ヒデェな。というかお前、紹介する相手の年齢気にしないって言ったろ。後、十は離れてないから。ギリギリ一桁だから。ついでに言うなら二十八はおにーさんの範囲だから。で、正直なところはどーなの? 兄貴の元カレはダメ? 兄弟ってのをひとまず置いといて、過去の恋人と較べてどうこう言ったりしない程度の誠実さはあるつもりなんだけど」
 言いにくいのかと思って自分から聞いてみた。
「あいつだって、本命とうまく行ってるらしいし、お前が俺と付き合うことにしたからって、文句言ったりしないだろ?」
「そうじゃなくて、だって……」
 言葉を選んでいるのか、迷っているのか、続く言葉はなかなかない。続きを促す代わりに、じっくり考えていいからちゃんと本心を教えてくれと頼めば、ゆっくりと目元を覆う両腕が降ろされ、向き合うように相手も側臥に体勢を変えてきた。

続きました→

 
 
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