別れた男の弟が気になって仕方がない24

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 散々泣いて真っ赤な目元に、またうっすらと涙が滲んでいく。
「ご、ゴメンっ」
 慌てて目元へ伸ばした手は払われて、顔を見られたくないようでフイと横を向いてしまった。
 その後は懲りずに伸ばす手を嫌がるように、闇雲に腕を振り回してくる。その腕をかい潜って相手に触れようとするが、これがなかなか難しい。無言の攻防は、結局相手が諦めたように腕を下ろすまで続けられた。
 ギュッと目を瞑り、肩を震わせ細く息を吐き出す相手の頭に手を置き、髪を梳くようにそっと撫でる。
「今のは俺が悪かった。ビックリしすぎて、無神経なこと言ったよな」
 もう一度ゴメンと伝えても、相手に反応は殆どなかった。まるで今にも声を上げて泣き出してしまうのを、ギリギリこらえて居るようだ。
「もし、本当に俺を好きだと思ってくれてるなら、嬉しいよ」
 相手は辛そうに震える息を浅く繰り返している。宥めるように、何度も髪を梳いて頭を撫でた。それを嫌がる素振りはなかったものの、だからといって受け入れられているのかはわからない。そのまま泣き出すでもなく、何かを語ることもなく、ただただ辛そうに黙り込むその姿からは、彼が何を考え思っているかはわからなかった。
「お前が俺を好きなら、俺たち両想い、だな」
 両想いだなんて言った所で、喜ぶ反応があるとは思っていない。こちらの気持ちなんて求められていない。なんせ、行為の終了を認識した彼の最初の言葉は、ちゃんと忘れてくれだった。
 それでもここまで言えば、さすがに何かしら反応はあるだろうと思っていた。
 ふざけた事を言うなでも、嬉しいだなんて嘘を吐くなでも、なんだっていい。好きだなんて思っていないと、突っぱねてくれたっていい。
 ヒュッと小さく喉が鳴った。とうとう堪えきれずに泣き出したのだろう。結局、泣かせてばかり居る。
 しかし泣き出したと思ったのは勘違いで、喘ぐような呼吸を数度繰り返した後、思いの外しっかりとした声が聞こえてきた。
「っも、抜いて、下さい」
 終わったんですよねと続いた声は苦しそうに吐き出されてきた割に、熱のない冷たい響きをしている。
 本当に失敗だった。あれは聞かせてはいけない、飲み込むべき言葉だった。
「抜いて落ち着いたら、俺と話、してくれる?」
 熱を吐いた後とはいえ萎えきってはいないし、そんなものが興奮を煽るでなくただただ中にとどまっているのだから、この状態が辛いというのは確かにわかる。こんな状況になければとっくに引き抜いていただろうし、今頃はこちらが先にイッてしまったお詫びも兼ねて、彼のペニスを握って扱いて甘い声を上げさせていたはずだ。
 けれど今、相手の言葉に従い離れてしまったら、この子は間違いなく逃げていく。こちらが忘れるを実行する前に、彼自身が既にもう、口走った名前をなかったことにしようとしている。
「話すことなんて、ない」
 告げられたのは拒否の言葉なのに、内心では良かったと安堵していた。本気で逃げ出すなら、従うふりをするべきだった。頷かれ繋がりを解いてしまった後では、今以上に引き止めるのが難しくなる。
 そういった駆け引きなんて、きっと思いつきもしないのだろう。可哀想にと思う気持ちはあるが、狡くて卑怯な大人な自覚はあるので、当然そこに付け込ませて貰う。
「俺にはあるから、付き合ってって頼んでる」
「俺が、何言っても、忘れてくれる。って言った、くせにっ」
 冷たかった声に熱が帯びた。
「今日この場限りで、だろ。まだ忘れるには早い」
「ヘリクツだっ」
「わかった正直に言う。まさかお前が俺の名前を呼ぶなんて思ってなかったんだよ。忘れてやるって前提がガラッと変わっちまったの」
 言えばずっとこちらの視線を避けるように横を向いていた顔を戻し、はっきりと涙の浮いた瞳でギッと睨みつけてくる。
「だ、からっ、優しくされて、一緒に気持ちよくなろうなんて、ヤだった、のに。忘れてくれない、なら、優しくなんて、されたく、なかった。好きだなんて、言いたく、なかったっ。あなたの、名前、なんてっ、呼びたくなかった」
 憤りの篭った叫びのような言葉を吐き、ギュッと目を閉じる。目の端からボロボロっと大粒の涙がこぼれ落ちた。

続きました→

 
 
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