別れた男の弟が気になって仕方がない30

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 確かに嫌がる相手を抱くことはしないし出来ない。ただ、言いくるめてその気にさせて、もう一度抱くことは出来そうな気もする。抱きながら快楽で押し流すようにして、恋人になってと頼みこんで頷かせることもだ。
 問題は、そうやって頷かせた所で、本人が納得しなければ結局は逃げられてしまう気がする点だ。もう一度抱くことでこちらの本気が伝わったとしても、彼が危惧して嫌がったことをそのまま成してしまったら意味がない。下手したらかなりのマイナス評価で、せっかくの好意が嫌悪に変わる可能性だってある。
 そもそもその好意だって、本当はまだ随分と淡いもののような気がしている。
 好きだという想いそのものを疑う気はない。けれど相手は、聞かなかったことにして欲しい、知ったからと恋人になる必要はないと言って逃げ腰だ。恋人にならないかという誘いにこれ幸いと乗ってこないのは、きっとそこまで強い想いではないからなんだろう。
 本当にこの一度きりで終わりにしても、さして胸が痛むこともなく、消えてなくなる想いなのかもしれない。
「お前にとっては、俺に恋人になれって言われるのは、困るばっかりで欠片もチャンスじゃない?」
「なんの、チャンスですか」
「お人好しで不安だとか、俺の好きが信じられないとかで、叶うかもしれない恋を自ら諦めて手放しちゃうの? って聞いてる。心も体も求める相手が、自分を好きになってくれない事も多い。ってのは、お前が自分で言ったんだからわかってるだろう?」
「あなたの好きがなんであれ、好きって言ってんだから四の五の言わずに恋人になれ、ですか?」
「お前がそれで頷いてくれるならそれもありだけど、ちょっと違う。お前の恋愛経験知らないけど、今のこの状況、俺がお前を逃がせないなと思う以上に、お前にとって、またとないチャンスだと思うんだよな。って話。好きになった相手に交際相手が居なくて、気持ちよくなれるセックスが出来て、しかも恋人になりたいと言ってくれる。ってのが揃うことなんて、かなり稀なことだと思うけど。ここで逃げたら勿体なくない?」
 別に勿体無いなんて思わないと言われてしまったら、さすがにもうお手上げだ。つまりは彼の方こそ、その程度の好きなのだ。
 そう思いながらの質問に、相手はきゅっと唇を噛み締めながら何事か考えている。即答できない程度には、どうでもいい想いではないらしいとホッとする。
「ちょっと聞きたいんだけど、いつから俺が好きだった?」
 彼が答えを出してしまう前に、ついでとばかりに問いかけた。
 自分を好きだなんて欠片も思っていなかった理由の一つに、彼に好意を持たれるようなことをした意識が一切なかったからというのがある。
 そもそも彼と会うのは今日で三度目だ。もちろん、いきなり家に押しかけてきた日と、たまたまラブホ前で揉めていたのを見つけた日と、今日だ。ついでに言うなら、互いの連絡先の交換さえしていない。なんせ男を紹介したときだって、すんなり相手の男を呼び出し引き合わせることが出来たから、後日改めて連絡を取り合う必要がなかった。
 ただ、自分にとってはあの日押しかけられるまで、全く意識されていなかった存在ではあるが、彼からすると違うのだろう。彼は兄から自分のことを色々と聞かされていたようだというのは、話の端々から伝わっていた。
 でも初対面で兄と別れさせたいなら抱かれろなどという、かなりゲスな提案をしてしまっているし、もし彼の兄が好意的な話をしてくれていたってあれで台無しにしただろう。ラブホに連れ込まれそうになったのを助けたり、男を紹介したりはしたが、あの時にはもう彼は抱いてくれる誰かを探していたのだから、いったいどこで好きになられたのか、自分のどこを好きだと言っているのか、実のところさっぱりわかっていなかった。

続きました→

 
 
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