兄と別れさせたい弟が押しかけてきた3

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 彼が怒るのはもっともだとは思う。思うが、こちらにだって言い分はある。
「あいつが他に想ってる相手がいようと、恋人として付き合ってる事実がある以上、当人居ない所で別れ話とかオカシイだろ?」
「別れるからもう会わないって一方的に告げて、その通り会わずに居てくれればそれで良かったんですよ。そういう別れ方だって、ありだと思いますけど」
「あのね、俺はあいつが可愛いの。大事にしてんの。別れるにしたって、そんな一方的に捨てるみたいな真似、絶対したくないんだってば」
 言えば驚いたように、別れるんですかと聞いてくる。別れを受け入れる気がないから本人を呼びつけたと考えていたのだろう。
「一応そのつもり。だってあいつの本命があいつに振り向いてんだろ? それにお前の本気も見せてもらったしな」
 その本命と思われる相手が、あの子の幸せのためにとここまでしているのだから、間違いなく別れた後であの子は幸せになれるだろう。恋人ではあったけれど、叶わぬ恋を抱えて苦しむ心を慰めるような関係から脱していないことは、自分自身よくわかっている。恋人となった今もなお、あの子の一番は出会った時からずっと変わらぬままだった。
 だから自分の役目はここで終わりだ。
「心配しなくてもちゃんと、お前の目の前で別れ話をしてやるよ。だから脱衣所戻って服着ておいで」
 こんな会話をしている最中もチャイムはガンガン鳴り続けていた。携帯はリビングのテーブルの上に置いてきてしまったが、多分そちらも鳴りまくっているだろう。
 ほら起きてと、未だベッドから起き上がる気配のない相手の腕を取って、半ばむりやり引き起こす。起きるのを渋っているのは、兄と顔を合わせたくないからだということもわかってはいたが、さすがにこれ以上ドア前で苛立ちを募らせているだろう相手を待たせたくはなかった。
「引き伸ばしたって、あいつが諦めて帰るわけないし、お前がやったことももうバレてんだぞ? 俺に抱かれる代わりに、兄貴に怒られるんだとでも思って諦めろって」
 言えば大きなため息と共にわかりましたと吐き出し、ようやく立ち上がって歩きだす。
 一緒に寝室を出て、相手が脱衣所の扉を閉めるを待って玄関の鍵を開ければ、こちらが押し開くより先に扉が勢い良く引かれて、怒りで顔を赤くした恋人が無言で乗り込んできた。
 これは相当怒ってるなと内心苦笑しながら、勝手知ったると上がり込んで真っ先に寝室へ向かう恋人の背中を追う。
 寝室のドアを開けて乱れた空のベッドをしばらく見つめた後、次に向かったのはリビングだった。しかしそこでも目的の人物の姿を見つけられなかった恋人は、そこでようやくこちらを振り返る。
 おだやかな付き合いだったから、怒った顔なんて見るのは今日が初めてだった。似てない兄弟だと思っていたが、怒りを湛える目はそっくりだ。
「あいつはどこ? まさか帰したの? というか絶対食うなって言ったのに、ベッド使った形跡あったのどういうこと?」
「まぁちょっと落ち着けよ。玄関に靴あったろ。今、脱衣所で服着てるとこだから」
「それ聞いて落ち着けるわけ無いだろっ」
 直前まで脱いでたってことじゃんとますます憤る相手に、こちらは苦笑を深くするしかない。
 大事な用事をほっぽり出して駆けつけて来たことも含めて、弟のことが心配で堪らなくて、それ程に大事で仕方がないのだと、そう言われているも同然だ。
「お前がそんな怒ってたら、さすがに出てこれないだろ。というか、お前を呼んだのは俺との別れ話をするためで、あいつを引き取れってのはオマケみたいなもんだからな?」
「てことはやっぱ、俺がダメって言ったのに、あいつを抱いたんだな」
 経緯はそれなりに知らせてあったし、乱れたベッドを見たことでそう思い込んでいるんだろう。
「抱いてないよ」
「でも脱いでベッド使ってる」
「ちょっと指で弄ってただけ。まぁお前にしたらそれすら許せないと思うかもだけど、向こうは本気で俺に抱かれる気で居たからな。俺に抱く気がなかっただけで、そこまでしてもお前と別れて欲しいって覚悟は、見せてもらった」
「だから俺と、別れるの?」
 一転して泣きそうな顔をする。多少なりとも別れを惜しんでその顔ならば嬉しいなと思った。

続きました→

 
 
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